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【#5】 マーケティング・プロセスの6つのフェーズ:「特定」フェーズ

前回の最後に

【発見】と【特定】は、特に行ったり来たりが重要、かつ、多く思考・試行するフェーズでもあると書きました。

https://note.com/researchandmetal/n/nbdcb28c825b9

今回は、【特定】フェーズについて、詳しく見ていきましょう。

【特定】フェーズにおける問い

このフェーズにおける問いは、「どこに注目すると良さそうか?」です。

問いをもう少し詳しくすると、

【発見】フェーズで決めた大きな方向性において、「特に誰に」「特にどのエリアに」フォーカスすることが、自分たちは効果的と考え、具体的にタックルすることを決定するのか?

になります。

このフェーズでは、前フェーズで取り組むと決定した課題において、よりも詳細に、苦しんでいる/解決策を必要としている人々やパーパス実現に向けてインパクトのより大きい人々/エリアなど、集中して理解および価値提案をおこなっていくターゲットを決めることがゴールとなります。

【特定】フェーズにおけるリサーチとターゲット理解の重要性


【特定】というフェーズの名前の通り、ここでは、ターゲットについて、リアリティと共感を持って理解することが非常に重要です。


「リサーチ」を詳細に解説する際に、具体的なリサーチ・デザインや手法については説明しますが、このフェーズでは、自分やチームが深くターゲットの課題感や実態を共感的に理解できるかどうかが重要です。そして、この共感的理解は、この後のフェーズやプロセス全体に関わってきます。

そのため、リサーチは非常に重要な要素になります。1on1デプスインタビューやホームビジット、エキスパートインタビューなどの質的なリサーチが、特に有効なフェーズです。

それに加えて、必要な場合は、質的リサーチで理解した/発見した内容を2次データや量的リサーチで確認することも重要です。

自分やチームの中で、N1インサイトと量感・規模感をしっかりと把握するイメージです。

「糖尿病」という取り組み内容を踏まえると

前回の【発見】フェーズで、私たちは「糖尿病」に取り組むことに決めました。

この【特定】フェーズでは、例えば、以下のことを理解していきます。

  • 糖尿病とその周辺領域において、どのような具体的な生活実態があるのか?

  • 生活者の気持ちは?嬉しいことや辛いこと、大変なこと、心配なことは?

  • すでに分かっているのに、解決されていない課題は?なぜ解決されていないのか?

もちろん、自分たちの組織が持っているテクノロジーなどを含めたアセットに応じて、他にも問いが出てくるでしょう。それらについては、クリアにできるようにしましょう。

「糖尿病」を巡る生活者理解が進む

さて、上記の問いをもとに、リサーチをおこなうと、「1型の人と2型の人」「糖尿病にすでにかかっている人」「糖尿病予備軍の人」「まだ予備軍まで行ってもないが生活習慣が乱れている人」「妊娠による糖尿病の人」などといったターゲット候補周辺において、生活意識や行動、実際の食生活や運動パターン、困り事など、共通する点と違う点が体感的に理解できます。

糖質管理の大変さ、思わず飲んでしまう/食べてしまう嗜好品とその時に感じている気持ち、インシュリン注射をめぐる気持ち、病院への定期的な訪問とその度に感じる恥ずかしさ、まさか自分がなるとは思っていなかった罹患前の生活、妊娠という喜びと不安が同時に存在する状態などなど。

リサーチデザインをきちんとしておくことが前提になりますが、しっかりとターゲットの話を聞いたり、事前課題などの内容を見せてみもらったりすると、生活実態とそれの底にある気持ち・ニーズなどが深く理解できるでしょう。

それらを深く解釈していくことで、奥底にあるキーインサイトやボトルネックとなっている課題などにダイブしていきます。(リサーチからワークショップを経て、これらを炙り出していく手法は別の記事で解説予定です。)

新しい「理解したいこと」が見つかることも

また、例えば、ホームビジットで本人に話を聞きながらも、ご家族にも話を聞いたり、家にあるアイテムから家族に話を広げることによって、「糖尿病の患者を支える家族のサポートも必要なのでは?」といった形で、新しい理解したいことが出てくることも多いです。

糖尿病は、本人だけでなく、ご家族も大変な病気です。そう考えると、本人に加えて家族もサポートできることが、実は自分たちの目指す目標を達成する上で重要な要素となるのではないか、という考えが生まれてきても自然かと思います。

【特定】フェーズに進んだことで、新たに「糖尿病と家族」という視点が見つかり、それが重要だと感じた場合は、一部【発見】フェーズに戻って、デスクトップリサーチやデータ分析を行いながら定量的な観点から理解を深めたり、「糖尿病患者の家族」を新たに調査対象としてリクルートし、インタビューを行うことで、彼ら/彼女らに焦点を当てて理解を深めたりすべきでしょう。

このフェーズでは、自分たちの発見や気持ちには素直に従い、誠実に理解を深めることが重要です。

【特定】フェーズは本質的に何をするフェーズなのか?

【特定】フェーズは、要は、これから全力を注ぐ「的と範囲を絞る」フェーズです。

「自分たちが一番貢献できる的と範囲は何か?」を徹底的にリサーチし、理解し、考えた上で決定することが重要です。したがって、納得いくまで情報・データを集め、検討してください。

【発見】フェーズのデータを血肉化する

この時、【発見】フェーズで理解した内容も合わせて『消化』していきます。『消化』という言葉の通り、それを自分のものとして取り入れるということです。

【発見】フェーズでは、デスクトップリサーチや関係者の意見・考え・経験などのデータが多くありますが、それは一般的な知識としてが多く、大抵の場合、まだ具体的に実感や感情が入り込んでいない状態です。

しかし、この【特定】フェーズでは、実際のターゲット候補者たちの生の声や生活実態を直接経験することになります。

そうすると、「糖尿病はさまざまな合併症を引き起こしていく。具体的には~~~。」といった一般的な知識データが、実際のインタビュー後は、自分の中で経験的な知識として消化され、生きた意味や感情を伴った知識になるのです。

もちろん、実際に自分が体験したわけではありません。しかし、以前は無味乾燥なデータだったものが、感情を持って語れるようになります。これは非常に重要です。

なぜなら、それによって、自分やチームがより強い意志を持つだけでなく、後の【価値創造】フェーズにおいて、「この人たちこそが、まず自分たちが貢献したい人たちだ」「だから、こういう価値を提案すれば喜んでもらえる」「だから、こういう形態にする方が使いやすい」といったコンセプトやクリエイティブの企画・制作がスムーズになるからです。

この影響は大きいです。なぜなら、ターゲット中心で「選択と集中」できるため、余計なことを考えたり、余計な作業をする必要がなくなり、「やるべきことの中で、ターゲットにとって良いと思えることを考え抜く」ことができるからです。

今回の事例では、「誰にアプローチするのか?」

今回は、先に述べたリサーチやワークショップ、解釈などをチームで行った後、「母体と子どもの双方に重大なダメージを与える可能性の高い妊娠糖尿病と診断された女性」をメインターゲットとして考えてみましょう。

このターゲットは、生まれつきの身体的な特徴や遺伝的な要素も関与しますが、「食生活」や「運動」といった日常生活の中で改善や治療に向けた動きができる要素もたくさんあります。

これは、パーパスである「人々の日々の健康に貢献し続ける」という目標にも合致しています。

また、このターゲットを通じて、将来生まれてくる大切な命にもお母さんを通して貢献できるという点も非常に重要だと考えました。

ターゲット・サマリーの作成と「目につくところに置くこと」

メインターゲットが決まったら、自分やチームが共通の理解を持てるように、必ずターゲットサマリーを作成し、プロジェクトの進行中に常に目につく場所に置くようにしましょう。

ターゲットサマリーには、キーインサイト、特徴的な生活実態、困りごと、理想と現実のギャップ、印象的な発言や行動、本人が気をつけていること、子どもへの思い、将来のイメージなどを含めます。イラストや画像などのビジュアルを使って、ターゲットがどのような人たちなのかを直感的に理解できるようにしましょう。

その際、特徴的なAさんという具体的な人物像でも、いわゆるペルソナのようなものでも構いません。

重要なポイントは、このサマリーによって、自分たちが常に「この人が喜んでくれるような価値を提供するのだ」という意識を持たせることです。ターゲットサマリーを通じて、その人たちにとって有益であると感じられる価値を提供することを常に考えられるようにしましょう。

個人的な意見としては、一般的なイメージになりがちなペルソナよりも、特徴的なAさんのような具体的な人物像を採用する方が好みです。そうすることで、ターゲットの特徴や個性が、自然と頭の中で描けるからです。

【価値創造】フェーズへのつながり

ここまで進んでくると、ターゲットの中で「具体的に何を解決したいのか?」という重要な課題が、いくつか明確になっていると思います。(1〜3つくらいでしょうか。)

次の【価値創造】フェーズでは、それらの主要な課題に対して、「自分たちは、どのような価値を提供し、どのような形で提案するのか?」ということを考えます。

次回は、【価値創造】フェーズについて詳しく解説していきます。



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