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有事の金買い?金でお腹は満たせない。


MMT論者に欠けている視点。

 2022年、世界全体の小麦輸出量を100とした時、28を占める2カ国で輸出どころではなくなり、輸入国は残った72の小麦を取り合う状態となり、物価が高騰したのは記憶に新しい。

 予算(=輸入額)を据え置くと仮定した場合、単純計算で単価はおよそ1.39倍となるのだから、輸入量を前年比71.9%まで減らさなければ、予算オーバーとなる。

 元々1kg300円で買えていた小麦粉なら、417円出さないと買えない計算になる訳で、これまで1300円あれば4kg買えていたものが、3kgしか買えないいことを意味する。

 ただでさえ庶民の生活は苦しく、財布の紐は固いのだから、こう言う時こそ円を刷りまくって物価高に対処するべきだ。と言うのが現代貨幣理論の大枠だろう。

 では、手元に1300円しかなく、小麦を3kg買えなかった人が、円を刷りまくったおかげで所持金が1700円になれば、小麦は今まで通りの4kgを買えるのだろうか?

 算数の問題なら正解だが、経済学ではそうはいかなくなるだろう。なぜなら、小麦の輸入量を前年の71.9%まで減らした事実は変わらないからだ。みんながみんな、余ったお金で今までのように小麦を買い求めると、国全体で見れば28%不足することから、価格は必然的に需給バランスが釣り合う所まで上昇する。

 つまり現代貨幣理論に則り、財政破綻の心配はないからと円を刷りまくったところで、買えるモノの数量(パイ)が増えない以上、悪戯にインフレを加速させるだけで「インフレにならない限り、国債はいくら発行しても問題ない」前提条件が破綻する。

交換するものがなければ、お金は無意味。

 小難しい経済用語など並べる必要などない。無人島にお金を持っていっても、相手が居ないのだから、交換できるモノやサービスも存在しない訳で、そこに経済はない。

 お金というのは、交換できるモノやサービスが存在して、初めて機能する訳で、市場経済にお金だけ増やしても、交換するものがなければハイパーインフレに陥ることは、歴史が証明している。

 私は有事の金買いには懐疑的なスタンスで居続けているため、知人とその手の話になる度に「金(Gold)でお腹は満たせない」と主張している。

 本当に有事なら、買うのは金ではなく、水と玄米と味噌になる筈なのは、先述した無人島の件を無意味だと、バッサリ切り捨てた構図と全く同じである。

 金はあくまでも、市場経済が回復するまでの間、現物資産として価値を保存するための道具に過ぎず、それ自体が人間の三大欲求である、食欲、睡眠欲、性欲のいずれかを満たしてくれる性質のものではない。

 この理屈を煎じ詰めると、一次産業のように何かを生産している人が最も有事に強い。この人たちは、たとえ金融資産を持ち合わせていなくても、みんなが欲するものを生み出し続ける限り、物々交換を通じて生活に必要なものを手に入れることができるからだ。

 日本は資源に乏しいことから、輸入に頼らざるを得ない。生活するだけで、自然に日本円は海外に出ていく。だからこそ、海外の人が欲しがるようなものを作り、外貨を稼げる人材を育てなければならない。

 それにも関わらず、この国はモノを作る人を蔑ろにしてきた。ものづくり大国ではなくなれば、日本製のモノを誰も欲しがらない。交換するものがなければ、日本円に価値はない。だから円安が加速している。これは目先の金利差よりも根深い問題だ。

老後2,000万円問題も、根っこは同じ。

 一昔前に公的年金だけでは、老後資金が2,000万円不足すると、平均のマジックで試算した大袈裟なパワーワードが、マスメディアによって一人歩きする羽目になったが、個人的にはお金で解決できればまだ良い話だと思うが…的な温度感である。

 内閣府が出生率と人口動態を基に試算したデータによると、2060年には高齢化率40%も夢じゃない超少子高齢化社会が待っているらしい。高齢化率28.4%の現代ですら、街中に高齢者が溢れかえっているのだから、控えめに言って地獄である。

 そう記すのは、残念ながら2060年時点に私が存命している場合、まだ6割の現役世代側だからだが、ここでは別にどうでも良い話だ。考えていただきたいのは、増加する高齢者の介護を、誰がするのか?の問いである。

 現在、エッセンシャルワーカーは2,725万人居るらしい。就業者人口が6,754万人だから4割を占め、残りの6割の人が、海外に売れるモノやサービスを作らなければ、円の価値はどんどん下がる。

 時に西暦2060年。人口は8,674万人と推計。就業者数は現役世代の92%と仮定し4,064万人。コンパクトシティ化でエッセンシャルワーカーを2割削減できたと仮定して2,180万人。半分以上の人が生活必須職に従事しなければ成り立たない社会である。

 そのうち、介護職員は現在の215万人から、340万人必要になると試算されている。しかし今よりも深刻な人手不足の中、就業者の12人に1人が介護職員となる社会に、現実味があるだろうか。

https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/sh20238703.pdf

 労働力の供給が不足すれば、交換できるサービスの総量は減る訳で、先ほどの小麦同様、供給が増えない構図が変わらない以上、需給バランスが均衡するまで価格は上がり続ける。

 2,000万円では足りない可能性も考えられるし、そもそも介護する人が居なければ、無人島と同じで、いくらお金を持っていても問題は解決しない。

 供給を増やすためには、島国である以上、移民のハードルもあるため、日本の子どもを増やす他ない。だからこそ、シルバーデモクラシーのままでは、縮小再生産で将来世代ほど希望が持てない社会となる。

 金でお腹は満たせない持論は、貨幣経済の限界につながっている。


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