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若手にも影響する?退職金の格差是正。

退職所得控除、改悪するってよ。

 政府が6月中に策定する「骨太の方針」の中で、勤続20年超の退職金にまつわる、税制面での優遇を見直す方針であることが明らかになった。

 現行の税制では、勤続年数×40万円(最低80万円)、勤続20年超の部分は70万円が、課税所得の計算上、控除され、その上で1/2を乗じることになっている。

 例えば、21年6ヶ月勤めた会社の退職金が1,500万円だった場合、1,500万円に対して丸々税金が課せられる訳ではなく、20年×40万円+2年×70万円=940万円が、退職所得控除として差し引かれ、残りの560万円に対して×1/2した、280万円に個人の所得税率が課せられる。

 年収(額面)の目安としては、〜400万円が5%、年収500〜600万円なら10%の所得税率となるため、勤続22年(端数切り上げ)での退職金、1,500万円から源泉徴収される所得税は5%なら14万円、10%なら28万円といったところだ。

 仮に勤続20年超の優遇がなくなり、勤続年数×40万円で統一されると仮定すると、上記のケースなら16.5万円(5%)、31万円(10%)と実質増税となる。

 とはいえ、そもそも日本を代表するトヨタや、経団連が事実上、終身雇用のギブアップ宣言をしていることから察しがつくように、今の若手は20年以上もひとつの組織に属する想像が付かないため、大きな影響はない。

 それだけでなく、失われた30年で実質賃金は下がり続け、人件費カットの一環で退職金制度を設けていない企業も多く、私も勤続3年以上で一銭も支払われず、自分で積み立てた財形貯蓄しか、退職時に払い出されなかった経験がある。

 仮に退職金制度があったとしても、待遇を改善するために、職務経験を軸に数年で転職して年収アップを繰り返せるであろう20代〜30代だと、最下限の80万円にすら届かない可能性が高い。

iDeCoが思わぬ盲点に。

 そう思うと、無駄に長く居るだけの「働かないおじさんザマァ」な、人の不幸は蜜の味的な考えから、別に退職金の税制優遇なんて、自分達に関係ないからご自由に増税どうぞ。的なスタンスにさせるのが、恐らく政府の狙いであり、これだと思うツボだ。

 何も退職所得控除が使えるのは、雇用主からの退職金だけでなく、退職時にまとまったお金を受け取れる趣旨から、確定拠出年金であるiDeCoを一時金として受け取る場合にも、波及してくる。

 そもそもiDeCoを勧めたであろう、金融機関の営業マンがきちんとした説明をしない部分に圧倒的な非があるが、掛金の全額が小規模企業共済等掛金控除となり、運用益も非課税のメリットばかりが強調される一方で、受け取り時に税金が課せられる可能性があるデメリットについては触れられていない。

 iDeCoで老後資産を形成する意識は素晴らしいが、60歳以降に一時金として受け取る場合が退職所得扱い、年金形式で受け取る場合が雑所得扱いとなり、それぞれ税金の計算が異なる点までイメージした上で、iDeCoを積み立てている人はごく一部ではないだろうか。

 つまり、政府が老後資金を用意するために、iDeCoの枠組みを用意しておきながら、一時金として受け取る場合の優遇措置をぶっ壊そうとしているのが、今回の骨太の方針であり、個人的にはアクセルとブレーキを同時使用している感が否めない。

後払い文化のデパート、ニッポン。

 iDeCoに突っ込んだ私金を引き出すだけなのに、税金が課せられるのはおかしい。そう思う方も居るだろう。しかし先述の通り、iDeCoは掛金の全額が小規模企業共済等掛金控除となる。

 企業年金などがない、一般的な会社員のケースで考えると、月額23,000円を上限にiDeCoに拠出できる。これは年間で最大27.6万円分が税制上、稼ぎと相殺されることを意味する。

 仮にiDeCoに加入していない会社員Aさんと、iDeCoを満額拠出している会社員Bさんの所得が、同じ177.6万円だった場合、Aさんは177.6万円に対して税金が課せられるのに対して、BさんはiDeCoに拠出している分、150万円に対して税金が課せられる。

 つまり、iDeCoに拠出したことによって、本来払うべき税金が減額されている。所得税率5%、住民税率10%と仮定した場合、年間で41,400円程度、税金の支払いを免れている訳だ。

 これは税引き前のお金で、資産形成していることを意味する。同じ運用益が非課税のNISAは税引後のお金で資産形成を行うのだから、大きな違いでこれでは整合性が取れない。

 だから受け取り時に課税して、税引後に帳尻を合わせる。iDeCoは現役時代に得したツケを、引き出し時に支払う、税金の後払い制度とも言える。

 そもそも、ボーナスと言い、退職金と言い、賃金の後払いに過ぎない。

 ことボーナスに関しては月給を低く抑え、半年に一度不足分をまとめて支払っているに過ぎず、本来支払われるべき賃金を回収しただけなのに、世間ではボーナス商戦と、金銭消費を煽られるのだから、いい迷惑である。

 後払いだから、支給条件が過去半年間の在籍期間で決まり、概して入社1年目の夏のボーナスが出ない若しくは雀の涙なのである。解せないのは、退職者は退職後のボーナスが、支給条件の期間に、利益に貢献しているにも関わらず、一円たりとも受け取れない点である。

 新人の夏に、査定期間が1〜6月に対して、4〜6月しか在籍していないことを理由にボーナスの減額がまかり通るのだから、3月末で退職した夏は、1〜3月分の在籍期間に応じて支払われるべきだが、そうはなっていない。

 ボーナス、iDeCo、退職金、こんな後払い文化のデパートかつ、年功序列で成果に見合った報酬も得られないなら、有能な人ほどジョブ型雇用で、報酬システムが単純明快な外資系企業を選ぶのは自明の理である。

 退職所得控除の見直しといった枝葉の議論をする前に、もっとやるべきことがあるような気がしてならない。


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