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街の中の素敵な筆文字の魅力を一方的に書いてしまう。「中国銀行」

中国銀行という銀行がある。

が、日本の中国地方にある銀行ではない。
北京市に本店がある中国の銀行だ(ちなみに中国の中央銀行は「中国人民銀行」)。どうやら日本には東京都・横浜市・大阪市・名古屋市・神戸市に支店があるらしい。

一応書いておくと、日本の中国銀行は中国地方である岡山市に本店がある地方銀行で、広島県や香川県に多く展開しているらしい。個人的には広島にも岡山にも香川にも馴染みがないのでこの銀行のことは全く知らない。

中国の中国銀行の支店はシドニーにも3か所あって、中国人の多く住んでいるチャツウッドにもそのうちの一つがある。

俺の金は1ドルたりとも入っていないので、俺とは何の関係もない銀行だ。
ただ、その何の関係もない銀行に感じる魅力がある。

それがこのロゴである。

以前日本企業のお茶と海苔のメーカーである「山本山」のロゴのことをべた褒めした記事を書いたが、マニアック過ぎたのか、文章が面白くなかったのか、誰も俺のことなど知らないから文章そのものに気が付かなかったのか、俺の魅力が無さ過ぎるのか、他に思いもしない理由があるのか、もしかしてそれら全部が理由なのか、反応はほぼ無かった。

書道教室で「山本山」のロゴのすばらしさを力説しても、お稽古に来ている奥様方は「はいはい、そうですか」という程度の反応しかない。

まあいい。いやよくはない。

さてではこの中国銀行のロゴの話をしよう。
いい感じだとは思わないだろうか。

チャツウッドの支店の看板は縦書きで作られている。
個人的な推測だが、元々縦書きだったのではないかと思う。それを大人の事情で横向きの西洋型のものも作ったのだろう(西洋型というのは左から右に書いていくことだ。中国日本型なら横書きも右から左)。

一番の魅力は「中」の太い縦線だろう。細目の線で書いた「口」を、その何倍もある太くてどっしりとした力強い線でぶった斬ることで文字の「黒感」を前面に押し出している。

その代わり、次の「國」は全体的に線を細くし、囗の中の空間を多くとって、「白感」を作っているのが分かるだろう。

普通に考えたら、画数の多い方が黒っぽく、少ない方が白っぽくなる。しかしここでは敢えてその逆を行っているのだ。

「あれ、そう言われてみればそうかもね。」と思い始めただろうか。
それはとてもいい傾向だ。

では「銀」はどうか。
ご安心あれ。これにも勿論思惑がある。

単独でこの字を美しく書こうと思えば腰高にするのが良い。
旁の「艮」の部分の腰より下のスペースを多くとり、脚を長く見せるのだ。
スラっとカッコいい形になるだろう。

しかしこのロゴの「銀」はどうだ。
重心をグンと下げて、めちゃめちゃ短足に書いている。
重心を下げるために「金」の3画目の横線もあんなに低いところから始めている。「艮」もしかり。一画目のコーナーを曲がってからの縦の線を長めに引いて、腰より下のスペースが狭くなるように画策しているのだ。
だから普通はあんなに空くはずのない空間が「金」と「艮」の上部に広く空いているのである。

「行」はご覧の通りである。
「彳」と「亍」の墨の入れ方を変えて、黒白の対比を明確にしてある。偏の太い二画の斜め線、旁の細い二画の横線を黒白ではっきりと対比させながらも、その運筆のリズムは単純にして同じだ。お分かりになるだろうか。

「銀」の字で重心を下げたところに「行」は上部に目が行くようにし、
最終画に少し墨を入れて納めてあるのがまたいい。

そしてやっぱりこの四文字は縦に並んだ方がよりいいと思ってしまう。
大人の事情があるんだろうけども。

もう一つ個人的な好みを言わせてもらえば、もうちょっと穂先の短い毛の筆で筆圧を利かせて書いた方がより洗練されるのではと思う。まあこれは俺の好みなだけだけども。


さて、どうだろう。
拙い文章で申し訳ないが、このロゴの文字の魅力が少しは伝わっただろうか。

街の中の素敵な筆文字を見ると
とても楽しい気分になるのである。



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