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1.1億円 ⇒ 4.4億円 特許権を侵害した場合の損害額は高額化していくのか?

今月12日に、特許庁が、令和元年の法改正についての解説書を公表しました。

その中でも、実務に影響が大きい「損害賠償額算定の見直し」について、本記事においてコメントします(他の改正内容については別記事にする予定です)。なお、この改正は先月1日より既に施行されております。

今後は法改正前に比べ、損害額は高く認容されるケースが多くなるでしょう。

既に法改正の施行前から、損害額を高く認容される傾向にあります。
例えば、本年2月28日、(株)MTGの美容ローラーに関する特許権侵害事件において、知財高裁は、原審が認めた約1億1000万円の損害額から、判決を変更し、約4億4000万円以上の損害額を認容しました(判決全文はこちら)。
通常は3名で事件を審理しますが、本件は、知財高裁の各部の部長ら5名で議論する大合議の結果であり、大きなメッセージと受け止めてよいでしょう。

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事案にもよるとは思いますが、この後説明するように、法改正による算定式の変化に伴い、損害賠償額が増額される傾向は顕著になると思います。

改正法の条文は、102条1項及び4項がポイントです。
102条1項は、「販売数量の減少による逸失利益」に加えて、「ライセンス機会の喪失による逸失利益」も含めた損害額となるように設計しております。
102条4項は、ライセンス料相当額の算出に当たって「侵害し得」をさせないように設計しております。
条文の文言は下記に引用するので参照してください。

(損害の額の推定等)
第102条 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
 特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額に、自己の特許権又は専用実施権を侵害した者が譲渡した物の数量(次号において「譲渡数量」という。)のうち当該特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた数量(同号において「実施相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量を乗じて得た額
 譲渡数量のうち実施相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(特許権者又は専用実施権者が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許諾又は当該専用実施権者の専用実施権についての通常実施権の許諾をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該特許権又は専用実施権に係る特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額
2(省略)
3(省略)
 裁判所は、第1項第2号及び前項に規定する特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、特許権者又は専用実施権者が、自己の特許権又は専用実施権に係る特許発明の実施の対価について、当該特許権又は専用実施権の侵害があつたことを前提として当該特許権又は専用実施権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該特許権者又は専用実施権者が得ることとなるその対価を考慮することができる。
5 (省略)

102条1項の損害額の算定方法

102条1項の損害額の算定方法を簡素化すると次のようになります。

102条1項の損害額 = 同項1号 + 同項2号

102条1項1号
  侵害行為がなければ販売できた物の単位数量当たりの利益の額 × 侵害者の譲渡数量(※)
※ 譲渡数量 = 実施相応数量を超えない部分 - 特定数量
  実施相応数量 : 実施の能力に応じた数量
  特定数量 : 販売することができないとする事情に相当する数量

102条1項2号実施相応数量を超える数量又は特定数量がある場合※)
  これらの数量に応じたライセンス料相当額(102条3項参照)
※ ライセンスの機会を喪失したとは認められない場合を除く。

ライセンス料相当額(102条1項2号及び3項)の認定(102条4項)
= 権利侵害前提で合意した場合に得られる対価を考慮可能

101条1項2号の想定ケース

字面ばかりではわかりづらいと思うので、上記「損害賠償額算定の見直し」に記載の5つのケースのうち、2つのケースを紹介します。

ケース1 実施相応数量を超える数量に係る損害賠償

(上記「損害賠償額算定の見直し」より引用)

ケース1は、特許権者の生産能力に限界がある場合に、他社にライセンスして、ライセンス料を得る事案をイメージしたものです。
上記のケースでは、特許権侵害の損害額は、44万円と算出されていますが、法改正前は、多くの裁判例で30万円の部分でしか損害額を認めておりませんでした。
今後は、同種事案では、法改正前に比べ、損害額が高く認容されると思います。

ケース2 特定数量に係る損害賠償 侵害者の営業努力

(上記「損害賠償額算定の見直し」より引用)

ケース2では、たとえ、侵害者の営業努力による影響が大きかったとしても、そもそも特許発明を利用しなければ販売できなかった以上、その部分については、ライセンス料相当分を加算して損害額を算出しております。

結び

以上のとおり、既に法改正の施行前から損害賠償額は高額化の傾向があったように感じておりますが、損害賠償額の算定方式が見直された結果、特許権侵害に基づく損害賠償請求により認められる損害額は、法改正前に比べ増額され、高額になることが予想されます(なお、本改正に関連する内容は特許法に限らず、実用新案法、意匠法、商標法も同様に改正されています。)。
新型コロナウイルス禍で経済が停滞している中においても、新製品を開発している企業から、特許権侵害にならないための調査依頼や、侵害を回避するために改良すべき点に関するご相談が多く寄せられています。
特許権を取得したい方、既に有している特許権を使って他社を牽制したい方、新しい製品を作るに当たって特許権侵害を避けたい方等、気になる方はぜひご相談ください。

弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
所長 弁護士 弁理士 西脇 怜史(第二東京弁護士会所属)
(お問い合わせページ https://nipo.gr.jp/contactus-2/)


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