すーぱーじゅげむ

読書メーターに投稿しています。もっと語りたい! もっと脱線したい!と思った分を書こうと…

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読書メーターに投稿しています。もっと語りたい! もっと脱線したい!と思った分を書こうと思います。

最近の記事

テキヤの東大生『香具師の旅』田中小実昌

作者の田中小実昌さんは東大中退。彼の作品は私小説よりで「ぼく(おれ)≒作者」と考えてOKらしい。 変わった人だなぁ。 怠け者だけれど、東大に籍があって、「バナナのたたき売り」に憧れて香具師になる。作品中には他に、進駐軍のレストランの皿洗いバイト、小さな劇場の裏方など、かなりやわらかい(そしてやくざな)仕事をしている。食うために、英語の探偵小説・少女小説の翻訳もやってます。 香具師になるにはやくざに挨拶をしなければならないのだけれど、 商売上の能力が高くても 「でもお前は

    • これが私小説って切ないよ……『鹽壺の匙』車谷長吉

      「しおつぼのさじ」「くるまたにちょうきつ」と読むみたい。 私小説ということを前面に出していて、 「私小説は救済であり悪」 と言っている。 これが私小説なら……かなり厳しい人生だと思う。とくに幼少期。 悪かもしれないけど、関係者にはいろいろ言われるだろうけど、(登場人物も、めっちゃクレーム入れてくる性格に見える) これは、吐き出さないと辛いよ……と思うエピソードがたくさん。 救済されたほうがいいよ。 エピソードの衝撃度とは別に、小説としての完成度がとても高い。 ===ネ

      • 2023ピューリッツァー賞、オバマ元大統領の2022ベストブックのひとつ『トラスト』エルナン・ディアズ

        大富豪・天才投資家夫妻のストーリー。 代々金融業の夫(アンドルー)と、外国にルーツを持ち、両親の都合で放浪してきた妻(ミルドレッド)。 夫はウォール街で成功し、妻は芸術と慈善事業を愛する。 妻が病気療養のためスイスへ行き、間もなく亡くなる。 ……までは、共通の事実、のはず。 第1部『絆』・・・妻が亡くなってすぐ書かれた、夫妻の暴露本っぽい小説。 第2部『わが人生』・・・夫(アンドルー)が『絆』への逆襲として書いた自伝。 第3部『追憶の記』・・・『わが人生』をほとんど代理で執

        • こんなに強くてカッコいい類人猿『ゴリラ裁判の日』須藤古都離

          主人公は手話ができるゴリラのローズ。 手話ができることを珍しがられて、カメルーンのジャングルからアメリカの動物園にやってくる。 ある日、柵の内側に落ちてしまった男の子の安全を守るため、夫のゴリラが射殺される。 自分の夫が何もしていないのに射殺されることはおかしい、ローズは裁判を起こし、動物園を訴える。 このヒロインが賢く、強く、かっこいい。 言葉を覚えたことにより知性が発達したというけれど、私より賢い気がする。 次のステップへの切り替えの早さとか。 話せるゴリラのキャリア

        テキヤの東大生『香具師の旅』田中小実昌

          東大行きたくなった『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』遙洋子

          2000年発行で20万部以上売れた、大ヒット本。 面白かった! 大阪で活動するタレントの遙さんが、東大の上野千鶴子ゼミでフェミニズム(ケンカではないですよ)を学んだ3年間のエッセイ。 まずは、専門用語だらけの論文を段ボール1杯分渡される(英語論文含む)。 分からないところは質問すればいいじゃん、と簡単に言うけれど、難しすぎて何が分からないのかも分からない。 教室に上野先生が入って来ただけで雰囲気がピリッとし、大抵の発表役の生徒はコテンパンにやられる。 なーんか。懐かしい

          東大行きたくなった『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』遙洋子

          かわいいばーちゃん『私の中のアリスの世界』森茉莉

          森茉莉は、森鷗外の長女。おもにエッセイストとして知られている。 鷗外は子供たちにキラキラネームをつけていて、於兎(オットー)、茉莉(マリー)、杏奴(アンヌ)、不律(フリッツ)、類(ルイ) 茉莉さんも息子に「ジャック」と名前をつけたことをこの本で知った。 エッセイを読んで感じた。 茉莉ちゃん、カワイイ。 少女がそのままオバチャンになったみたいだ。本人もそういったことを書いている。 美意識(西洋の生活用品が好き)、父鷗外について、交流のあった作家たちのこと、短く簡潔にまとめ

          かわいいばーちゃん『私の中のアリスの世界』森茉莉

          カルト宗教の構造『統一教会 性・カネ・恨から実像に迫る』櫻井義秀

          筆者は宗教社会学の教授ということで、 これはいいけど、あれは問題がある というラインがマスコミや世論と違っていて、ある意味公平。 本で読めてよかったなと思った。 信仰の自由は憲法で保障されている。個人がどんな宗教を信じても自由である。だが宗教側も信者や勧誘相手の信仰の自由を守らねばならず、相手が親しい人と相談できない状態や衰弱している状態(セミナーとか)で信仰を迫ってはならない。 これがすごくすっきりした見解だと思った。 統一教会がもともとどういう教義で、日本でどうやっ

          カルト宗教の構造『統一教会 性・カネ・恨から実像に迫る』櫻井義秀

          おっさんと犬『ある犬の飼い主の一日』サンダー・コラールト

          この表紙! 犬派にはたまらない。 かわいい……スフルク、かわいい……。 オランダでコロナ禍にベストセラーになった作品。 タイトル通り、犬を飼っている男の一日。 太った50代、バツイチで一人暮らし、職業は看護師、趣味は読書。 散歩中に老犬スフルクの体調が悪くなったので動物病院へ連れていき、姪(14歳)の誕生日のプレゼントを買い、夕方には誕生パーティに出かける。そんなある一日のお話。 このおっさんが、少年みたいに純粋で優しい人なんだよね。 読書家だからかな。犬好きだからか。

          おっさんと犬『ある犬の飼い主の一日』サンダー・コラールト

          アニメ化希望『短くて恐ろしいフィルの時代』ジョージ・ソーンダーズ

          Eテレの「理想的本箱」のなかで「戦争が迫って来たときに読む本」として紹介されてた。 大きな国と小さな国をめぐる、大人のおとぎ話。 一度に1人しか国民が入れない小国<内ホーナー国>。 それを囲み、広大な領地を持つ強国<外ホーナー国>。 国境は赤い紐で引いてある。 登場人物は「ベルトのバックルとツナ缶を繋げたような形」だったり、「最初はふたつのお腹を持っていたが、太りすぎて7つのお腹を持つようになって」いたり、チャーミング。 ピクサーでアニメ化してほしい。 ツナ缶のふたを開

          アニメ化希望『短くて恐ろしいフィルの時代』ジョージ・ソーンダーズ

          チャレンジングな幻想小説『アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション』

          岸本佐知子さん、柴田元幸さんの訳した短編アンソロジー。10編。 文体とか表現の味わいとかは、小説をスラスラ読めるほど英語ができない私にとって、翻訳者を信じるしかない。 韻とかね、原文読めたらいいのにな、といつも思う。 文体の味わいが特に重要なんだろうなと思うのが 「足の悪い人にはそれぞれの歩き方がある」 「野良のミルク」 「名簿」 「あなたがわたしの母親ですか?」 「アガタの機械」は小説ならではの楽しみがあると思う。 この機械の形を想像するのが楽しい。ミシンのようで、受

          チャレンジングな幻想小説『アホウドリの迷信 現代英語圏異色短篇コレクション』

          ゆる反戦『自動巻時計の一日』田中小実昌

          進駐軍の医学研究所に勤めるおじさん「おれ」のなんでもない一日。 このおじさんがゆるくていいんだなぁ~。 勤務時間中に仕事をしていると、損をしている気分になる。 なので、弁当は昼休みではなく、10時半ごろに隠れて食べる。 仕事とは別にアメリカの小説の翻訳をしていて、それが小説内小説のように入る。ちなみにこれも、勤務時間中に隠れてやったりもしていて、小遣い稼ぎになっている。 最初は趣味でやっていたが収入となると仕事なので、そろそろうんざりしてきている。 パワフルなカカアが

          ゆる反戦『自動巻時計の一日』田中小実昌

          世の中は、できるやつがぜんぶやることになってんだから、考えたってしかたないよ『黄色い家』川上未映子

          こんなセリフを受けてしまう、花ちゃん。 責任感強くて頑張り屋さん。 つまり、損するタイプ。 私もこっちタイプなので、彼女寄りで読んだ。 母子家庭、貧困家庭で育った花ちゃん。 平気で帰ってこなかったりするお母さんにロクに守られず育った。 真面目で頑張り屋で、お母さんや黄美子さんを守ろうという気持ちもあって、すごくいい子。でも中卒だったり親がしっかりしていないせいで銀行口座も持てず、居場所になるようなお店を作りたいのにテナント借りることもできず。 偽造カードでお金を下ろす仕事

          世の中は、できるやつがぜんぶやることになってんだから、考えたってしかたないよ『黄色い家』川上未映子

          自然と伝承、いじめのループと転校生『送り火』高橋弘希

          東北の過疎の村、同級生の男子が6人しかいない学校に都会から転校してきた中学3年生の歩。転校慣れしている歩は人間関係をうまく立ち回るが……。 タイトルと冒頭の灯籠流しの描写から、誰かが亡くなる予感を持って読み始めた。暴力的な晃、カツアゲや身体的暴力を伴ったいじめを受けている稔。転校生いじめはよくある話なので、晃の暴力がいつこちら(歩)に向くのかひやひやしながら読んだ。 後半、蝉や虫が死ぬ描写が、嫌な予感を倍増させる。 濃密で恐ろしい人間関係とは対比的な、のどかな田舎の景色。

          自然と伝承、いじめのループと転校生『送り火』高橋弘希

          お仕事小説として読む『グレイスレス』鈴木涼美

          この作品で一番グレイスレスだと思ったのは、 主人公の女優に対する見方だなぁ。 主人公とギャル女優の聖子は、ポルノ現場を仕事として淡々とこなしていて、葛藤はない。新人に対する助言も、彼女を思いやっているというよりは、撮影をスムーズに進めるためにしている。 このポルノの撮影現場の描写がけっこう細かくて、この点もグレイスレス。 けれど、この描写。よく読むと、煽情的ではないんだよね。ただ細かいだけ。 例えば顔にかかった体液にしても、一番言っているのはすごく落ちにくい汚れだというこ

          お仕事小説として読む『グレイスレス』鈴木涼美

          根っこをたどると、いいやつ『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ

          岸本佐知子さんは「この本を絶対に翻訳したい!」という作品を選んで翻訳をする、と聞いて、なんて素敵な仕事のしかたなんだ!(ウラヤマシイ)と思った。 そんな岸本さん訳の短編集。 ジョージ・ソーンダーズさんは「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」(解説より)だとか。 おとぼけ主人公たちがいいなぁ、と思った。 主人公がダメ人間っていうのは定石だけど、ダメの方向性や匙加減がいいなぁ。 スタートすらしていない行動の行く末をあれこれ想像して空回りしてたり。 本人の思考の中では悪

          根っこをたどると、いいやつ『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ

          吉原の子供たち『たけくらべ』樋口一葉

          原文のリズムがすごくいい。ただちょっと難しかったので意味を理解するのは早々に諦めて、川上未映子版の現代語訳と突き合わせて読んだ。 川上未映子は詩人でもあるので、韻とかリズムをすごく丁寧に訳出してくれている感じ。 「なんなの。なんなのむかつく」 とか、とても分かりやすい。 彼女の訳は素晴らしかったと思う。 日本最大の遊廓・吉原のそばに住む子供たちの物語。 売れっ妓の姉をもち、ゆくゆくは遊女になる運命の美登利。 家を継ぐことが決まっている、お寺の長男・信如。 高利貸の祖母と二

          吉原の子供たち『たけくらべ』樋口一葉