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愛がなければ無に等しい(第一説教集6章2部試訳) #33 

原題: A Sermon of Christian Love and Charity.  (キリスト教徒の愛について)

※タイトルと小見出しは訳者によります。
※原文の音声はこちら(Alastair Roberts氏の朗読です): 


第1部の振り返り

 愛を強く奨励するお話をしました。愛がどれだけ大切で恵みのあるものであるのかをお話しました。みなさんは愛が神のみならず、友や敵の隔てなくすべての人に対してどのように向けられるものであるのかということを、キリストが実際に語られた言葉による教えから知りました。またどのような人が完全な愛の中にあるのかどうかを確信できるのかも知りました。さて、これらのことを踏まえて続きの話をきいてください。

キリストは「敵を愛せ」と教えられた

罪によって堕落し神の御言葉と御恵みから離れた邪な本性によって、人間は敵を愛することを理に適わないものと考え、敵を憎むということを当然のものであるとしてきました。そのような思い込みすべてを打ち消すべく、わたしたちは救い主キリストの生き方とその教えを心に置かなければなりません。キリストはご自身に敵意を向けられても、「敵を愛せよ」とわたしたちに示され、わたしたち人間を愛してくださりました。キリストはわたしたち人間にかわって耐え忍んで恥辱を受けられ、苦しめられて残酷な刑死を受けられました。わたしたちはキリストに倣わなければその肢体とはなりえません。聖ペトロは「キリストもあなたがたのために苦しみを受け、その足跡に続くようにと、模範を残されたからです(一ペト2・21)」と言っています。

敵を愛してこそのキリスト教徒

 さらにわたしたちは、友を愛するということが盗人や姦淫をする者や殺人を犯す者など、あらゆる邪な者たちでさえもがしていることであるということに思いを致さねばなりません。ユダヤ人やトルコ人などの異教徒をはじめ、あらゆる野蛮な部族までもが友を愛して共に生きることで互いに利益を得ています。しかし敵を愛するというのはキリストの信奉者である神の子のみができることです。堕落し腐敗した本性ゆえに、人間は自身の敵から受けた不快な事柄を実際の何倍も大きく重く感じますので、自身を憎む人を愛するというのは想像もできないほどの重荷です。しかし一方で、相手に対して自身もどれだけの悪をなしてしまっていて、もう一方で、どれだけの善を相手から受け取ってもいるのだろうかと考えれば、その重荷はとても軽いものになるはずです。

神の愛に照らして敵を赦し愛せ

ただそこに同等のものがないということも、つまり敵から善きことを為されてもおらず自身の敵に対して悪を為してもいないということもあるかもしれません。そしてそうであるならば、そもそもわたしたちが全能なる神に対して為している不敬について、つまりどれだけ日常的に大きくわたしたちが神に不敬な行いをしているのかについて考えてみましょう。不敬を為していてもわたしたちは神の赦しを得ています。神に対してわたしたちが為している不敬に比べれば、わたしたちが敵から受けている不快な事柄などはるかに小さいのですから、それを赦さない道理はないでしょう。わたしたちに対して悪を行う人を赦せないと思うならば、そもそもわたしたちが神に赦されるにはとうてい値しないものであるということに思いを致しましょう。わたしたちの尺度では赦すに値しないとしても、わたしたちは神の愛に照らしてその人を赦すべきです。自身の功績によるのではなく、キリストがわたしたちのために価となったことによる神の御恵みがどれだけ大きくあまたであるのかをみて、相手がわたしたちに対して為した不法を赦すべきです。

判事の裁きはと愛は矛盾しないか

 しかしここで解決しなければならない大切な疑問があります。愛について考えてそれを口にすることによって善なり悪なりすべての人間に対して善きことが為されるというのに、その愛がありながら、判事が罪人や不法を行った人々に刑を言い渡しうるのはなぜでしょうか。法に基づいているとはいえ、判事が悪を行った者を牢獄に入れて所有物を取り上げ、時には命さえ奪うことがあるのはなぜでしょうか。愛があるならば、彼らをそのように苦しめないだろうにです。これに対してわかりやすく端的に答えるならば、そもそも災厄や罰というものは、決して歓迎され喜ばれるものではないとはいえそれ自体が悪なのではないということになります。特に悪をなした人については、罰は善でありなおかつ必要なものです。愛によって刑を言い渡されて愛をもって刑が執行されるべきです。

愛の働きその1~善を奨励する

 この上に立ってみなさんには、愛には二つの働きがあるということを知ってほしいのです。この二つは互いに対極にあるものなのですが、それでも人々に対して正反対の性質をもって働くものとして共に必要なものです。愛の一つの働きは、善にして他者に害をなさない人々を大切に育てることです。故意に真実を誤って伝えることなく、むし褒賞をもって善きことをするようにさせ、それを続けさせて剣をもってその人々を敵から守ることです。主教や司祭の役目は、善き人々を褒めて善きことをすることに向かわせてそれを続けさせるようにし、あらゆる悪をもった人々の行いを神の御言葉によって戒めて正しくすることにあります。

愛の働きその2~悪を罰する

愛のもう一つの働きは、あえて敬意を払うことなく悪を戒めて正して罰することであり、これは罪人や不法を行った悪しき者たちに対してのみ向けられます。愛の働きが善にして他者に害をなさない人々を大切に育てて褒賞を与えるということに加えて、悪しき者たちを戒めて罰して正すことでもあるということについては、聖パウロが『ローマの信徒への手紙』のなかで「神によらない権威はなく(ロマ13・1)」「支配者が恐ろしいのは、人が善を行うときではなく、悪を行うときです(同13・3)。」「権力はいたずらに剣を帯びているわけではない(同13・4)」と述べています。またテモテには「罪を犯す者は、皆の前でとがめなさい(一テモ5・20)。」と命じています。

説教者は言葉で為政者は剣で悪と戦う

愛の働きは二つとも誠実になされるべきです。説教者は言葉をもって、為政者は剣をもって、悪魔の国と戦わなければなりません。さもなければ、神も統べる民も愛さないことになります。正しさがなければ、神が汚されるのも統べる民が苦しむのもよしとすることになるのです。わが子が過ちを犯したとき、愛のある父ならばそれを正すでしょうし、愛がなければそうはしないでしょう。同じように、国や地域や町や家を統べるすべての人々は、神の務めへの敬意を持ち、その統治の下にある人々への愛を持っているのなら、その中で悪をなす者たちを愛をもって正し、悪を行わずに生きる人々を大切に育てるべきです。

悪は戒められ罰せられるべき

悪を行う者たちをそのように戒めて罰することは、必要な時に為されなければなりません。時機を逸すればその者たちはあらゆる過ちの中に真っ逆さまに落ち、その者たち自身が悪となるだけではなく、その悪しき行いを見せてしまうことによって他の多くの人々を罪や非道に引き込み堕落させてしまいます。盗人が一人いればたくさんの人々が物を奪われることに加えて、多くの人が盗人になってしまいます。扇動的な人が一人いれば多くの人が誘惑されて町や地域すべてが悪いほうに向かってしまいます。神と国家への反逆者であるそのような悪しき者が国家の身体から愛を切り離し、他の善良で誠実な人々を堕落させます。名医は腐って爛れた部位を切り除くとき、それが体のなかで隣り合う部位に影響を及ぼさないように愛をもって切り除きます。

愛がなければ無に等しい

 はっきりと言いましょう。キリスト教的で真なる愛はとても明瞭ですので、誰も欺かれることはありません。誰もが持つこの愛は、すべてのものにまさって愛を向けられるべき神にだけ向けられるのではなく、友人も敵も含めた隣人すべてに対しても向けられるものです。そうすることによって、神への敵対者にも人間への敵対者にもなることはなくなります。このことをしっかりと心に留めてください。真のキリスト教的な愛をもって神はすべてのものにまさって愛されるべきです。また、善き人も悪しき人も友も敵も、すべての人々が愛されるべきです。わたしたちは愛することのできるすべてを愛して善を行うべきです。善き人とは奨励され大切にされる愛を持っているゆえに善き人であるのです。正しさと必要な罰を求める愛があれば、悪しき者たちはそれによって善なるところに導かれます。そうすることで少なくとも神も国家も貶められ損なわれることはなくなります。

結びの祈り

キリスト教的な愛をもって生を送れば、キリストはわたしたちが天なる父の子となって御心に和解させられ、ご自身の肢体となることを約束してくださります。いまあるこの束の間の肉的な生のあとに、わたしたちは永遠なる天の国をキリストと共に受けることになります。キリストと、父なる神と、聖霊とに、いまもこれからもとこしえに、すべての誉れと栄えがありますように。アーメン。


今回は第一説教集第6章「キリスト教徒の愛について」の第2部「愛がなければ無に等しい」の試訳でした。これで第6章を終えます。次回は第7部「誓いについて」第1部の解説をお届けします。最後までお読みいただきありがとうございました。

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