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100dai

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「絵描きさんに100のお題」に文章で挑戦しております。
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記事一覧

85.年の瀬の小さな魔法

85.年の瀬の小さな魔法

あ、ほら
今年最後の太陽が海に落っこちた
今年もお疲れさまでした
ねぇ、どうだった?
わたしは、まぁまぁだったかな

出会いも別れも
幸せも痛みも、色々あったけど

年齢を重ねる度にね
色々なものが削がれていって
渦中にいると悩むこともあるけれど
わたしはもっとわたしらしくていいんだって
自分の幼くて未熟な部分も
認めてあげようって思えるようになったんだ

明るく光る太陽に憧れても
きっとわたしに

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86.芝居犬

86.芝居犬

よってらっしゃい みてらっしゃい
今宵皆様にお目にいれまするは
世にも奇妙なからくり舞台

夢と現の境も曖昧に
涙も笑いも歓喜も絶望も
皆さまそれぞれが心の奥底で
真に望み欲している情景を
この身体を憑代(よりしろ)に
描き出してご覧にいれましょう

何の因果か
皆様は今宵この芝居小屋に住む魔物に
目をつけられ誘われた
哀れなお客さま

そしてあたくしは
この芝居小屋に住む魔物と契約し
魂を売っち

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87.夢に狂うゆめ

87.夢に狂うゆめ

…今更、あなたの夢は何だったの?なんて
笑っちゃう質問ね。
あなた、わたしの夢が何だったか、知らないわけがないでしょう?それとも、知っててあえてそんな質問してるの?ははっ…性悪。

いいの、別に恨んじゃいないわ。
だたわたしにあなたを裏切るだけの勇気がなかっただけだもの。あなたの望むいい子を演じ続けているだけよ、そして今、あなたが望むとおりの、平凡で、それなりに不自由のない、それなりに幸せな人生を

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84.ねぇ、もしもこの電車の行く先が世界の終焉だとしたら

84.ねぇ、もしもこの電車の行く先が世界の終焉だとしたら

ねぇ、もしも
この電車の行き先が世界の終焉だとしたら
それでもあなた、わたしと一緒に
行ってくれる?

気がつくと乗り合わせてた電車には
どうしてか君と僕しかいなくて
君の被る麦わら帽子の影が
その表情をより曖昧に
大人びたものにする。

車窓から見える景色は
いつの間にか夕焼けに変わっていて
橙色が海に眩しいくらい反射していた。
この美しい景色の果てには
本当に、世界の終焉があるのではいかと

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83.さようならのブルース

83.さようならのブルース

久々に空いた穴が辛い
ぽっかり ぽかんと 
まるでブラックホールみたいに
感情が吸い込まれていく

ひどく冷徹な顔をして
きっとわたしは
穴あけドリルをもった愛しい人を
簡単に切り刻むんだわ

さようなら

あなたが空けた穴、よく見えるかしら?
一度あけてしまった穴を
同じように塞ぐことが不可能なことくらい
分からなかったのかな。
わたしたちもう子どもじゃないの。
いい歳した大人なのよ。
ごめんな

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78.流星管理研究棟案内

78.流星管理研究棟案内

研修生の皆さん、はじめまして。
ようこそ、流星管理研究棟へ。

まずは簡単に施設を案内するから、はぐれないよう、ついて来てね。

僕達の仕事は、君らも知ってのとおり星守(ほしもり)と呼ばれている。

星の位置や数などを日々観察・記録し、宇宙の平穏や均衡を保つのが主な仕事だ。日夜、星地図(せいちず)と望遠鏡とにらめっこさ。
惑星調査隊との連絡や、宇宙嵐に関する情報発信なども担っているよ。

そして、

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77.人形師の憂鬱

77.人形師の憂鬱

愛しのセレナーデ
トパーズの瞳
ブロンドの髪
艷やかな肌
薄紅色の唇

きみは愛されるために生まれたお人形だよ
どうだい?純白のドレスは気に入ってくれたかな?

なぁ、セレナーデ
何か返事をしておくれよ
セレナーデ… セレナーデ…

あぁ、きみは、こんなにも美しいのに
魂だけが空っぽだ

一方の僕は醜くて
誰からも愛されないというのに
どうして神様は僕みたいな出来損ないに
魂を与えたのだろうか

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76. Re スタート

76. Re スタート

駄目だ ダメだ だめだ

書きかけては、何度も消してを繰り返していた。
何時間経っても、真っ白なままのワードの画面。
つまり、何時間経っても真っ白なままのわたしの脳内。

昔は、こんなんじゃなかったのにな。
ひとつの言葉から生まれる空想の世界は、
確かに色づいていたはずなのに・・・

過去に囚われすぎなんじゃない?
分かっている。けれど。
求められているのは、あの時の空気。雰囲気。
好かれているの

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75. あの日の遊園地

75. あの日の遊園地

「まるでタイムカプセルが開いたみたいだね。」

あの時、あの日のままの姿で保存されていた遊園地への
秘密の通路が突然開いて
みんなでそこを歩きながら、もう動かなくなった乗り物を眺めて回った。

みんなで、と言っても、遊園地を歩くときは1人だ。
世界から切り離されたそこには、もうみんな一緒には入れない。
戻ってから、時間の止まったその場所を焼き付けた写真を見せあって、
懐かしいね、と笑った。

チカ

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74.超感覚

74.超感覚

暗い闇にぽちゃんと落ちた
目を見開いても
一面の黒
開けてるのか開けてないのか分からない

手足を動かしても
捉えられる地面はなくて
自由は不自由に変わる
進んでるのか進んでないのか分からない
もしかしたら もがいているだけかもしれない

怖いなら目を瞑ればいい
目を瞑ったって何も見えないのは同じ
もがいて苦しいならならやめてみればいい
それでもそこに浮かんでいる僕自身は消えない

例えば未来に進

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73.カレンダーの破り方

73.カレンダーの破り方

おばあちゃんの部屋には
おばあちゃんのカレンダーがあった。

絵を描くのが好きなわたしに
おばあちゃんはいつも、役目を終えた月のカレンダーを破いてくれた。

自由帳よりも、チラシの裏よりも
ずっと大きくて上質なカレンダーの裏面は
当時のわたしにとってとても貴重なものだった。
そして、絵ができたなら、1番におばあちゃんの部屋を訪ねて見てもらう。
そして2人だけであれこれおしゃべりをするのだ。

きっ

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72. 泥棒ポケット

72. 泥棒ポケット

やぁ少年、先程わたしのポケットから
財布をすったね。

随分手慣れているようじゃないか、
何件かやったね。
でも、わたしに目をつけたのが運のつきだ。

中身を確かめてごらん、
お金だけすっかり消えているはずだから

財布だけは取り上げずにおこうじゃないか
きみの努力に免じてね。

え?中身がどこに消えたかって?

実はわたしのこのコートは少々特殊な品でね。
このポケットに手を入れれば
欲しいものが

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70.夢見るうさぎ

70.夢見るうさぎ

こんな夢を見た。
殺風景な月の砂漠で、うさぎが一人、穴を掘っていた。

「穴を掘っているんです」

何故かと聞けば、埋めるためだと言う。
何をと聞けば、自身の胸を指さし微笑した。

「人間として生きるのは、大変ですから。次から次へと不要な感情が湧いてきてしまう」
「一昔前の僕ならば、不要な感情なんてないと、そんな風に言ったのでしょうね、でも」
「不要な感情というのは、確かにあるのですよ」
「だって

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69.小説家の戯言

69.小説家の戯言

おや、かもめくん
そんなところで何をじっと見つめているんだい?
そんなに見つめたって、エサなんてやりゃあしないよ。
かといって、どっかの誰かさんみたいに撃ち落としもしないがね。

それとも何かい
わたしを嘲笑いにでも来たのかい?
まさか、死神じゃあなかろうね。

ははは… 本当に逃げないや。

「そのかもめは
じっとわたしのことを見つめてくるのだった。
まるで何かを告げに来たかのように
その黒々と

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