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短編小説14「フィクションに猫の設置することについて」

Illustration&picture/text Shiratori Hiroki

 「猫飼ってるじゃん?」ツイッターのリプ欄に妙なコメントがあった。山手線沿いにある喫茶店にスポットを当てた【山手線喫茶】というアカウント名で数年ほど前から‘喫茶店名’‘営業時間’‘喫煙可能’などを記した日記のようなものを投稿している。気がつけば数万人のフォロワーを抱えたこのアカウントだが、それが私のアカウントだと誰にも打ち明けてはいない。そんなアカウントにリア友の斉藤からリプが来た。彼はおそらく、私であることを知らないと思う。
「猫飼ってるじゃん?」と斉藤「この喫茶店、猫いないですよ。」と返信すると「いやいや。木嶋、猫飼ってるじゃん?」と返信がきた。木島とは私のことである。私は猫飼ってないし、木嶋じゃなくて木島ね。「人違いだと思います。」と返信するとそれから会話が続くことはなかった。


 その日の昼過ぎになぜか光熱が出た。毎日のように通った大学の帰り道がすごく遠く感じて、このままだと今日の夜は寝込むだろうなと思って、帰りに栄養剤を買って帰ろうとした。フラフラとしながらいつもの帰り道を歩く。それでもスマートフォンで週末に行く喫茶店を検索する。習慣化された生活は一度でも崩してしまうと、元の状態に戻すのにはけっこう苦労する。沈黙を守る森の静けさのようなものが振り返るとあたかもそこに現れて、忘れさせてくれないようなそんな苦労がある。だから大抵のことがない限り、それらをストップさせることはない。今回の高熱も例に漏れず。


 近くの薬局で栄養剤を買って、家に向かうところで向かい側からビニール袋を片手に誰かが走ってくるのが見えた。だんだんと近づいていくにつれてそれが斉藤のような気がしてきた。というかたぶん斎藤。遠くから私の名前を呼んでこちらに向かって、必死に走ってくる。
キジマ!熱出してるんでしょんー?
「そうですけど、、なんで知ってるの?」というと彼は息を切らしながら、こちらを向いてビニール袋を私に渡した。そこには栄養剤が入っていて、彼は満足したように駅の方へ走り出した。私は思わず「エスパーなの〜?」と叫んだ。
「エスパーだよー!」と斉藤も叫んだ。

そんな不確かな会話の節々に猫がいたら少しは和むのかもしれない。


 INFORMATION

白鳥ヒロ
2001年生まれの巳年

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