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名前チェック儀式の結果

驚いたことがあった。

例の彼の猛威のもと、ジムの各クラスは完全予約制となり、入室の際には名簿で名前をチェックするようになった。

前にも書いたが、俺はボディコンバット中毒に掛かっているかもしれず、多い時は週8でクラスに参加している。本当にコンバットなんかやっているのか疑われるほど身体はダブダブなのだが、本当にボディコンバットのクラスだけは行かずにおれない。

まあいい。

インストラクターによってやり方が違うのだが、あるラクターは時間寸前まで外で待たせておいてから、名簿の上から名前を呼んでチェックしながら入室させるし、あるラクターは並んだ順番(と言っても日本のようにきちんと並んでいることは皆無だが)に名簿から探して入室させるし、あるラクターは割と早めに来て立っていて、来た人からチェックしながらどんどん入れていく。

これは確かに面倒くさい儀式ではあるけれども、ある意味とてもいい結果をもたらした。

ラクターさん達が、レギュラーで参加している輩の多くの名前を覚えてくれたのだ。

自由参加だった以前はそんなチャンスは無かった。いちいち名前を尋ねたりはしないからだ。顔は覚えているが名前は分からない。だから両者にはいまひとつ距離があった。

しかし名前チェック儀式の結果、ラクターさんが輩個人の名前を呼んで話しかけてくれるようになった。これはとても良かったと思う。なんならコンバットをやっている最中に「ほらほら、どうした、へばったのか、xxx!」てな感じで、名指しでいじったりしてくれる。こうまでなれば親近感がより湧いてくるだろう。さらに楽しくなる。

名前を読み上げてチェックするラクターのときは、待っている輩も他の輩が何という名前かわかる。とすると声もかけやすくなる。とてもいい。

さて、ある日時間が来てそろそろ始めようかというとき、ラクターが名簿をみながら「XX子が来ていない」と、日本人の名前を言った。

「あれ、日本人がいるのか、どんな人だろう?」
そんな風に思いながら肩のストレッチなんかしていると、ドアが開いて(俺はいつもドアの前に陣取っている)誰か入ってきた。

「おお、xx子。間に合ってよかったわ」
ラクターが微笑む。xx子さんが俺の脇を抜けていく。

ええええええええええええええええええええっ
に、にに、ににに、に、日本人だったの?

驚いた。けっこう驚いた。

彼女はコンバットの常連で、ずっとずっと以前にも彼女について書いたことがあった。ボディコンバットを独自の解釈⁈で踊るように動く人なのだ。衆目に晒されているのを認識しつつ、自らを完全に解き放っている。女優さんならいざ知らず、一般の日本のご婦人なら家の外ではまずできない仕業だと推測する。

どこの国の人だか容貌からは想像できず、だからといって「日本人」という選択肢はこれっぽっちも浮かんでは来ない状態のまま放置されていた。しかし、例の彼の猛威のお蔭で、なんと彼女の国籍が明らかになったのだ。
驚いた。本当に驚いた。

なんなら「えーー」という声が漏れたかもしれん。

名前が分かると声がかけやすくなると書いたが、
ちっともそんなことはないじゃないか、俺!

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