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アマプラおすすめ邦画『バーバー吉野』映画感想~中学生の時にこの映画を観た私へ~

ちょっとマイナーで独特な映画が観たい方、是非おすすめです。
Amazonprimeの方は見放題視聴できるURLを最後に貼っておきますので最後までご覧ください。
『バーバー吉野』は2004年に公開された邦画で『かもめ食堂』や『めがね』最近だと『川っぺりムコリッタ』や『波紋』の監督をされた荻上直子さんの長編デビュー作になっております。

私と『バーバー吉野』に歴史あり

アマプラでこの作品を見つけた時、反射的に再生ボタンを押しました。
この映画個人的に超超思い出深い作品なんです。
私が最初にこの映画を観たのは、地元に新しいレンタルビデオ屋が出来た中学3年生の頃。
私はこのレンタルビデオ屋ができたから映画の世界にどっぷりハマり、十数年経った今でも映画鑑賞が趣味になっています。ここのレンタルビデオ屋がなければ私の人生は別の物になっていた事でしょう。

開店時は開店セールが開催されており、オープン当初はなんと30円で旧作が借りられました。
そこで友達とレンタルビデオ屋で映画を借りて、家で観ようという話になりわくわくしながら訪れましたが、30円という破格の値段で借りられるセール中の為人気作はすべて借りられていました。
そんな時、友達が「これを借りよう」と言いながら持っていたのが『バーバー吉野』です。


おかっぱ頭の少年が野原の上に立っているパッケージを見せつけられ、正直面白そうと微塵も思いませんでしたが友達が「これめっちゃおもしろいよ」と言ってきたため、その太鼓判を信じてレンタルしました。
そして、中身のDVDを抜き取りレジで精算した後、その友達が「まあ、見たことはないんだけどね」と私に向かってへらへらと笑いながら騙したことは今でも忘れません。

この件の後、友達の家でこの映画を観ました。
当時友達含めた私達は映画というものはドラえもんやクレヨンしんちゃんのアニメ映画やスターウォーズなど、子どもでも十分に楽しめる映画しか見たことありません。
一応言っておきますがこの映画はSFでもアクションでもなく、日本のどこにでもありそうな架空の田舎町を舞台にした少年たちの成長話です。

中学生の私が友達と観た時はおもしろいう感想はありませんでしたが、男子小学生を経験した者としてとても共感できる部分があったり、身内でネタとして取り入れる位面白いシーンもありました。
そして、映画が趣味になった社会人の私が改めて観た感想として、そんな中学生の時に観た記憶が蘇り懐かしく感じたのと、やはり盛り上がり所もなく登場人物の感情の起伏も大きい作品ではありませんでしたが、その代わりにとても邦画っぽい居心地がいい映画だと気づかされました。

あらすじ〈filmarksより〉

のどかな田舎町。ここに暮らす小学生の男子は全員バーバー吉野のおばちゃんが手掛ける“吉野ガリ”というおかっぱ頭をしていた。おばちゃんの息子・慶太はもちろん、誰もがそれを当たり前だと信じていたある日、東京からモダンな髪型の坂上君が転校してくる。

https://filmarks.com/movies/36049

吉野がりをした少年達の日常に現れた嵐を呼ぶ転校生

そもそも吉野がりはどんな髪型かというと……

吉野がり

ちなみに、後ろ髪きっちりと刈り上げられています。『吉野がり』と検索してもこの映画の事と『吉野ケ里遺跡』についてしかヒットしないため吉野がりという髪型はこの映画が生み出した髪型でしょう。
近年高校生や大学生の男子の間でよくみられるマッシュにも見えなくもないですが吉野がりは全体的にボリュームがありません。
私が中学生の頃観た時は、髪の毛をワックスもりもり&ツンツンにさせて前髪はM字でキメる感じの髪型が流行っていたので吉野がりはダサいなと思っていましたが今見るとなかなか悪くないのでは!?と思います。

物語の舞台になっている田舎町に住む小学生以下の男子は全員この髪型を強制されています。
何故そんな髪型を強制されているのかというと、この町の山に棲むと言い伝えられている天狗がいて、そいつは時々好みの子どもを狙って連れ去るという悪さをしているため、後ろからでは分からないように同じ髪の毛にするという話があり、また町を見守る神様は嫉妬深い女の神様で、年に1回町の少年達(少女は山の女神が嫉妬深いからNG)で山の女神に讃美歌を捧げるという設定でした。
物語で天狗や山の神を信じて奉ることは神道的で讃美歌を歌うのはキリスト教的であると信仰の矛盾を突っ込んでいるシーンもあり、実際の宗教を元にしているものではないと考えられます。
そんな謎が多い言い伝えににも関わらず町の少年は全員吉野がりをしている不思議さの世界観は『TRICK』や『世にも奇妙な物語』に似ています。

登場人物である小学生4人、ケイタ・ヤジ・カワチン・グッチ(当然4人は吉野がり)はこの田舎町でずっと暮らしています。
このケイタという少年の母親が町で唯一の美容院を経営していて、その美容院の名前がタイトルにもなっているバーバー吉野です。
ケイタの母親は頑なに〈町に暮らす少年は吉野がりにすべき〉という伝統を守り続けており、日々目を光らせ、少年達を吉野がりにし続けます。

放課後になるとケイタ達は秘密基地に行ったり、吉野がりをしてもらうために美容院に集まって遊んでいました。
この小学生同士の何気ない会話が私が『バーバー吉野』で一番好きなところでもあるんですが、本当にくだらなくて面白いです。

胸の発達のはやい同級生の女の子が4人全員好きでも、それを打ち明けられずに「お前やっぱり上杉さんのことが好きなんだろ~」と煽り合いをしているところや、う〇こをよくするヤジに向かって「またう〇こしてんのか!」「こいつほんとよくう〇こするんだよ」と馬鹿にする感じがコロコロコミック系小学生過ぎて今でも笑えます。

そんな吉野がりが当たり前の町で楽しく過ごす少年の前に現れたのが東京から越してきた転校生の坂上君です。
坂上君を加えた5人が物語のメインキャラクターとなっています。
坂上くんは髪が茶系のモダンな髪型をしており、当然町ではそんな少年は異端児で最初はケイタ達も「吉野がりにすれば俺達の仲間にいれてやるよ」と煽りながらも同級生として心配しますが「そんな髪型絶対嫌だ」と拒否をします。

ケイタ達にとってはませた小学生で、学校で唯一吉野がりではない髪型をしているため女の子からモテます。
なので、ケイタ達は坂上君を受け入れていませんでしたがあるきっかけで仲良くなります。
それはエロ本です。この作品、キーアイテムはエロ本です。

坂上君が転校する前の4人は町に落ちていたエロ本の袋とじをどきどきしながら開封してみても馴れていないために失敗して結局読めずに落ち込むことを繰り返していましたが、坂上君が現れ引っ越した際に父親が捨てたエロ本コレクションをくすねてきたとケイタ達に見せることで「お前は今日から俺達の仲間だ」とお墨付きをもらいます。
現代ではパソコンやスマートフォンがあれば小学生でも簡単にエロが手に入るようになってしまいましたが当時は紙媒体を親の目を盗んでみるしかありません。
思春期に入る前の小学生がエロに興味を持つその描写やエロで仲間意識を持つ様子はとてもリアルで面白いです。

私がこの映画で昔から特に好きなシーンがありまして、坂上君のおかけでエロ本を大量に目の前にしたケイタ達は秘密基地でエロ本を興味津々に読み始めます。
しかし、グッチという男の子だけ「こんなの駄目だ、不潔だ!親に怒られる」と憧れのエロ本を目の前にして目を塞ぎます。当然、そんなグッチの忠告は無視をして他の少年たちは読み進めます。
そして、何度も忠告するしつこいグッチに対してケイタ達グッチを邪魔に思い、手を叩きながら「帰れ~帰れ~」とコールし始めるのです。
煽られたグッチは「もう、お前ら何があってもしらないからな!」と勢いよく秘密基地を飛び出すシーンがあるんですが、このシーンが面白すぎて中学生の頃友達と何か意見が食い違うとこの件を再現して笑っていました。

本当に懐かしいです、最近この映画を観た時もそんな中学生の頃の思い出が昨日のように蘇りました。
ちなみにその後、一度エロ本を拒否したグッチがどうしてもエロ本を読みたいと、あることを実行してそれからある事件に繋がるのですが、その件もとても面白いです。

伝統を守る町に住む大人達と伝統を疑問視し始める少年達

坂上君は髪の毛を吉野がりにしなくても段々と一緒に学校生活を送ることで仲良くなっていきます。
そして、段々とケイタ達もどうして吉野がりをしなければいけないのかという疑問を持ち始めます。
何よりモダンな髪型をしている坂上君がちやほやされて、大人たちに注意されても髪型を変えない自由な坂上君が羨ましいのです。
異性の事を気にして外見を気にするという思春期の一歩目を踏み出したケイタ達は脱吉野がりをしようとついにバーバー吉野以外の美容院に行こうと隣町に出かけます。
隣町まで少年達だけで出かける、まるで死体を探しに線路を歩くスタンドバイミーですよね。
実際この映画のレビューを見ても『和製スタンドバイミー』と評価している人が多かったです。

そして、ケイタ達はそこで髪型を変えることができたのか……残念ながらまだ脱吉野がりをすることができません。
隣町の美容院の値段は高く、ケイタの母親がいかに良心的な価格で髪を切ってくれていたのかをケイタ達は思い知らされます。
町の唯一の美容院が吉野がり一択しかないのはよく考えたら小学生にとって非常に可愛そうですよね。
さらには隣町の小学生から「あの髪型隣町のやつだぜ」と後ろ指を刺されて馬鹿にされます。

ここまで子ども達の視点から話していましたが、大人たちが吉野がりを推奨してこだわる理由は「伝統だから」この1つです。
山の神や天狗といった町に伝わる言い伝えを信じて少年を守るために吉野がりをする、さらには町の住民は吉野がりの少年を見て「うちの住民なんだ」と認識することが出来る。

この地域の共通認識が町の安定と信頼に繋がっているわけで、それを乱す坂上君は不良という扱いをします。
ケイタの母親は町内放送で「みんなで守ろう町の自然と伝統」とアナウンスすることで洗脳している様にも観ている側にとっては感じられてとても不気味です。
美容院のおばちゃんであるはずのケイタの母は誰よりもあの町で権力を握っている存在にも思えました。

ケイタの母親について

ここまでケイタの母親について悪く話していましたが、悪女ではなくどこにでもいる面倒見のいい母親です。
演じているのはもたいまさこさんです。
この女優さんについて私が知ったのは『バーバー吉野』からですがその当時から現在まで髪の毛を後ろに束ねて黒縁眼鏡をしている見た目をしていて本当に変わらないなあと思います。
この作品でもたいまさこさんがカメラに収まるとすごく場面が穏やかになります。
ケイタ達だけで話しているパートは子どもだから同然ですが、少しテンポが速く落ち着きのないシーンになります。
しかし、そこにもたいまさこさんが加わると一気に場のテンポが落ち着き、全体を落ち着きのない小学生を調和しているのです。
一人の役者の存在でここまで画面の雰囲気が変わるのかと最近見た時に驚かされました。
それがよく分かるシーンが美容院で髪を切っている時にケイタ達が店に訪れるシーンでよく分かると思いますので是非ご覧ください。

『バーバー吉野』まとめ

吉野がりという伝統を守る大人と脱吉野がりを目指す少年たちの戦い、戦いと言っても親と子の対峙がテーマにもなっている最近話題で完結したばかりの『機動戦士ガンダム水星の魔女』のような大きな戦いや、葛藤はないのですがラストシーンでケイタがケイタの母親に想いを打ち明けるシーンは心に残ります。

少年の成長や、町の伝統を変える難しさ、また大人の考えに子どもが反抗する勇気と大人の考えに屈してしまった子どものくやしさが痛々しく表現された素晴らしい映画です。
最後にこの映画のとても好きなセリフを紹介します。
「これも時代の流れ、伝統はいつか伝説になる……」
言葉遊びの様な気もしますがとても好きです。


Amazonprime会員の方は無料で視聴できますので是非ご覧ください!



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