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【寄稿】「ワーケーションで地方の教育支援を」(2022-06-20河北新報)

【原文】
 ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を合わせた「ワーケーション」の概念が登場して久しい。それを実施したビジネスパーソンや企業の事例なども報じられているが、社会に普及したとは言えず、ワーケーション人口はごく少数にとどまる。また、多くの地域がこれによる滞在客を呼び込もうと狙っているが、その滞在地として選ばれるのは沖縄、南紀白浜、伊豆箱根などの有名リゾート地のみ、というのが現実ではないだろうか。このままではワーケーション市場は拡大せず、単なる一時期の流行りとして消えゆくかもしれない。

 より多くの人々が体験でき、リゾート地でなくても提供可能なワーケーションのあり方は考えられないか。そこで提案したいのが、地方に滞在してテレワークをしながら、地元の子どもたちの教育を手伝うワーケーションプランだ。ワーク(仕事)とエデュケーション(教育)の双方に励み、ときどきバケーション(休暇)を楽しむ、題して「はたらくワーケーション」である。

 近年、教育現場の多忙さに社会的関心が集まっている。教員の負担を軽減するべく、放課後学習や部活動は学校外に指導者が求められているが、特に地方では担い手の確保に苦労している地域が多い。そこで、都会からやってきて滞在するビジネスパーソンに、その担い手として現場を手伝ってもらうのである。彼らにとって、リゾート地での仕事と休暇よりも、刺激的な体験になるはずだ。

 一日のスケジュールの想定としては、午前から昼過ぎまでテレワークで仕事をし、学校の授業が終わる時間からは各自の得意分野に応じ放課後学習や部活動などの現場を手伝いに行く。人手を求める現場は多いから、いくつか掛け持ちしてもよいだろう。

 私はこれを、企業の社員研修プログラムとして推したい。異文化の地方に滞在して異世代の子どもたちと交流するというのは、コミュニケーションスキルや消費者理解に資するのみならず、思考回路に刺激を与えてアイディアの創発にもつながると思われる。座学とは比べ物にならない学びになるだろう。企業としては社会貢献活動の実績にもなる。

 そして現地の子どもたちにとっては、学習や部活動などの充実度が上がるとともに、地元の大人とは違った生き方・働き方をしてきた未知の大人に接する機会を得ることになる。地元の親族や学校の先生くらいしか大人の見本がない子どもも少なくない中、異文化の大人との出会いはきっと、彼らの将来に有益なヒントをもたらすはずだ。

 都会での単調な働き方のアンチテーゼとして提案されたワーケーション。それが単なる憧れのまま消えてしまわないよう、多くの地域が直面する課題とすり合わせた現実的な策を開発する必要がある。

【紙面】


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