ライトノベル第二章九話【取り戻しつつある大切なモノ】

 ライブ成功の余韻がまだ残る翌日の昼下がり、俺は相楽さんのスタジオに顔を出した。中に入ると、相楽さんは受付カウンターの中で暇そうにしている。俺がカウンター越しに覗き込むまで気づかないくらい、ボヘーとしていた。
「すみませ〜ん。」
「は、はい!いらっしゃいませ! ってなんだ、詩音かよ。」
 居眠りしていたらしく、起き抜けのような声がひっくり返りながら反応した。
「俺だと悪いか? それはそうと、昨夜は本当に来るとはね・・・。」
 ステージに立ち、全体を見回した時、ドリンクカウンターのところに見知ったシルエットが在った。
「気づいていたのか?」
「そんな暗くなかっただろ。あれくらいの広さなら、出入り口付近の壁に寄りかかっていても気づく。」
「そうか。で? わざわざ礼でもいいに来たってのか?」
「まさか。俺がDOOMSDAYを作り、ライブの度にサポートを集めると言った時、相楽さんは手放しで賛成はしなかった。そんなあんたがわざわざ見に来たんだ、感想くらいは聞いてみたい。」
「・・・なるほど。一理あるな。」
「で?」
「うん、悪くない。というか、詩音は持ってるんだな。」
「なにを?」
「音楽の才ってやつをだ。才って別に音楽の才能だけを指すわけじゃない。音楽をするにあたり、必要な環境や人材にも恵まれる才だ。音楽は、特にバンドは一人の力じゃないだろ? 仲間、同志が集まって作り上げていくものだ。大事にしろよ。」
「ああ」
「で?」
「え?」
「だから、それだけを聞くために来たのか? またメンバー募集の告知を貼りに来たんだろう?」
「いや、今はいい。」
「ん?」
「当面、二人を固定にしようと思ってる。」
「二人って、奏と律?」
「ああ。」
「大丈夫なのか? よりによってあの二人を固定にして。それとも、ライブの度に奏と律の掛け合いパフォーマンスを定番にするのか?」
「・・・そんなパフォーマンスさせるか。あれは律が勝手に・・・! たしかにあの二人はいろいろ問題はある、だが、それを抜きにしても今は手放したくない。」
「手放したくない・・・ね。そのうち、仲間だって言うんだろうな、詩音は。」
「はあ?」
「楽しみにしているよ、詩音。また次のライブも見させてもらうから。」
「あ? ああ、それはいいが・・・なんか気持ち悪いな。」
「気持ち悪いとは失敬だな!でも、ま、詩音がそうやって楽しそうにバンドやってる姿を見るのは久しぶりだ。よし、今から三時間ほど、無償提供してやろう。こんな気前のいい店長は俺だけだぞ?」
 なんだかよくわからないが、相楽さんがそういうので俺は急いで奏と律を呼び出した。奏は用事を早々に切り上げ合流、律は日課の筋トレを切り上げて合流。ライブの余韻を引きずりながら、次を想定した曲の案などを出しあった。

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