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冬眠していた春の夢 第23話 10年前の事故②

 ハッチとリョータは丈夫そうな枝を見つけて金網に通し、春馬がそれに掴まれるようにした。
 降り出した雨が、急激に強くなってきた。
 枝に掴まった春馬を、ハッチとリョータは必死に引きずり上げた。
 もうすぐで引き上げられるというところで、「ギャー」と春馬が絶叫した。
 それでも、2人は手を止めずに春馬を引き上げた。
 息を切らして地面に倒れこんだ少年達の上に、雨は容赦なく降り注いだ。

 「早く山を降りよう」
 リョータは言って、春馬の方を見た。
 すると、半ズボンの春馬の右足から血が噴き出していた。
 引き上げる時に、金網に引っかかって傷を負ったのだった。
 「春馬!大丈夫か?!」
 その声にハッチも寄ってきた。
 怪我をした春馬は、2人で支えなければ立てなかった。

 「どうしよう?これじゃあ美月ちゃんを抱えられない」
 「オレら2人じゃ無理だ。大人を呼んでこよう」
 「オレが2人を見てるから、ハッチが呼んできて」
 リョータの言葉に、ハッチは迷った。
 リョータ1人で、この土砂降りの中、怪我をしている春馬と3歳の美月ちゃんを守っていられるだろうか?
 そして、幼い美月ちゃんの体力はもつだろうか?
 「いや、1人で2人を見るのは無理だ。美月ちゃんはオレが連れて降りるから、リョータは春馬を守って」
 「わかった」
 リョータに手をかしてもらって美月を背におぶったハッチは、山を降りていった。

 そして、どうにか美月をおぶったハッチが境内にたどり着いた時、裏山が轟音を上げた。

 その後、警察、消防、それにレスキュー隊が出動して、捜索が開始され、土砂に埋まったリョータは救出されたが、春馬は見つからなかった。
 夜になり、その日の捜索は困難だと判断され中断、翌日、深い霧の中で大規模捜索が始まったけれど、春馬は見つからなかった。
 そしてその後秋が深まるまで捜索は続けられたけれど、ついに発見されなかった。

 第24話に続く。

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