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放送作家の仕事とは?【第21回】20年近くやって気づいたこと①

 「職業は放送作家です」と言うと、多くの人に「どんなことをしているんですか?」と質問されます。そこで、このシリーズでは、謎に包まれた放送作家がどんな仕事なのかをいろんなテーマで具体的に書いています。おつきあい、よろしくお願いします。

【著者プロフィール】
テレビのゴールデン番組からアイドルのラジオ番組まで構成する30代の放送作家。企画を通してチーフ作家になることもあれば、声をかけられお手伝いに徹する仕事も好き。このコラムは、プロになるためのリアルな指南書だったりします。

今回のテーマは「20年近くやって気づいたこと①」です

 放送作家として20年近く仕事を続けてきた僕が、これまでの経験から得た気づきをいくつかお話ししたいと思います。これから放送作家を目指す方々にとって、少しでも参考になれば幸いです。

【困難は分割せよ】

 初めての仕事を任された時、「どこから手をつけていいのか分からない……」と困惑することはありませんか? 大きなプロジェクトや複雑な内容のものに直面すると、その全体像に圧倒されてしまい、どこから手をつけていいのかわからなくなることがあります。こんな時に、陥りがちなのが「まだ締め切りまで時間あるし、もうちょっとしてから考えよう」というもの。このパターンが一番ヤバいですね(笑)。時間が経つにつれて、どんどん仕事が大きな存在として感じるにようになります。

 こんな先延ばしが起きる原因には「完璧主義」があると思います。完成度が高いものを書きたいと思うあまり、それが大きなプレッシャーになり、なかなか取りかかれないのです。
 
 そんな時、僕が思い出すのは「困難は分割せよ」という言葉。これ、中学校の時の教科書に載っていた井上ひさしさんの小説『握手』という作品に登場します。物語の中で、児童養護施設のルロイ修道士が主人公に言ったセリフを以下に引用します。 

「仕事がうまくいかないときは、この言葉を思い出してください。『困難は分割せよ』。あせってはなりません。問題を細かく割って、一つ一つ地道に片づけていくのです」 

著・井上ひさし 小説『握手』

 これはどういうことか? 例えば「100ページの長い台本を書く」というタスクがあるとしましょう。 この場合、まずは「できるだけ小さな部分に分けることができないか?」と考えてみます。まずは「台本の枠線を引く」とか「タイトルとなる番組名だけでも書く」とか、そんなことで構いません。これら、脳みそを使わずにできますから。

 そして、箇条書きでいいので、最低限入れなければいけない情報や要素をネットから拾ってきて、そのままペタペタと貼り付ける。つまり、形の整っていない要素だけを原稿の上に置いてみるのです。ここで1日目の作業は終わりにしてもいいでしょう。

 さらに余力があれば、ブロックごとに構成を並べ替えてみる。そして、クオリティが低くてもいいから、最後までざっくり書き切る。この時に細部を見てしまって、書いては消してを繰り返してしまうのはNG。「てにをは」などはメチャクチャでOK。第1稿から誰かに見せるつもりで書く必要はありません。「自分用に書く」ということで、プレッシャーから解放され、筆が軽くなります。
 
 もう、ここまでやれば、大きな岩は転がり始めているので、あとは勝手に作業が進んでいきます。全体の見通しが立ち、次に何をすべきかが明確になります。少しずつ前進する中で細部を整えながら、整ったら少し前に進み、また細部を整えて……と繰り返すうちに、最終的には長い台本も書き終えることができるようになります。
 
 まとめると――締め切りまで長く設定されていても、向き合いたいくないからと放置しないこと。とにかく課題が出た当日に「枠の線を引く」とか「番組名を書く」とか、それだけでも手を付けると全く違います。問題を小さく区切り、心理的ハードルの低い作業から早く取り掛かるのが一番。毎日数歩ずつでも進めば、その積み重ねがいつかゴールとなります(これ、イチローさんも同じようなことを言ってますが、我々はイチローさんのようなレベルではないにしろ、タスクに向き合う思考は同じなんでしょうね)。

 次回も引き続き「20年近くやって気づいたこと」について書いていきます。じゃあ、また!

(つづく)

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