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ゆっくり堂々と渡ればいいんだよ #教養のエチュード賞
旅に出たからといって、そんなにドラマチックなことが起こるわけじゃなかった。
初めて行った海外はエジプト。
そこでも、決して何かドラマチックなことがあったわけじゃない。プロフィールをキャッチーにするために、想像の余地を残して書いているけれど、別にエジプト出身の夫と、そのとき出会ったわけでもなんでもない(普通に、日本でMeetUpで出会いました…笑)
それでも、エジプトで過ごしたほんの少しの時間は、その後、何年もかけて私の中に染み込んで、少しずつだけど、確実に私を変えていったと思う。
カイロの空港に降り立ったのは夜。
アラブポップに乗って爆走する車。合いの手はクラクション。猛スピードで目に飛び込む全てが未知。道端の果物売り、水タバコをくゆらす人々、練り歩く花嫁、モスク、極彩色のランプ、幾何学的なアラビア文字…。
まるで万華鏡のど真ん中に転がり込んだような、あまりに賑やかな夜だった。
そんなカイロの街で、ひとつ、自分に残った感覚がある。
カイロは、もちろん大きな街だけど、ろくに信号や横断歩道もない(いや、あるけど機能していないのか…)、
歩行者にはお構いなしで、びゅんびゅん走る車。
鳴らされすぎて、もはや空気全体を振動が飽和しているようなクラクション…。
そんな状態で、とてもじゃないけど、大きい道路を渡ることなんてできなかった。ずっとおどおどして、行き交う車を眺めているだけ。
少し車が切れて、「今だ!」と走って渡ろうとする。すると、すぐに猛スピードで後続車が来て、慌てて引き返すなんてことを何度か繰り返した。
旅も半ばを過ぎて、ふと気づいた。周りを見渡すと、現地の人は車の行き交う大通りを事も無げに渡っている。
あれ?何が違うの?
現地の人々をよくよく観察してみると、実はすごく、ゆっくり堂々と渡っていた。
そうか!逆に、私たちのほうが、びくびくして、サッと渡り切ろうとしているから、余計に危なかったのか!
現地の人は、とくに何か言うわけではないけど、まず「自分は渡る」って心の中で決める瞬間があるような気がした。そして、無言の圧を発する。
そっか、先に決めちゃうんだ、渡るって。
渡れる状況だったら渡る、とかじゃなくて、自分が渡るって決めたから渡るんだ。
それに気づいてから、自分たちもやってみる。右、左を確認なんてもんじゃなく、自分たちの存在を知らしめるように睨みつけて、それからゆっくりと、誰に急かされたって請け合わずに、前を向いて堂々と渡る。
すると、本当にあっけないくらいに、なんの問題もなく、渡ることができた。
これ以降、その感覚を時々思い出す。
もちろん、その日からすぐに自分の行動が変わったわけじゃない。
でも、本当に時々だけど、目の前に大きな流れがあって立ちすくんでしまいそうなときに、
「あ、これ、ゆっくり堂々と行ったら、渡れるんじゃない?」っていう選択肢ができた。
もちろん、物理的な意味だけじゃなくて、精神的な意味でも。
全然、いつもできるわけじゃないし、時間が過ぎ去ってから、「ああ、あのとき、ゆっくり渡ってたら!」って後悔することもある。でも、そうやって、この感覚が少しずつ自分の中に馴染んできたんだ。
きっと、本当にやりたいことや、欲しいものは、サッとかすめ取る必要なんてないんだよね。誰かが選んでくれるんじゃなくて、きっと決めるのは自分なんだ。
旅で人生を変えるようなドラマチックな出会いなんてなかった。
でも、その国の日常こそが、私にとっては新しくて、いざというときの持ち札を増やしてくれたように思う。
今、きっとたくさんの人が旅したくてもできない。だから、こんな文章読んでも、みんな「そんなこと言ったって、今、旅行できないじゃん!」ってなると思う。
特に、今、大学生になったばかりの人、みんな高校のときは、部活に受験にと忙しくて、大学生になったら!って心に決めていた人も多いんじゃないかな。なのに、なのに…。
私も、大学生のときに、たくさん海外旅行したから、彼らのことを考えると胸が締めつけられるような気持ちになる。
これまで来てくれてたインバウンド観光の人たちもいないし、なんだか、世界が分断されてしまったような気持ちを、みんなが抱いていると思う。
でも、例えば、ワクチンだって、日本で開発してるものだとしても、当然英語の先行研究とか読んでると思うし、むしろ、こんなときだからこそ、英語や他の現地の言葉で情報収集すべきことだってあるし。
この状況だって、ちっとも国際物流は止まってない。もし止まってたら、日本は今頃、とんでもない食糧難になってるよ。
だから、今までより見えづらくなってるかもしれないけど、そう簡単に海外とのつながりが全部なくなるなんてことはないと思うんだよね。当たり前だけど。
きっと、大学生の頃は「今しかできないよ」とか言われることも多いと思う。でも、今、30代になって思うけど、なんもそんなことなかった。
だから、いろいろ諦める必要はないし、むしろ「今しかできない」に惑わされずに、海外に興味があるなら、少しずつ取り組んでいけばいいと思う。大学生の間に行くことにこだわらずに。
私でさえも、海外とのつながりに対する大学生のときの知識と、今の知識はかなり違う。十数年の時間で知り得たいろんな方法(私が経験したものじゃなく、周りから聞いたものも多いけど)を、少しずつでも伝えていきたい。
だから、多分、本当に微力すぎるんだけど、ここで書くね。これからも。
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