リコネ│絵本と編集術

システムエンジニア、編集術師範代、趣味でタップダンスを手習い中。 このnoteでは絵本…

リコネ│絵本と編集術

システムエンジニア、編集術師範代、趣味でタップダンスを手習い中。 このnoteでは絵本と自分の間の関係線を綴っています。

記事一覧

餞(はなむけ)の一輪~『死神さんとアヒルさん』

『死神さんとアヒルさん』 作・絵:ヴォルフ・エァルブルッフ 訳:三浦美紀子 幼いころから「死」に興味が引かれていた。幼稚園での同級生の死を皮切りに、日常に突然ぽっ…

幻想と現実を繋ぐ仕掛け~『ゆめくい小人』

『ゆめくい小人』 作:エンデ 絵:フックスフーバー 訳:佐藤真理子 たった二文だ。 エンデは最後の二文で絵本の世界と現実の世界を繋ぐ秘密の通路を作ってみせた。その二…

不足と強みと越えられない壁~『しろいやさしいぞうのはなし』

『しろいやさしいぞうのはなし』 作・絵:かこさとし 復刊ドットコム/2016年 ここ最近「ダイバーシティ」とか「個性」とかを尊重しましょうというお題目をよく見かける。…

どっちがうっかり?~『うっかりおじさん』

『うっかりおじさん』 作 エマ・ヴィルケ 訳 きただい えりこ 朔北社/2019年 読んだら思わず「うふふ」と声が漏れる。 こういうとぼけた笑いは大好きだ。 何しろタイ…

「不在」の存在感~『くまとやまねこ』

『くまとやまねこ』 作:湯本 香樹実 絵: 酒井 駒子 河出書房新社/2008年 私の母は最近、一番仲の良かった姉を亡くした。 旅立つその瞬間の三時間前まで元気だったのに…

理不尽、のち、痛快~『いつもちこくのおとこのこ ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシ―』

『いつもちこくのおとこのこ ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシ―』 作 ジョン・バーニンガム 訳 たにかわ しゅんたろう あかね書房 /1988年 【理不尽】道理…

間合いの大阪弁~『ちがうねん』

『ちがうねん』 作 ジョン・クラッセン 絵 ジョン・クラッセン 訳 長谷川義史 クレヨンハウス・2012年  「翻訳」に「方言」を含めるのはかなり慎重にやらなければいけ…

【読書】運輸業のように「知識」を輸送する読書しか知らないのは、とてもつまらない。
本には鍵が潜んでいる。心には鍵穴が生まれている。鍵が鍵穴に入り思わぬものが溢れるところに本との付き合いの醍醐味がある。
輸送作業になった途端、宝探しの魅力は屑になる。

愛されるかたち~『みみかきめいじん』

『みみかきめいじん』 作 かがくいひろし 絵 かがくいひろし 講談社・2009年  陽だまりの中で膝の上に頭をのせる。  母のエプロンの匂いがいい。軽く耳をつまむ感じも…

いっとう先に見つけたい~『とこちゃんはどこ』

『とこちゃんはどこ』 作 松岡享子 絵 加古里子 福音館書店・1970年  絵本の素晴らしい点は「遊び」を混ぜ込めるところだ。  しかもその「遊び」は大人がやるような遊…

雪とくらす~『しろいゆき あかるいゆき』

『しろいゆき あかるいゆき』 アルヴィン・トレッセルト 作 ロジャー・デュボアザン 絵 江國香織 訳 BL出版・1995年  雪国うまれの雪国そだちだから雪とのおつきあい…

気になるけれど勇気がでない、という絵本とのおつきあい~『モチモチの木』

『モチモチの木』斎藤隆介作、滝平二郎絵/岩崎書店  「内弁慶」。  幼い頃の自分はまさにこれ。  いくじなしで、ワガママで、プライドばかり高い泣きむしだったから…

リコネはこんな人です

はじめまして。こんにちは。 リコネです。 絵本が好きです。 大人が読む本もけっこう好きですが、 絵本がとくに好きです。 絵と文字の組み合わせ。想像する余地。自由…

餞(はなむけ)の一輪~『死神さんとアヒルさん』

『死神さんとアヒルさん』 作・絵:ヴォルフ・エァルブルッフ 訳:三浦美紀子 幼いころから「死」に興味が引かれていた。幼稚園での同級生の死を皮切りに、日常に突然ぽっかりと穴を空けてしまうその出来事が不思議で悲しくてたまらなかった。たまらないからこそ何度もいつまでもその「虚」を見つめて目をはなせずにいるのだと思う。その人がいたはずの空間が窪みがなって見える。いつかその「虚」が周りに馴染んで消えてしまうのを惜しんでいる。 ━━━━━━━━ この本の原題は『Ente, Tod

幻想と現実を繋ぐ仕掛け~『ゆめくい小人』

『ゆめくい小人』 作:エンデ 絵:フックスフーバー 訳:佐藤真理子 たった二文だ。 エンデは最後の二文で絵本の世界と現実の世界を繋ぐ秘密の通路を作ってみせた。その二文が無くても絵本の中の物語は完結したけれど、エンデは最後にいたずらっぽく声を潜めながら、絵本を読んでいる子どもたちに向かって「隠し扉」の場所を目配せしたのだ。 ━━━━━ エンデといえば『モモ』や『はてしない物語』など児童文学作品が知られているが、絵本も同じくらい作成している。この『ゆめくい小人』は一九七八年

不足と強みと越えられない壁~『しろいやさしいぞうのはなし』

『しろいやさしいぞうのはなし』 作・絵:かこさとし 復刊ドットコム/2016年 ここ最近「ダイバーシティ」とか「個性」とかを尊重しましょうというお題目をよく見かける。立派なお題目だと思うけれど、「尊重」とは具体的に何なのか、とにかく褒めたたえることなのか、相手の一切を否定をしてはいけないことなのか、というHOWの部分はあまり聞こえてこない気がする。 多分、みんな手探りなんだと思う。 そもそも何のために尊重しなきゃならないのか、が語られているのか、やや心配だ。 ━━━━━━

どっちがうっかり?~『うっかりおじさん』

『うっかりおじさん』 作 エマ・ヴィルケ 訳 きただい えりこ 朔北社/2019年 読んだら思わず「うふふ」と声が漏れる。 こういうとぼけた笑いは大好きだ。 何しろタイトルが『うっかりおじさん』なのだから 「うふふ」が含まれているであろうことは 背表紙を見たときから予想していた。 しかしこの「うふふ」へ至るまでの道は 作者から読み手への直接的な手渡しではない。 翻訳者である“きただいえりこ”氏の暗躍(?)によって 人物の見え方にちょいと小細工がされているのだ。 その

「不在」の存在感~『くまとやまねこ』

『くまとやまねこ』 作:湯本 香樹実 絵: 酒井 駒子 河出書房新社/2008年 私の母は最近、一番仲の良かった姉を亡くした。 旅立つその瞬間の三時間前まで元気だったのに。 あっけないほどあっさりと逝ってしまった。 私はこの本を子どもの頃に読んだらどう思っただろう。 この黒一色の絵が不満だったに違いない。 そして明快な線で囲まれることのない、繊細な黒の濃淡の絵を嫌っただろう。 アニメっぽくないものは「古臭くてつまらないもの」だと思い込んでいた。 読みもしないで表紙の絵を一

理不尽、のち、痛快~『いつもちこくのおとこのこ ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシ―』

『いつもちこくのおとこのこ ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシ―』 作 ジョン・バーニンガム 訳 たにかわ しゅんたろう あかね書房 /1988年 【理不尽】道理をつくさないこと。道理に合わないこと。また、そのさま。 <デジタル大辞泉(小学館)>  誰でも理不尽な経験はある。いくつでも例は挙げられる。  しかしその「理」は誰がどう決めたのか、となると途端に思考停止する。  親に聞けば「屁理屈を言うな。そういうもんだ」と言われがちだ。    物理や数学などの科学は「理

間合いの大阪弁~『ちがうねん』

『ちがうねん』 作 ジョン・クラッセン 絵 ジョン・クラッセン 訳 長谷川義史 クレヨンハウス・2012年  「翻訳」に「方言」を含めるのはかなり慎重にやらなければいけない。  「方言」は「地域」と密着していて、「地域」には「イメージ」がもれなく隠れている。洗練されていない田舎くささ、だとか、おっとりしていて人は良いけれど鈍重そう、だとか、そういうことだ。  言葉はいつだって「イメージ」を引き連れている。  辞書どおりの意味ではいられない。  翻訳ものの「方言」は一体

【読書】運輸業のように「知識」を輸送する読書しか知らないのは、とてもつまらない。 本には鍵が潜んでいる。心には鍵穴が生まれている。鍵が鍵穴に入り思わぬものが溢れるところに本との付き合いの醍醐味がある。 輸送作業になった途端、宝探しの魅力は屑になる。

愛されるかたち~『みみかきめいじん』

『みみかきめいじん』 作 かがくいひろし 絵 かがくいひろし 講談社・2009年  陽だまりの中で膝の上に頭をのせる。  母のエプロンの匂いがいい。軽く耳をつまむ感じもいい。ごそり、ごそり、と押し入れを探るような音もいい。たまに、うっと顔をしかめたくなる刺激もあるけれど、そのあとの「ごめんね?」もいい。    そう、耳かきは心地いい。    耳鼻科の先生がはあれこれおっしゃるが、ここは譲れない。  耳かきはただの耳掃除ではない。それをはるかに上回る満足があるのだ。    大

いっとう先に見つけたい~『とこちゃんはどこ』

『とこちゃんはどこ』 作 松岡享子 絵 加古里子 福音館書店・1970年  絵本の素晴らしい点は「遊び」を混ぜ込めるところだ。  しかもその「遊び」は大人がやるような遊びではなく、子どもが遊ぶ「遊び」でなければならない。  そうなると子どもがどんな遊びをしているのか、何に夢中になっているのかを観察する大人が必要になる。    『とこちゃんはどこ』はそんな子どもを見つめる目が確かな大人が、絵本に遊びを取り入れた元祖「さがしもの絵本」だ。 ━━━━━━━━━━    図書館

雪とくらす~『しろいゆき あかるいゆき』

『しろいゆき あかるいゆき』 アルヴィン・トレッセルト 作 ロジャー・デュボアザン 絵 江國香織 訳 BL出版・1995年  雪国うまれの雪国そだちだから雪とのおつきあいは長い。  子どものころは初雪が待ちどおしかったし、小さな体が冷えきるまで雪のはらに座りこんで雪を丸めていたこともある。  しかし成長するにつれて雪にたいする評価はさがっていった。  つもっても、とけても、こおっても、歩きにくくなって外出がおっくうになる。  暖かい部屋の中でネコのように自堕落にすごしたい

気になるけれど勇気がでない、という絵本とのおつきあい~『モチモチの木』

『モチモチの木』斎藤隆介作、滝平二郎絵/岩崎書店  「内弁慶」。  幼い頃の自分はまさにこれ。  いくじなしで、ワガママで、プライドばかり高い泣きむしだったから、親は大変だったろうとおもう。自分が親の立場だったら、うんざりしていた自信がある。  でも絵本は好きだった。  好きというより、何も考えずにあたりまえに絵本をひらく子どもだった。居間にいたらとりあえずテレビをつけるみたいに絵本をひらいていた。すこしくらい言葉がむずかしくても絵がついているから大丈夫。人間の「おとも

リコネはこんな人です

はじめまして。こんにちは。 リコネです。 絵本が好きです。 大人が読む本もけっこう好きですが、 絵本がとくに好きです。 絵と文字の組み合わせ。想像する余地。自由なページの使い方。すぐ読める。赤ちゃんから100歳の人まで楽しめる。 絵本が好きだった子供は、少し大きくなってからは「絵のついていない本」のほうがかっこいいような気がして絵本とのおつきあいはしなくなりました。 でも大人になって、自分の子どもが生まれてから、もう一度、絵本との親密なおつきあいがはじまりました