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相方の内なる人格に出逢った話

 人には数百の副人格がいるという事だけど、最近起きた出来事をきっかけに、相方に新しい人格『サブパーソナリティ』が出てきた。どうやらその副人格は最近オリジナルと手を組んだらしい。

使えなくなった右手

 わたしたちのパートナーシップは、出来る事はそれぞれが出来る範囲で担当し、生活費や家事なども分担して一緒に暮らしていくというスタイル。相方にとって料理というものは、ボーイスカウト時代のサバイバル料理以外経験がなく、故にわたしが料理や家事を担当してこの20年穏やかに暮らしてきた。ところが2021年の暮れに起きた出勤途中の転倒事故で、私が右手首を骨折。家事・料理一切が出来なくなってしまった。当然生活するためには誰かがそれをしなければならない。そこで、相方が必要に迫られて家事・料理を担うようになった。

サブパーソナリティの出現

 右手が使えない不自由さはなってみないとわからないもので、すべての生活に影響が出てしまう。何もできない私の代わりに相方は食材の買い出しにはじまり、料理、洗濯、掃除と大奮闘。同時に彼の中に新たな人格が出現。サブパーソナリティ『H』と仮に名付ける。オリジナルの相方は、物創りが大好きで、常に探求心を趣味に全開している。サブパーソナリティ『H』はなんと、彼が今まで興味を示さなかった料理や家事に向けてオリジナルに負けず劣らず探求心を向けてきた。そして、私の何倍ものパフォーマンスを発揮し出したのだ。調味料の使いやすい収納の仕方、無駄のない献立て、効率の良い片づけ方etc. 以前わたしが料理・家事を担当していたときよりずっと良い仕事してる・・・ちょっとの工夫で使いやすくキッチンが整理されたり、食べた事のない料理が食卓にのぼったり・・スゴイヨ!

怪我をしてはじめてわかった事

 ギブスが取れてわたしの手の怪我がだいぶん回復した今でも、彼は家事の手伝いを続けてくれている。ある日、彼(オリジナル)にわたしがギブスで何もできなかった当時の事をどんなふうにとらえていたのかを聞いてみた。

「すべてに気が廻るわけじゃないから、やってほしいと思った事は言って」

 私が家事をできなくなって自分がそれを行うようになってはじめて私に任せきりにしていたと思ったと気づいたそうだ。私自身も、特に何も疑問を持つ事なく、自分が家事をするものだと思って疑わずに20年くらい過ごしてきた。だけど、その中で家事が苦手な自分を常に感じていた事も否めない。だけど相方にそれを『伝える』という概念を持たなかった。

苦手な事は苦手と言えばいいんだ。

 パッと目の前が開けたようだった。自分の過去の結婚生活では、昭和の夫婦像が色濃く残っていた。夫は仕事をして、妻は家事と育児をする。それこそが分担だった。だけど今は令和。そして私と相方は世間一般の昭和生まれの夫婦よりも柔軟な考え方を持っていて、思った事はすぐに伝えさえすれば互いに理解できる。

オリジナルとサブの融合

 今回の自分の右手骨折のせいで出現した、彼の中にいるサブパーソナリティ『H』は、オリジナルと共存をはじめたみたいだ。料理や家事といった、オリジナルとは別のベクトルへの創造的な好奇心を持った『H』はわたしの怪我が回復しつつある今も変わらず気が向いたら掃除機をかけ、洗濯を干し、仕事帰りに買い物をして、帰ったら私と一緒に台所に立って料理を探求する。
 そして、毎日昼ごはんどきになると、『今夜の晩御飯何にする?』とメッセージを送ってくる。 ごく自然な彼のアプローチに、サブパーソナリティ『H』はきっとオリジナルの中で居場所を見つけて融合したように感じている。きっと今回のわたしの怪我がなければ、表に出る事はなかったかもしれないが、今、オリジナルと『H』は料理に本当に楽し気に取り組んでいる。

 怪我をするのは痛いけど悪い事ばかりじゃなかった。そんな気がしている。by NICOL


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蓮園はお人形の和風衣装デザイン制作を中心に活動する園長にこると影武者2名のユニットです。現在ベクトルが他に向いているので、ドール写真少な目? ttph://www.ren-en.jp/