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自己紹介のかわりに

最初の記事は何を書こう、と色々考えてみたけれど、まずは好きな本を少しずつ紹介してみることにします。


最初に紹介するのは、

木田元(編)『一日一文 英知のことば』(岩波書店、2018年)


古今東西の思想家・作家・科学者など,大きな仕事をなしとげた人たちが残したことばは,深く,厳しく,温かく,明晰であり,時に底知れぬ苦悩を湛えます.そうした先人たちのことばを1年366日に配列しました.短い章句ですが,どれも生き生きとした力で読む者に迫り,私たちの人生に潤いや生きる勇気を与えてくれます.(岩波書店HPより)

編者は木田元(1928~2014年)。現象学の哲学者です(『反哲学入門』『ハイデガーの思想』などが有名だろうか)。

本書は、2004年1月に刊行の同書を文庫化したものだそう。


特に、私は「はじめに」がお気に入り。

 学生時代に詩や小説に読みふけり思想書を読みあさった人たちも、社会に出ると日々の仕事に追われて本などのぞく暇もなくなり、通勤電車のなかでスポーツ新聞や週刊誌に目をとおすのが精いっぱい、ということになるらしい。
 だが、それでは淋しすぎはしないか。せめて一日に数行でもいい、心を洗われるような文章なり詩歌にふれて、豊かな気持で生きてもらいたい。(本文3頁)


文学、哲学、宗教、歴史。
毎日ひとつずつ、珠玉の名文に触れることができる。


私が読み始めたのは今年から。

この本を枕元に置いて、疲れた時や悩んだ時、癒されたい時に眺めている。

読むのではなく、眺めるのがポイント。

(まともに読もうとすると、かえって疲れてしまうこともある。)

【3月7日 バフチーン】笑いは深い世界観的な意味を持つ。笑いは統一体としての世界、歴史、人間に関する審理の本質的形式である。それは世界に対する特殊な普遍的観点である。この観点は世界を別な面から見るが、厳粛な観点よりも本質をつく度が少ないわけではない(多くないとしても)。
【4月8日 ブッダ】いかなる生き物生類であっても、怯えているものでも強剛なものでも、悉く、長いものでも、大きなものでも、中くらいのものでも、短いものでも、微細なものでも、粗大なものでも、目に見えるものでも、見えないものでも、遠くに住むものでも、すでに生まれたものでも、これから生まれようと欲するものでも、一切の生きとし生けるものは、幸せであれ。(113頁)
【4月30日 鏑木清方】鶸色に萌えた楓の若葉に、ゆく春をおくる雨が注ぐ。あげ潮どきの川水に、その水滴はかぎりない渦を描いて、消えては結び、結んでは消ゆるうたかたの、久しい昔の思い出が、色の褪せた版画のように、築地川の流れをめぐってあれこれと偲ばれる。(135頁)

私はつい、歴史学者のことばを読みふけってしまうけれど、哲学者のことばに感嘆するのも、詩人のことばにうっとりするのも大好き。

それぞれの人物の略歴も付されているので、文脈を想像しながら読むのも楽しい。

大学院生活が終わり、学問からも離れつつあるけれど、この時間は大切にしていきたい。

一日の良い終わりに、ぜひ。


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