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魚を与えても他人の為ならず。

老子の格言。

 「授人以魚 不如授人以漁」これは老子の言葉とされているが、漢文のため読めそうで読めないのがもどかしい。しかし、字面で何となくニュアンスは伝わる。

 人に魚を授けるのは、人に漁(のやり方)を授けるようで違う。要するにお腹を空かせている人に魚を与えても、食べたらなくなってしまい、お腹が空いた原因となった、食料を自前で調達できないという根本が解決していない。

 もし、あなたがアラブの石油王のような大富豪であれば、それでも永続的に助けられるかも知れないが、一般人にそれだけの財力はない。しかし、魚の釣り方を教えてあげれば、その人は自活する術を身につけるため、これからは自前で食料が調達できて、空腹に悩まされなくなる。

 どちらが、本当に他人の為になるかを考えれば、後者なのは一目瞭然だが、人間の感情というのは厄介なもので、前者をやりがちである。

 よくあるパターンが親しい間柄の人にお金を貸す行為である。連載初期の頃にもお金の貸し借りをすると人間関係が崩壊すると警鐘を鳴らしているが、自身で身を以て経験したからこそ、同情して良かれと思ってお金を貸したら最後、その人とは昔のような親しい関係に戻れることはなく、大体が悲劇的な結末を迎える。

 例え身内親族でも同様である。お金を借りる場所として真っ先に思い浮かぶのは金融機関であって、あなたではない筈である。それなのにあなたの元に相談しに来た時点で、金貸しのプロである金融機関が、返済のリスクが高いと判断して貸し渋っている可能性が高い。

 社会的信用がなく銀行が貸し渋る属性の場合、利用できる手段がクレジットカードのキャッシング利用枠、リボ払い、消費者金融と、利率はどんどん高くなる。貸し倒れのリスクを鑑みれば、利率を高く設定しないと商売が成り立たなくなるからである。

 もし、その枠すら全て使い果たして首が回らなくなった状態で、あなたの元に無利子で借りに来た場合、そのお金が返ってくる確率はどれ程のものだろうか。

 バケツに大きな穴が空いている状態で、どれだけ水を注いだところで、バケツに水は溜まらない。やらなければならないのは、バケツの穴を塞ぐこと。つまり支出の見直しであり、これが老子の魚の釣り方に相当する。

小さな積み重ねが、良好な人間関係への近道。

 現代の日本社会の若者の大多数は貧乏だ。金融広報中央委員会の統計によると、20代単身者の貯蓄額は中央値で8万円なんてデータがあるくらいで、非正規雇用の増大や、高学歴社会化や学費の高騰、貸与方奨学金が主因なのは明白だが、日本国民の金融リテラシーが不足していることも大いに影響していると個人的には考えている。

 これだけでは、情報弱者が貧乏なのは自己責任論者と大差ないため、もう少し深掘りして、若者の定義を20代、30代と仮定すると、2022年現在で1983年~2002年生まれとなり、両親世代は18歳で子供を作ったとしても、1985年以前の生まれである可能性が高い。晩婚化の影響も鑑みれが1960年代から70年代あたりが多数派だろう。

 何が言いたいかは察しがつくと思うが、我々の両親世代が若者だった頃、日本経済はバブルの絶頂期だった。給料も土地も株価も右肩上がり。企業も人材争奪戦に躍起となり、新卒採用は引く手数多で、今では考えられないが、内定者を囲い込むために、入社前から旅行があったくらいだ。

 良い成績、良い大学、良い企業と進んでいけば、結婚、出産、育児、住宅、車、老後に困らないだけの賃金が得られたし、団塊より上の世代がまとまった額の退職金と、手厚い年金制度で、悠々自適にセカンドライフを歩む姿を見ていれば、お金に関しての知識がなくても、取り敢えず企業に属して働きさえすれば、それなりに良い人生が歩めたのである。

 しかし、我々が生きる日本社会は前提条件が異なる。良い大学を出ても、不景気故に正規雇用に慎重となった今では、バブル期と同じ具合で良い企業に就ける訳ではない。

 大学を出るにもお金が掛かる。国公立なら学費が年間54万円と定められているが、大半は高倍率故に熾烈な受験戦争に勝たなければならず、学習塾や予備校にお金を掛けられるような、高所得世帯に生まれた子供の方が、学費の安い国公立大学に進学できる環境が整っていることが多いのは皮肉である。

 経済的に恵まれなくても、ドラゴン桜パターンで東大に入る人も一定数存在するかも知れないが、東大生のおよそ6割が世帯年収950万円超と、国公立や私大の平均値である700~800万円と比較して優位差があるのは紛れもない事実で、環境の大切さが伺える。

 そうやって良い大学を出たところで、日本経済全体が少子高齢化で人口のパイが減少しているから、労働者がどれだけ頑張ったところで、GDPは横ばいを維持するので精一杯。

 賃金は上がらず、税金や社会保険料は増えて可処分所得は減る一方。退職金や年金は手厚いか以前に、その時まで制度が存続しているかすら怪しい。今や個人の寿命よりも企業の寿命が短い時代で、国が自前で備えるための税制上の優遇制度や学び直しの制度を用意する体たらくである。

 この状況下で、野原ひろしが標準スペックな前時代的価値観で生きて行くのは無理ゲーなのは明白で、例え夫婦共働きであっても、金融リテラシーを高めなければ子供の学費を見誤り、老後資金が足りずに困窮する事態となり、冒頭のお金を借りに懇願する側になって、人間関係を壊しかねない。

 金融リテラシーはこれまで誰からも教えられてこなかったのだから、知らなくて当然で、知って家計に取り入れれば、成果が数字ではっきり現れるため、モチベーションを保ちやすい。

 携帯料金や保険の見直し、電力ガス会社の乗り換え、家賃の安い物件への引越し、ふるさと納税、NISAを活用した資産運用など、ひとつずつ取り組むうちに自然とFPの基礎知識が身に付き、簿記やFPの勉強が実学として活かせるようになる。

 そうした小さなことの積み重ねが、自身の金融リテラシーを向上させ、良好な人間関係を維持する秘訣となることだろう。


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