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素人でもわかる永世中立国#8~まとめ~

「歴史の悪魔チャンネル」へようこそ!

今回はシリーズ「素人でもわかる永世中立国」の最終回でまとめに入っていきましょう。

【前回の記事】※第○回をクリックするとリンクにつながります

第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回

【まとめ】

 シリーズ『素人でもわかる永世中立国』ではスイス・ベルギー・ルクセンブルク・コスタリカの4ヵ国を例に取り上げて永世中立について解説してきました。そこで今回はまとめとしてそれらの国の特徴について簡潔にまとめていきたいと思います。

【スイス】

スイス (2)

スイスの周辺国
フランス・ドイツ・イタリア・オーストリアといった歴史的大国に囲まれており、
自国の安全保障のためには武装中立路線は不可欠である

 永世中立国といえばまずスイスを連想される方も多いですが、スイスの永世中立は「武装中立」であり徴兵制と国防の充実によってスイスの中立は保たれています。また、厳密な意味での永世中立国である以上軍事同盟は勿論のこと集団安全保障への枠組みに加盟することは許されていないため国際連合やEUといった国際機関への加盟に支障が出る場合があるのです。


【ベルギー・ルクセンブルク】

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ベルギー・ルクセンブルクの周辺国
両国はフランス・ドイツの緩衝地帯として永世中立国であったが、
周辺国の保障を受けながらも二度にわたり中立を侵害されてきた

 ベルギールクセンブルクはフランスとドイツの緩衝地帯として永世中立国となり周辺国による保障を受けましたが、第一次世界大戦・第二次世界大戦の両方で保障国であるドイツによって中立を侵害されてきました。両国の例は永世中立国であると宣言してもその中立は完全に保障されるわけではないということを示しているのです。


【コスタリカ】

コスタリカ 地理

コスタリカの周辺国
厳密な意味での永世中立国ではないが、
1983年の永世中立宣言は結果的に自国を安全保障上の危機を救うこととなった

 コスタリカは元々は永世中立国ではなく集団安全保障の枠組みに参加していましたが、中米紛争が発生した際に紛争に巻き込まれるという事態を避けるために中立宣言を発表しました。しかし実際は中立といいながらもスイスのような厳密な意味での永世中立国ではなくアメリカ寄りの中立国という立場にあります。

芬ソ地図

冷戦期のフィンランドの地図

 「○○寄りの中立」はコスタリカに限られたことではありません。例えばフィンランド1939年の冬戦争・1941~1944年の継続戦争でソビエト連邦と孤立無援の状態で戦争して国土の12%を失って以降冷戦期を通して外交では中立路線を取りながらもソ連と友好関係を築いておりました。

 フィンランドのソ連寄りの中立路線が成立した背景としてフィンランドとソ連の国境線が約1300㎞と長く、またフィンランドの首都ヘルシンキがソ連の大都市サンクトペテルブルク(当時:レニングラード)との距離が290㎞と近いなどフィンランドの立地自体がソ連の侵攻の影響をもろに受けやすかったことと、冬戦争ではフィンランドは孤立無援でソ連との戦争を強いられた経験があり、戦後はフィンランドの安全保障上隣接するソ連の警戒を解くために親ソの中立路線を取らざるを得なかったのです。

 以上のように中立路線を取る国々は大国の緩衝地帯に位置するなどのそれぞれの事情によってそれぞれ違う形の中立路線を取ってきました。しかし、中立を保つことは容易なことではなくベルギー・ルクセンブルクのように中立を侵害されることもあります。2ヵ国間以上による集団安全保障の枠組みが浸透した現在において「永世中立国」という選択肢が注目される中で自国はどのようにして自国の安全保障を築いていくのかが重要になっていきます。


 今回で計8回にわたるシリーズ『素人でもわかる永世中立国』は終了します。皆さんご愛読していただきありがとうございました。また別の記事でお会いしましょう!

【参考資料 総合】

◎ブリタニカ国際大百科事典
◎日本大百科全書
◎意外に大きい日本の国土 国土技術研究センター
http://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary02

【武装するスイス 参考資料】
◎スイス基礎データ | 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/switzerland/data.html#section1
◎地理-統計データ
https://www.eda.admin.ch/aboutswitzerland/ja/home/umwelt/geografie/geografie---fakten-und-zahlen.html
◎Global IBIS 編集部「永世中立国スイスにおけるシェルター普及の訳」『機能材料』2012 04 32(4):68-70
https://www.cmcbooks.co.jp/user_data/pdf/niche1204.pdf
◎SWI swissinfo.ch
https://www.swissinfo.ch/jpn
◎小久保康之「スイスのEU政策」『日本EU学会年報』2016 36:268-286
https://www.jstage.jst.go.jp/article/eusj/2016/36/2016_268/_pdf/-char/ja
◎広瀬 孝文/ボーチェック ボレスラフ A.「永世中立と国際連合 : スイスとオーストリアの国連外交の比較研究」『聖徳学園岐阜教育大学紀要』1976 3:28-56
◎スイスの歴史 | スイス政府観光局
https://www.myswitzerland.com/ja/planning/about-switzerland/history-of-switzerland/

【破られた中立 参考資料】

◎ベルギー基礎データ|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/belgium/data.html
◎ルクセンブルク基礎データ|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/luxembourg/data.html
◎和仁健太郎「伝統的中立制度の成立-18世紀末〜20世紀初頭における中立-」
『国際関係論研究』2005 (24):29-57
◎木戸沙織「「三言語話者」と「三言語併用社会」 -ルクセンブルクにおける社会の単言語化と語学教育の課題-」
『東北医科薬科大学教養教育関係論集』 2016 30:1-22
◎矢口啓明「ヨーロッパ協調とニコライ一世の外交政策 -ベルギー独立問題への対応から-」
『東北アジア研究』2017 21:45-70
◎石津朋之「「シュリーフェン計画」論争をめぐる問題点」
『戦史研究年報』2006 (9):89-117
◎若松新「欧艸における独立国としての小国の地位 -ルクセンブルクの言語、軍隊、通貨をめぐって-」
『早稲田社会科学研究』1995 (51):147-197
◎田村幸策「日本をめぐる中立問題 -日本の安全保障との関連において-」
『國士舘大學政經論叢』1969 (9):157-198

【軍隊無き変わり種 コスタリカ 参考資料】

◎コスタリカ基礎データ|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/costarica/data.html
◎小澤卓也「コスタリカの中立宣言をめぐる国際関係と国民意識 -モンヘ大統領の政策を中心に-」
『ラテンアメリカ研究年報』1997 (17):29-53
◎山岡加奈子「コスタリカの非武装と対米関係 -小国の国際関係-」
『アジ研ワールド・トレンド』2013 218:12-15
◎山岡加奈子「第2章 コスタリカ外交 –理念と現実-」
『岐路に立つコスタリカ : 新自由主義か社会民主主義か』2014 :18-40
◎山岡加奈子「第3章 コスタリカをめぐる国際関係 米国との関係を中心に」
『岐路に立つコスタリカ : 新自由主義か社会民主主義か』2014 :77-97
◎足立研幾「常備軍なきセキュリティ・ガヴァナンス -コスタリカの事例-」
『立命館国際研究』2018 30 (4):23-43

※『日本大百科全書』『ブリタニカ国際大百科事典』は JapanKnowledge 及び コトバンク でご覧になれます。


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