シャーデンフロイデ、シャーデンフロイデ…
これは、私の担当利用者様と
私との会話の一部始終である。
※ここで出てくる名前は全て仮名です。
あるユニットスタッフが彼女を連れて施設内をお散歩していた。
「大泉さん、まだご家族様は来てないみたいですね。また時間を見てきてみましょうか。」
「そうねぇ。でも、私は荷物をまとめてここを出る準備をしなきゃいけないのよ。」
俗に言う″帰宅願望″である。
「大泉さん、今日は熱中症注意報が出てるから外に出るのは危険だと思いますよ。」
「駅までタクシーに乗れば大丈夫てしょ?」
「あなたも着いてきてくれるんでしょ?」
やや、険しくなる表情に私はある事を懸念する…
荒れる…
、、、そういう時の予想は当たる。
そして、事務所の前に来た時、事件は起こる。
「あなたに言っても何にも変わらない!
脚も痛いし、、、。
責任者呼んで!ほら、あそこにいるじゃない!
お兄ちゃんが!」
、、、お兄ちゃん?
施設長は私の約2倍の年齢だから…
お兄ちゃんとは、僕だ…。
僕の仕事はリハビリ。
今は事務所で計画書作りをしなければいけない時間……
「いいよ、事務所に案内して。伊賀くん、少しお相手してげて。」
、、、出た良い施設アピール…
そんな気持ちを隠すように…
「良いですよ、大泉さん。脚痛いって言ってたから、マッサージしながらお話聞きますよ。」
…と満面の笑みで答えてしまう僕…。
大泉さんは家に帰りたい話を
硬い表情とこわばった声で
僕に切実に訴えてきた。
脚の痛みは筋肉痛
理学療法士歴15年目の手には
硬くなった大腿四頭筋の腱と
それによって動きが悪くなった膝のお皿
がハッキリと伝わってきた。
幸い僕の手は温かい。
そして、硬くなった筋肉を解すのにも
自信がある。
「お兄ちゃんは優しいね。」
そう、不穏は消えかけていた。
「お兄ちゃんは奥さんいるの?」
「僕は7年位前…奥さんには逃げられました。」
かろうじて合っていた彼女の目線が、はっきりした。
「……何で優しい貴方が奥さんに逃げられるの?」
……もう帰宅願望も脚の痛みも、
そしてせん妄も…
全て消えたのが分かった。
最初は適当な理由を言っていたが、
「それにしても…」に続く何故?
「やっていた会社が潰れたからなんだよ、、、。」
ついに真実を話す僕は、その時彼女の右口角が上がったのを逃さなかった。
「お金が無くなったら仕方ないわね。」
…いや、仕方ないんかい!
てか、あなた…
結構楽しんでるじゃないか!
人の不幸は蜜の味(笑)
「お兄ちゃん、私のお姉ちゃんを紹介しようか?…まぁ、私90(歳)だけど。」
そして半笑いの彼女から出たまさかの提案。
見当識障害は!?
てか、、、
昨日まで自分の歳分からなかったじゃん!
そんな彼女の上がった右口角からはよだれが…笑
…ブラックが過ぎるよ…
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