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未経験から始める人事力向上委員会      ◆時季変更権◆

今回のテーマは「時期変更権」です。この法律知ってました?簡単に言いますと、雇用主が、有給取得を拒否できる権利なんですね。拒否といっても、「有給取ってはダメですよ」ではなくて「その日ではなくて、別日に変えてくれないでしょうか?」とお願いできる権利といった方が良いですね。では、この権利の行使範囲ですが「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られるのですが、具体的に過去に認められた事例を見てみましょう

◆時季変更権行使が認められるケース


①代替要因を確保できなかったケース
 前提としまして、企業は時季変更権を行使する前に代替要因確保に尽力
 しなければなりません。ただ、尽力を尽くしたにも関わらずどうしても
 代替要因確保困難な場合認められる事があります。
判例)工場勤務のAさんの場合
・有給申請状況
 班・グループでのシフト制の職場において、有給休暇取得の申請
・争点
 企業が代替人員確保の配慮をせずに時季変更権を行使した
判決
 配慮をしたとしても代替人員を確保することが客観的に可能な状況に
 なく、有給取得は事業の正常な運営を妨げるものとして、行使権は
 有効と判断される
・ポイント
 シフト変更の方法や頻度
 企業の従前の対応
 代替勤務の可能性
 週休制の運用
 従業員の時季指定のタイミングなど

②繁忙期に有給休暇取得者が重なったケース
 忙しい時期に何人もの従業員が同時に有給休暇を取得すると、業務が回
 らなくなってしまうケースは、「事業の正常な運営を妨げる」と判断され
 る可能性が高くなります。

・有給申請状況
 夏季繁忙期に4日間の有給休暇取得申請したが2日間取得不承認となる
・争点
 別の日を指定しないで不承認としたことは有効か
 事業の正常な運営を妨げる事由はなかったか
判決
 他日指定しなくても時季変更権の適法性に問題はない。夏季繁忙期に2日
 にわたって10名、6名について有給休暇付与することは正常な運営を妨げ
 るものと結論となり、変更権行使は有効とされる。
・判例リンク
 https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07599.html

③本人が出なければならない研修などがあるケース
 有給休暇を申請した本人が出席しなければならない研修などがあるケース
 は、時季変更権を行使できる正当な理由として判断されやすいです。

・有給申請状況
 約1カ月の研修参加中に、1日の有給休暇取得を申請した
・争点
 有給休暇を取得しても研修訓練の目的は達成されるものであったか
判決
 特定の分野において高度の知識を習得させる研修は事業の遂行上必要な業務であり、有給休暇を取得することで習得不足になることは業務の改善・向上に悪影響を及ぼすことにつながるとして、変更権行使は有効とされる。
・判例リンク
 https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07826.html

④事前相談がなく有給休暇取得が長期かつ連続であるケース
 有給休暇を連続した1カ月など長期で取得しようとする場合には、
 かなり早い段階から相談して取得しない限り、代わりの人材を確保する
 のが困難です。このようなケースでは、事業の正常な運営を妨げるもの
 として認められるケースがある。

・有給申請状況
 前年度からの繰り越しを含めて40日間の有給休暇を有する社会部の
 記者が、「欧州の取材をしたい」と約1カ月間の有給休暇取得を申請した
・争点
 長期かつ連続する有給休暇を取得するために会社と事前に調整を
 したかどうか
判決
 事前相談がなく長期かつ連続の有給休暇は代替勤務者確保の困難さが
 増大し、事業の正常な運営に支障を来たすおそれがある為、行使は有効と
 判断れさる。
・判例リンク
 https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/05931.html

有給休暇取得の申請が休暇の直前だったケース
 有給休暇を取得する直前(始業時間直前等)に有給休暇を申請された場
 合には、代替人材を用意する時間的余裕も、時季変更権の行使を検討す
 る時間的余裕ない為、時期変更権が認められやすいです。

・有給申請状況
 9:00就業開始のところ8:40に有給休暇取得の申請。 
 事情によっては取得を認めようとしたが、拒否された
・争点
 申請された有給休暇の開始後におこなわれた時季変更権は有効か
判決
 有給休暇の申請が直前だったために、企業が時季変更権の行使を検討す
 る時間的余裕がなかった。当該日に取得させることは事業の正常な運営
 を妨げるものであったが企業は時季変更をおこなうまえに理由を聴取し
 考慮しようとしたが、従業員がこれを拒否したため考慮の余地がなくな
 った。この場合、時季変更権の行使は休暇の始期前にされなかったが
 適法にされたものとして効力を認める

ここまでは、企業側が時季変更権行使が認められるケースを見てきました。では、次は認められないケースを見ていきましょう。 

◆時季変更権行使が認められないケース

時季変更権を認められないことが多いケース
・従業員の有給取得理由を認めず、時季変更を行使した。
 有給休暇の取得理由によって時季変更することはできません。有給を従
 業員がどう過ごすかは当たり前ですが、自由です。
 具体的な取得理由を申告・記載しないことを理由に有給休暇取得を認め
 ないということはできません。有給休暇の取得理由を申告する義務もあ
 りません。まだ、申告運用をしている企業は、即、見直しすべきです。

・慢性的な人手不足や繁忙期という理由のみで時季変更を行使した。
 常に人手不足であったり、単に繁忙期であるからといっておこなう時季
 変更権行使は認められないことが多いです。人手不足であれば人員配置
 を見直したり、予測できる繁忙期であれば、人員確保の企業努力が必要

時季変更権を行使できないケース
・退職日が決まっているため時季変更すると有給休暇を消化しきれない
 退職決定者が退職日までに有給休暇を消化したいというケースは、時期
 変更するにも他の日を指定できません。その為、時季変更権を行使する
 ことはできません。引継ぎなどでどうしても勤務してもらう必要がある
 場合はその旨を伝え、リスクヘッジ策の協議を実施しましょう。
 ただ、有給は権利ですので、企業側はあくまでお願い(譲歩いただく
 スタンスであるべきです。*見返り含め)

・倒産などにより時季変更を行使すると有給休暇が消化できない
 倒産した日以降は有給休暇を与える余地がないため、時季変更権を
 行使することはできません。

・時季変更した日が産前産後休業・育児休業・介護休業の期間に重なる
 前提として、有給休暇は労働義務の免除するものですので、
 産前産後休業・育児休業・介護休業といった休業期間は、労働の義務
 外となる為、休業期間中は有給休暇を取得する余地がそもそもない為、
 変更権行使は無効となります。

・有給休暇の計画的付与制度(計画年休)によって指定した日である
 企業による有給休暇の計画的付与(計画年休)とした日についても、
 時季変更権を行使することはできません。ただし、計画年休の労使協定
 において変更手続きを定めており、その手続きを適切にとった場合は計
 画年休とした日を変更することができます。

まとめ
 時季変更権の有効性の範囲は上記事例(判例)から見ても、かなり狭い
 事が認識いただけたと思いますが、労働者側は、事業の正常な運営を妨
 げると判断されるような有給取得申請には注意が必要です。運営を妨げ
 るといった場合に限られますが、時季変更権には強制力があります。
 これに反した場合、罰則として懲戒処分になる可能性がございますので
 留意が必要です。企業側については、行使が適切でないとなった判断さ
 れた場合ですが、罰金・損害賠償支払いの対象になります。
 このようなトラブルを未然に防ぐために、現場の状況を把握し、現場の
 声に耳を傾け、コミュニケーションをとる事がとても重要です。
 エンゲージメントの高い従業員は、このような対応はしないと思います。
 その為、組織エンゲージメント強化を意識することも大切です。

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