ライトノベル第四章四話【DOOMSDAYにはないモノ】

 ワンマンライブではなく対バンの場合、自分たちの出番が終わればそのまま撤収して帰っても問題はない。ほかのバンドのライブを見る必要性があるかないかは個々の判断だ。俺と奏はできるだけほかのバンドのライブも見るようにしているため、おのずとそれにつき合う律と美琴という関係になる。
 DOOMSDAYのライブが終わり撤収作業も済み、機材をバンに詰め込み終えたら解散だが、俺たちはライブハウスのフロアに戻った。残りの対バンのライブを見終わり、「HEAVEN」の店長に挨拶をして帰ろうとした。いつもならお世辞程度とわかってはいても「よかったよ」と言ってもらえたりすると励みになるのだが。
「ソロでバンドをやっているって珍しいからね、最初から見させてもらったよ。」
 店長に呼び止められ、そう声をかけてもらえた。
「ありがとうございます。」
 俺は代表としてお辞儀をした。
「だけどね・・・ちょっと期待外れだったかな。」
 と、耳を疑う言葉だった。誉められるとは思っていないが、大抵の場合はだめ出しをされることはない。態度が悪いなどのことでない限りは。
「どう期待外れだったのでしょう?」
「そうだね。ほかのバンドには当然のようにあるものなんだけどね。それが君たちにはないんだよ。サポートの三人とヴォーカルと、隔たりがあるように見えてね。一体感がないんだよ。ないのにあるように見せている、そんな感じ。サポートに徹底させるソロバンドともまた違う。」
 これでもかとダメ出しをされる。それでも店長は
「だからってもう二度と使わせないとかじゃないんだ。今のままを続けるにしても、考え方を変えるにしても、うちは歓迎するよ。客の評判はいいし、なにより君たちは好感がもてる。がんばれよ。」
 といって、送り出してくれた。

「きっちーな・・・。」
「僕はいつも詩音さんの味方ですから。」
「これは味方だとかいう次元ではないな〜。とはいえ、別にサポートメンバーであることに不満はないし、それでいいから詩音と共にいたいと思ったから、今もここにいるってことは覚えておいてくれよ。」
 奏は三人の想いを代弁し、さらに「ただ」と付け加え
「サポートである以上は求められることには対応するが、サポートという立場であり続けるなら、今後も物事の決定など手出しできないことはある。それはDOOMSDAYの根幹に関わることだ。それには携わることはできない。」
 と奏は言う。それには律も大きく頷いていた。なんだかんだと口出しするわりには、そういえば自分から口出しすることはほとんどなかった。なにより奏はいつも俺の好きなようにすればいいと言っていた。あれは自由にさせてもらえているのではなく、それ以上は踏み込めないから好きにすればいいという意味だったことに、今になって気付く。
 いや、そうではない。
 俺は薄々気づいていたはすだ。
 要求すればするほど、楽器を演奏するだけの道具扱いしているようで、だから意見を聞きたいと相談を持ちかけるが、最終的判断は俺に委ねられる。それはある意味、根底に抱いていた疎外感。あの店長はライブを見ただけで見抜いていた。
「俺は・・・。」
 なんとか声を絞りだしたが、それ以上続ける言葉が見つからない。
「詩音、今すぐ答えが欲しいなんて、俺たち誰一人思ってない。これは詩音が一人で決めなくてはならないことだ。時間をかけていい。どんな答えをだしても、俺たちは詩音を見限ることはない。それだけは覚えていてくれ。」
 奏は自分の荷物を持ち去る。続くように律が歩き、動こうとしない美琴を引っ張って俺との距離が離れていく。俺はその場にしばらく立ち尽くしていた

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