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これが私小説って切ないよ……『鹽壺の匙』車谷長吉

「しおつぼのさじ」「くるまたにちょうきつ」と読むみたい。

私小説ということを前面に出していて、
「私小説は救済であり悪」
と言っている。

これが私小説なら……かなり厳しい人生だと思う。とくに幼少期。
悪かもしれないけど、関係者にはいろいろ言われるだろうけど、(登場人物も、めっちゃクレーム入れてくる性格に見える)
これは、吐き出さないと辛いよ……と思うエピソードがたくさん。
救済されたほうがいいよ。

エピソードの衝撃度とは別に、小説としての完成度がとても高い。


===ネタバレ===

なんまんだあ絵
主人公の老婆のキャラと、死に支度への思いが絵になる。

白桃
てんかんをもつ友人が、発作により目の前で事故を起こし、亡くなる。大人たちに「おまえのせいであの子は死んだ」というような言い方をされる。主人公に落ち度はなく、言いたいことはたくさんあるけれど、人が面前で死んだことに言い訳をするのもいけないんじゃないか、とか、胸が痛くなる。

萬蔵の場合
虚言癖があって、性格に問題のある、女優志望の女性に主人公が振り回される話。
「あたし人を赦すことが出来ないの、すぐに人を裁いてしまうの、そういう自分も赦せないの、あたしばかなのよね」
萬蔵の優しさが沁みる。

吃りの父が歌った軍歌
主人公の家族のポートレート。借金の関係で養子に出されたけど戻ってきていたり、家族関係が複雑。そのせいでなんともいえない空気が常に家庭に漂っている。厳しいな。自分の曲がり具合と比べて性格のいい弟への屈折した思い、分かる。

鹽壺の匙
自殺した叔父と、その家族の話。高利貸で金にがめつい家長と、気の弱さのために言いなりになる家族、純真で繊細な性格に育ってしまった主人公の叔父。それぞれの人生の背景をたどると、全員に彼らなりの正しさや価値観がある。同じ一家なのに性格がバラバラすぎて、悲劇としかいいようがない。

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