記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

自然と伝承、いじめのループと転校生『送り火』高橋弘希

東北の過疎の村、同級生の男子が6人しかいない学校に都会から転校してきた中学3年生の歩。転校慣れしている歩は人間関係をうまく立ち回るが……。

タイトルと冒頭の灯籠流しの描写から、誰かが亡くなる予感を持って読み始めた。暴力的な晃、カツアゲや身体的暴力を伴ったいじめを受けている稔。転校生いじめはよくある話なので、晃の暴力がいつこちら(歩)に向くのかひやひやしながら読んだ。
後半、蝉や虫が死ぬ描写が、嫌な予感を倍増させる。

濃密で恐ろしい人間関係とは対比的な、のどかな田舎の景色。新しい住まいとなった古民家。銭湯の珈琲牛乳。挿入されるさまざまな伝承。
「ぼくのなつやすみ」というゲームが昔あって、それを思い出した。
歩(私も)にとって、これらは夏休みに田舎に遊びに行くようなノスタルジックで魅力的な光景だけれど、ここが地元になる他の男子はそうではない。不便で憂鬱なものなのかもしれない。娯楽にはならない。

この地域の少年たちにとって、血を見るリンチは娯楽だ。
うぇぇ、と思いながら、どこかおとぎ話みたいな感じも受ける作品。

読点の打ち方が特徴的だなと思った。
きっちり意味のまとまりごとに打っていながら、短めの独特のリズムを感じた。


読みながら、いくつかの部分が分からなかった。

①晃の稔に対する感情。イカサマ花札までして稔をターゲットにしていたのに、自分以外のメンバーが稔をいじめたとき、激怒して止めたのはなぜか。
⇒晃が執着したのが稔だったのか、集団の主導権だったのか。
②稔が晃ではなく歩を襲ったこと。
⇒歩が稔に不利な行動をしたのはナイフの所持の件のみ、あとは傍観者だった。6人の中で、いじめに最もかかわりが薄いのに、なぜ。
③最後、誰か亡くなったのか。
⇒3体の藁人形。うち1体が燃やされている。歩も意識がもうろうとしているので、このシーンが幻覚の可能性も。3体は晃、稔、歩を指していると思うけれど……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?