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今、バーチャルユーチューバー界にいてほしい人はNardwuarである【雑談】


あなたは、Nardwuarというカナダ人の変なおじさんを知っているだろうか?
彼はFM曲やブリティッシュコロンビア大学にラジオを持ち、カナダの大統領からNirvanaのようなロックスター、パンクアーティストまで突撃取材を敢行するおじさんである。
このおじさんは、もともとご本人がロックバンドのボーカルとして活動する人だった。しかし、アメリカで最も有名な音楽プロデューサーであるPharell Williamsへのインタビューを行ったことが、大きな転機となる。
Pharell WilliamsにNardwuarは、次々に子どもの時に大事にしていたレコードやバンクーバーのスケートボードについての本を渡す。

特にPharellの心をつかんだのは、NardwuarがPharellが最初に人に提供した曲『Rump Shaker』のレコードを渡したときだった。
Pharellは、衝撃を受け「これは自分の人生の中で一番感動したインタビューだ」と言った。これほどまでに丁寧に調べこまれたインタビューに対して、Pharellは彼自身の音楽遍歴と大事にしていた音楽に対する考えを話すことで答えた。さらに、当時もっとも人気があったラッパーであるJay-zとも話すように促したという。

ここから、Nardwuarはyoutubeチャンネルを作り、積極的にアメリカ中のラッパーたちとのインタビューを発信するようになる。彼の狂気じみた知識欲と、相手アーティストへの愛を欠かさず、インタビューを続け、音楽活動家時代から今年活動30年ほどになったという。

Nardwuarはいつもニコニコしながら「You are ●●●, we have to know!(あなたは●●ですよ、知っとかなきゃ!)」と言いながらオタクっぽい知識をひけらかすおじさんにみえる。(そしてそれは事実だ)
でも、大事なのはこの人が持ち出す知識の多くは、いわゆるパパラッチ的な噂話ではなく、常にそのアーティストが人生で大事にしているもの、忘れかけていた大事な記憶の欠片の部分なのだ。そういった知識を見出すためには、単に博識なだけではなく情報を見分けるセンスもいる。
そして何より愛がいる。このNardwuarにインタビューされる人は、売り出し始めた若手から大御所まで、西海岸から東海岸まであらゆるところにいる。でも、その人たちに対してNardwuarはニコニコしながら、そのアーティストのツボみたいな知識を巧みに押していくのである。

アメリカでBIG3と呼ばれ、2010年代を代表するラッパーと言われたJ.Coleは彼にこのように話した。

I have seen you sittin, you know I mean, with Kurt cobain on the floor 
and backstage of a show. I've done my youtube dive,
you know what I mean? you are legend. We have to do that you know 
man we appriciate the work you've done on documenting this culture,
and this  music that we love, but also dicving into the nooks and crannies of all that i wouldn't even f●●king think of anybody would ask but I'm so grateful to talk about it because don't ever get to talk about f●●king mcfadden music, you know, in fayetteville north carolina i never thought that i would say that out loud. you talked about south view high school you know what i mean like we used to play these boys and really get them , you know what i mean shout out tyrone davis he dunked these Ni●●s so crazy !

あんたがショーのフロアやバックステージでカート・コバーンと一緒に座っているのを見たことがある。 そこから俺はYouTubeをむさぼるように見たんだ。
あんたは伝説だ。俺たちは、あんたがこの文化と私たちが愛するこの音楽を記録するという仕事にだけでなく、俺たちが考えもしなかったあらゆることの隅々にまで踏み込んでいくことに感謝しなくちゃらない。
誰でも聞くだろうけど、そのことについて話せて本当に感謝してるよ、だってキング・マクファデンの音楽について話すことなんて滅多にないからね、ノースカロライナ州フェイエットビルでは、まさか大声でそんなことを言えるとは思ってもいなかった。あなたはサウスビュー高校について話しました、あなたは私たちがこれらの少年たちとよく遊んだように、そして本当にあんたは彼らのことを理解している。ティロン・デイビスのことまで知っている、とってもやべえよ!

Nardwuar vs. J.Cole(2021)

J.Coleは子どものころから、NardwuarをYouTubeで見ていた。その世代からすれば、いつの間にかインタビュアーであった彼は伝説に見えていた。

NardwuarはBlurやNasのインタビューの時のように若干慣れ慣れしすぎて気持ち悪がられるときもあった。でも、それでもこのおじさんはアーティストたちとかかわり続けた。
結果、彼の動画のサムネには、たくさんのアーティストたちがニコニコしながら映る写真が撮られている。いくら有名なアーティストとインタビューすることができても、その人の最高の笑顔を撮ることができるほど深くつながることができるのは、稀有な才能だ。
そして彼の動画は、まるで大切に綴じられたオタクのスクラップブックのように、アメリカの音楽の歴史に大きな花を添えた。


NardWuarのラジオには、亡くなる前のJuiceWRLDやMac Millerのようなアーティストにもインタビューを行っていた。この二人は、ともに精神的な落ち込みや薬の大量摂取が原因で、亡くなってしまったアーティストだった。
その二人の歌詞を読むと、やはり暗く重い話が多い。
しかし、Nardwuarはそんな二人にもニコニコしながら話をふっかけていく。

NardwuarはMac Millerに、彼しか知らないと思い込んでいたレコードをプレゼントする。自分以外にそのHIP HOPグループを知らないと思っていたMacは飛び上がって叫んで狂喜乱舞する。
上の動画のサムネはその時の写真だ。私はこの写真を最初に見た時に、その後の彼の人生がいかに栄光と孤独と薬と絶望でまみれていたかを思い出して、涙が出てきた。
ある絶望的に見える人の人生に、Nardwuarの動画は笑顔の時代があった
ことを思い出させる。
そのことだけでも、この人のいる意味は強調してもしきれない。




バーチャルユーチューバーとして存在する意味を忘れないために


このnoteを書いていて、ふと犬山たまきさんのやっている雑談会や、KAI-YOU、RealSoundで書いている人たちはこれに近いのではないかと自分で考えたりした。それらのお仕事は素晴らしいものである。
ただ、Nardwuarのインタビューを持ってきて強調したい点がある。
それは、Nardwuarが探してきた事実と言うのは、ミュージシャンたちが喋ってみたかったけど、テレビや世間に受けるために隠してきた大事な部分であることが多いことだ。
そして、Nardwuarが視聴者に見せたのは、視聴者のことやインタビューのことも忘れて、夢中になっている姿であることだ
そして、それを実現させたのは、一般視聴者のオタクくんたち代表である、
情報を調べまくったおじさんだったことだ。

最近、にじさんじもホロライブも神椿も、卒業する人が増えた。ビジネス的な理由もあって、外に出ていく人も増えた。
一方で忙しすぎて体調を崩したり、方向性に迷いがでてくるライバーも多くなってきた。当然新しい人々と出会っていくのだから、新しい戸惑いや誘惑も増える。

そして、2024年現在にVtuberに新しく出会ったファンや音楽番組を見た人、あるいは新しいスタッフの人はこう考えることもあるだろう。
なぜこの人たちはVtuberをやっているのだろう?

これ自体は自然な質問だし、MVを作るときにコンセプトで必ず考える必要があるだろうが、長年Vをやってきた人からすれば呪いのような質問である(これにハッキリ答えを出せる人はなかなかいない)

そうしたときに、答えでなくてもヒントになるのは、オタクたちと交流する中で出来た絆や新しい発見、その蓄積であることは間違いない。ただ、現状、VtuberたちにはNardwuarのように自分の興味があること、やってきたことの蓄積をどこまでも深く聞いてくれるようなインタビュアーとインタビューの蓄積がない。(できる人は明らかにいるのだが・・・)

とりとめのない記事になったが、最後にひとつ。
もしも、VtuberがNardwuarのようなある種古参オタクのような人たちを、視野が狭いとかキモいと言って排除するならば、Vtuberは世界から忘れ去られていくだろう。
夢中であることはキモいことだ。
でもVtuberをやり始めた人たちは、そこから始まったのではなかったか。

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