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【オリジナル作品】短編・長編小説、俳句

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オリジナルの短編や長編小説、他に俳句などの作品をまとめています。
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#事故

冬眠していた春の夢 第24話 10年前の事故③

冬眠していた春の夢 第24話 10年前の事故③

 緑の弟である名古屋に住む田所明雄は、早くに結婚したものの子宝に恵まれず、姉にできた長男の春馬をこの上なく愛していた。
 元々姉を慕っていた事もあり、それはもう尋常じゃない可愛がりようで、春馬が欲しいと言う物は何でも買い与えたし、行きたい所にはどこへでも連れて行った。 
 緑に「あんまり甘やかさないで」と苦言を呈されても、全くそれは変わらなかった。
 そのくせ、5年後に生まれた美月には、なんの関心

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冬眠していた春の夢 第23話 10年前の事故②

冬眠していた春の夢 第23話 10年前の事故②

 ハッチとリョータは丈夫そうな枝を見つけて金網に通し、春馬がそれに掴まれるようにした。
 降り出した雨が、急激に強くなってきた。
 枝に掴まった春馬を、ハッチとリョータは必死に引きずり上げた。
 もうすぐで引き上げられるというところで、「ギャー」と春馬が絶叫した。
 それでも、2人は手を止めずに春馬を引き上げた。
 息を切らして地面に倒れこんだ少年達の上に、雨は容赦なく降り注いだ。

 「早く山を

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冬眠していた春の夢 第22話 10年前の事故①

冬眠していた春の夢 第22話 10年前の事故①

 【10年前の5月末】

 その年、美月の母・成瀬緑は、くじ引きにより子供会の会長に選任され、何かと気忙しい日々を送っていた。
 その日も、夏祭りのための会合に向かう準備をしていたところ、美月の兄・春馬のクラス担任から電話があり、春馬がこのところ全く宿題をやってこないので、家でちゃんとやってくるように言ってほしいと言われ、急いでいる中、帰ってきた春馬に説教をしなければならなかった。
 会合がなけれ

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冬眠していた春の夢 第21話 時が止まった部屋

冬眠していた春の夢 第21話 時が止まった部屋

 病院を出ると、外はもう暗くなっていた。
 ラーメンを食べて帰ろうと父が言うから、食欲はなかったけど、黙って付き合った。
 中華料理屋に行くと、父は昔から必ずチャーシュー麺を頼む。
 私は普通のラーメンにした。
 2人で黙ってラーメンをすすった。
 昔から父は、何があっても、どんな時も、ちゃんとご飯を食べる人だ。
 そんな時は必ず「腹が減っては戦(いくさ)はできぬ」と言っていた。
 戦(いくさ)っ

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冬眠していた春の夢 第3話 事故

冬眠していた春の夢 第3話 事故

 人生には唐突に生活が激変する時がある。
 でも、それはテレビのニュースやドラマの世界の話でしかなかった。
 交通事故、地震や土砂災害、火事、殺人事件…。
 そういった事故や災害や事件というのは、テレビの中の話だと思っていた。
 そして私の生活が激変する出来事は、唐突にテレビから流れてきた。

 『…マイクロバス2台が、集中豪雨に伴う土石流に巻き込まれて転落、乗員・乗客32人のうち31人の死亡が確

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