教頭先生の「毛布作戦」が助けてくれた
「子持ち様論争」がSNSを賑わせています。親がわが子の病気や学校行事などで仕事を休んだり早退することに対して子を持たない人からの不満が噴出し「論争」となってようです。私も仕事をしながら二人の子どもを育てましたが、仕事と育児の両立はやはり大変でした。特に子どもが病気したときは夫と私のどちらが仕事を休むかで言い争いになることもありました。そんな中で忘れられない出来事があります。
娘が小学校1年生の時でした。風邪をひいて熱もあったので学校を休ませました。でも教員の私は午前中にどうしてもやらねばならないことがあったので休めませんでした。夫も休めないためやむを得ず娘を一人家に置いて出勤しました。同僚に頼むこともできないわけではありませんでしたが何となく気を遣ってしまいました。小学校に入学したばかりの具合の悪い娘を一人で家に残すのはすごく不安でしたが、仕事を済ませたらすぐに年休を取り、家に帰るつもりで出勤しました。娘にはお昼までには戻るからと言い、何かあったら学校に電話するようにと学校の電話番号を書いた紙を渡して家を出ました。携帯電話はまだなかった時代です。新年度が始まって間もない4月の初めでした。
学校では教頭のK先生に事情を話し、午後は年休を取ると伝えてすぐに仕事に取りかかりました。別室での作業を終えて職員室に戻った時です。K先生が私にこう言いました。「さっき娘さんから電話があってね。『お母さんいますか』って言うから『今お仕事中だけどどうしたの』って聞いたら泣きそうな声で『わたし寒いの』って言うんだよ。4月だけどたしかに今日はちょっと寒いよね。だから『毛布がどこにあるかわかる?』って聞いたら『わかる』って言うから『じゃあ毛布を頭からすっぽりかぶって待ってるといいよ。もう少ししたらお母さん帰るかね』って言っておいたよ。娘さん一人で心細かったんじゃないの?早く帰ってあげなさいよ」と。K先生はさらに「子育てしながら働くのは大変だよね。ぼくも共働きだからよく分かるよ」と言われました。
私はK先生にお礼を言ってすぐに学校を出ました。帰宅すると娘は寒い部屋で頭から毛布をすっぽりかぶって私を待っていました。K先生に言われたとおりにしていたのです。私は思わず娘を抱きしめました。そしてK先生に心から感謝しました。
娘の突然の電話でK先生は戸惑われたと思います。小学校1年生の子どもに電話で「わたし寒いの」と言われても困るのが普通です。それなのにK先生は温かく対応してくださいました。先生の「毛布かぶり作戦」は子を持つお父さんならではの心のこもったアドバイスだったと思います。娘は翌日には熱も下がり元気に登校しました。私がK先生にお礼を言うと先生は笑いながら「子ども電話相談室の回答者のような気分だったよ」と言われました。K先生には何十年経った今も感謝の気持ちでいっぱいです。
昨今の「子持ち様論争」を聞くと子を持つ人の言い分も持たない人の言い分も理解できます。でも、現状はどちらにとっても働きやすい環境から程遠いです。「休むのはお互い様」という雰囲気が醸成されている職場であっても、常にしわ寄せを受ける人がいれば不公平感を抱くでしょうし、休む側も気兼ねして無理をすることがあるでしょう。私はK先生の温かい対応に救われましたが、「子もち様論争」は同僚の理解や職場の温かさで解決できる(すべき)問題ではなく、制度的な対策が急務だと感じます。「子持ち様」などということばがまずなくなることを願っています。
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