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はなす、はなつ、はなれる(文字とイメージ・02)

 この「文字とイメージ」というシリーズでは、私の気になる文字や文字列を並べて、そのイメージをながめていきます。なお、ここで言うイメージとは、あくまでも個人的で私的な印象のことです。

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 はなす、はなつ、はなれる
 話す、放す、離す、放つ、離れる、放れる

 音声としての言葉は、放され放たれると離れていきます。離れて聞こえなくなると消えたという思いが残りますが、本当に消えたのでしょうか。

 ずっと向こうへと遠くへと彼方へと放され放たれ離れていくという気もします。

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 ことば、言葉、ことのは、言の葉、は、葉、端、歯、刃、羽、波、派

 くちのは、口の端、ことばのはし、言葉の端、はし、端、橋、梯、嘴、箸

 私にとって、音声としての言葉は「は」であり「はし」です。

(この「文字とイメージ」というシリーズでは、語源や由来には必ずしもこだわらずに、「似ている」という感覚と連想を大切にしながら話を進めていきます。正しいとか正解を求めないし目指さないという意味です。)

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 はなす、はなされる、はなれる、は、はし
 は

 私にとって「はなす」は「は」であり「はし」。

 一方、「かく」は「かく、描く、書く、掻く、引っ掻く、掛く、懸く、欠く・繋く・駆く」です(「かく」については別の記事で書く予定です)。

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 放すと離れていくもの、遠くへと離れていくもの
 目では見えないもの、消えていくもの
 発したとたんに片っ端から消えていくはかないもの

 はかない、はんぱ

 目では見えませんが、気配とか感触とか存在感はあります。漢字にすると、「は」のそうした、はかなくて半端な感じの「物」が現れます。

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 愛用の辞書(広辞苑)で「は」という見出しで出てくる漢字のイメージを見てみます。以下のイメージは個人的な印象ですので、必ずしも辞書に載っている語義にとらわれるものでありません。

 は・葉:言の葉、ひらひら舞う、まい・舞い・枚、風に飛ばされる、は・端:はしっこ、はしやへりやふちは外界と接する場、は・歯:話す時には歯を通ったり越えて息が流れる、歯なしでは話しにくい、は・刃:言の葉で世界を切り取る、世界を切り分ける、は・羽:翼ではなく羽根・翅、空(くう・そら)を舞いながら飛ばされる言の葉、は・波:言葉(音声)は波動、は・派:「は」は派生の「は」、言葉は分かれ、分ける、言葉・言語・言語活動は木や川のように分岐する、は・把:つかむ、にぎる、把握する、は・爬:つめでひっかく、はう、は・播:種をまく、広くおよぼす、は・破:やぶる、沈黙を破り、「はっ!」と声を「はっ」する・「発」する、ハッスル、hustle、は・翳:はあ?

「は」に当てられた漢字をながめているうちに、どれもが「はなす」と関係があるように見えてきます。私は暗示にかかりやすいのです。

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 葉、端、歯、刃、羽、波、派
 薄くて、本体の端っこあって、ぺらぺらひらひらしている

 もちろん、舌を忘れるわけにはまいりません。言の葉を発するためには最も大切な器官です。

 舌、tongue、language、langue

 舌については「LRT―舌の位置をめぐる話(薄っぺらいもの・03)」で、かなり詳しく書きました。興味のある方は、ぜひお読みください。

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「は」を「はし」にすると、はんぱな端っこ感がポジティブなイメージとして立ち現れます。

 端、橋、梯、嘴、箸
 はしっこ・へり・ふち、はし、はしご・かけはし、くちばし、はし

 はしとはしを「つなぐ」、はしとはしに「かける」、はしからはしへと「わたす」

「はなれている」という距離(へだたり)が「つなぐ」や「かける」や「わたす」という身振りや動きで、関係性(かかわり)へと転じるのです。

 かかわるためには、ある程度の距離(へだたり)がなければならないのに気がつきます。

 隔たっているから、距離があるからこそ、かかわろうとするのです。相手とかかわろうとするさいに用いられるのが、へり、はし、はしご、くちばし、おはしだと気づきます。

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 はなす、はなつ、はなれる
 話す、放す、離す、放つ、離れる、放れる

 人は声を、発し、放ち、話し、離します。離れている相手にむかって、「はなす」のです。

「かかわる」ために「はなす」のです。

関わる」ために「離す」

 何を「離す」のでしょう?

 葉、端、歯、刃、羽、波、派
 舌

「離す」のは自分ではないでしょうか。自分の先端にある自分の一部を「離す」とか「(バイバイとハンカチを振るように)ひらひらさせる」のです。

 自分の先っぽにある尖ったものを「離す」あるいは「はためかす」というイメージ。

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 指もそうではないでしょうか。指も「はなす」と言えそうな気がします。というか、指の場合には「さす」ことで「はなす」のです。

 指でさして、はなすというのは、誰もが日常的に経験しているはずです。特に、言葉が通じない相手に。

 指で「さす・指す・差す」ことで「はなす」

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 指は実に器用です。いろいろな「さす」に用いられます。

 さす、差す、指す、刺す、挿す、点す、注す、制す

 指は「かく」にも用いられます。

 かく、描く、書く、掻く、引っ掻く、掛く、懸く

 話は「さす」と「かく」だけにとどまりません。

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 指も自分の先端(端っこ)、つまり「は」であり「はし」であることに気がつきます。とりわけ、指先の「はら・腹」(指紋のある内側)はきわめてセンシティブです。

 指の腹で「なでる」、「すべらせる」、「たたく」、「はじく」、「ころがす」といったこともできます。

 screen、display、keyboard、mouse

 そうやって「はなす」とか「かく」とか「よむ」とか「みる」とか「きく」ことができるのは、みなさんご存じだし、現に今この時点でも、なさっているのではないでしょうか? 

 slide、scroll、swipe

 指は「は・はし」、指は「はなす」

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 猫が鳴き 話ができず 指でさす
 先を噛まれて
 身の程を知る

 ところで、猫には舌と歯以外にとても優れた「は・はし」があります。なんと言っても爪です。あと、きわめてセンシティブなぷにぷにした肉球(ヒトの指の腹を連想します)でしょうか。あと、ひげも。

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