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やや"All that Jazz"

 営業はクリエイティブな職種だと言われる。

 確かに仕事にマニュアルがない。モノと向き合う運送業や製造業と異なり、相手にするのは人間だ。業務に絶対的な正解が存在しない。(などと言いつつ実際はドライバーさんも荷主を相手にしたり、工場内でも人間関係や序列があったりと、人と関わらない仕事なんてないんだけどね。でも話を展開しやすいからそういうことにしておく。)

 私の上司の上司、というかアドバイザー的な人は「この仕事は売り上げさえ上がればどんなことをしても良いから面白い、やりがいがある」と言う。そして「若いんだから何でも試してみなさい」と続ける。

 どうやらこの仕事は"All that Jazzすべて何でもあり"らしい。カモンベイビワドウィペィンザターンエンノーザッジャーズらしい。


  会社から求められる事はただひとつ、前年比110%の売上を達成することだ。そのためにはどんな手を使ってもいいらしい。

 かといってこの時代、不況やコロナ禍も相まって会社全体の売り上げが伸びる事はほぼ稀だ。毎年微減を繰り返している、前年比97%とかね。よく持ち堪えているといえばそうだし、物足りないと言えば物足りない。

 とはいえ扱っている商材が、生活に必要ではあるものの数量に大幅な増減がない品物なので、もう何十年も似たような売上を維持している。大幅には伸びないが、需要はほぼ100%なくならない商品なのだ。

 誰も口には出さないが、一生懸命売ってもさぼってもたいして変わらないだろう。なぜなら物件ごとに使う量がだいたい決まっているし、そもそも新築が立たなくては使われないからだ(住宅関連の業界なのよ)

 つまりどんな敏腕であろうが売上をぐーんと伸ばすのは不可能に近い。そしてそもそもぐーんと伸ばすべきではないのだ。

 大幅な飛躍が見込めない状況で、目標を達成する方法がひとつある。誰でも思いつく方法だ。"それは一年捨てて目標を下げればいいじゃん"ということだ。目標、もう言っちゃえばノルマが前年の実績に対応して変動するのだからその気になればハードルを下げられるのだ。誰でも思いつくが口には出さないだろう。

 でもこの本質を皆理解しているのは確かだ、ベテランは皆必死に売上確保に努めるが、同時に数字を上げすぎることも恐れている。翌年のノルマがキツくなるからだ。2019年に頑張りすぎると2020年に例年並みの売上を維持してようが売り上げを落とした扱いになり、評価がゴリっと下がる。

 わけがわからないが現実だ、こんなしょーもないことに皆真剣に頭を悩ませている。

 我が社では1−3月、4−6月、7−9月、10−12月の四期に分けて社員を評価する。ようは3ヶ月の売り上げが前年の同期間の売り上げの110%いけばいいわけだ。それだったら毎年2期を捨てればいいじゃんっていつも思う。1-3月と10-12月をサボって4-6月と7-9月は売り上げを伸ばす。翌年はサボった1-3月と10-12月のハードルが下がるからそこで達成すればいいじゃん。実現できるかはわからないが精神的余裕も持てるし仕事のモチベーションも高まりそうだ。

 この思想を社内でうっかり漏らしてしまったことがある。当然だがめっちゃ軽蔑されたし馬鹿にされた。馬鹿なこと言ってんじゃねーぞ、良いわけねぇだろうがと。

 何でもありって言ったじゃん!!!!!😵

 いわく「数字を作る手段はいくらでもあるだろうが」と、「"押し込み"とか"切り替え"とか」と。

 知ってるかい?"押し込み"と"切り替え"。知らない君に特別に教えてあげよう。きっとワクワクするよ🤗


 たのしい"押し込み"講座💕

 "押し込み"・・・・・・締日より後に納品予定の商品の納品時期を早めてもらうこと。あと在庫品を得意先に文字通り押し込むこと。

 まどろっこしいので具体的に説明すると、例えば4月2日に納品希望で40万円分の注文を受けたとする。3月分の売り上げを確保するために、その注文の納品を3月31日に早めてもらう、あるいは伝票上だけ3月31日に売ったことにしてもらうのだ。お小遣いの前借りみたいなモノだね。相手先にメリットがないため、大抵値引きを飴に交渉する。偉い人からは「安くしてでもブチ込め」と指示される。

 確かに目先の3月の売り上げを伸ばすためには有効ではある。でも考えてしまう。

 売上下がってんじゃねーか!?!?!

 しょーもねえテクニックを使わなければ4月にフルの金額で売れたハズのに安くなってね???どんな手を使ってでも1円でも多く確保しろとかいうくせに下がってんじゃん!!!!!!?!


 たのしい"切り替え"講座🌷

 "切り替え"、それは営業における奥義。領域展開のように強力な技だ。何をするのかというと、

 ①ハウスメーカー等の大手企業の下請けを担当している工事店に入り込む

 ②今やってる工事の図面、仕様書を見せてもらう

 ③図面で指定されてる他社メーカーの製品の中で、自社に似たような商品があったらそっちに切り替えてもらう。

 というわけだ。

 まどろっこしいので具体的に説明すると、LEGOを組み立てている人にダイヤブロックの似たようなパーツを売りつける行為だ。当然相手先にメリットはないため、値引きとセットだ。

 これは確かに強力なテクニックではある。自社の売り上げを伸ばせるだけでなく、他社の売り上げを奪うことができるからだ。どこのメーカーの人間もこぞってこれを狙う。

 2019年のラクビーワールドカップの後なんてひどかった。偉い人はどいつもこいつも「今年はジャッカルを狙え!!」なんて鼻息を荒くしていた。

 確かに数字を作ると言う意味ではめちゃくちゃ有効なのだが、私はこの活動にうんざりしている。

 実際に商品を使ってくれるユーザー様にとっては何の生産性もない行為だからだ。

 1つの物件を狙ったハゲワシどもが、互いにちょっとずつ値段を落としてライバルの提示金額の下をくぐりあう。すると物件の単価がどんどんとデフレしていく。予算が減ったしわ寄せは、実際に手を動かす職人さんだったり、成果物のクオリティーに響く。

 新規の物件を獲得するよりこっちのが効率が良いのは確かだ。土地を耕して作物を育てるより、食べ物を持ってるやつからブン取った方が効率が良い。でもなんかさぁ、やってて気持ちよくないんだよな。

 と言うことで以上”楽しいお仕事紹介”でした!また1週間クソみたいな生活をがんばろーねー😁

おしまい

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