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リモートワーク時代の会議スタイル 〜キックオフ編〜

小林製薬に入社して1ヶ月が経過しました。1月5日の入社初日の自部門の朝会で簡単な年始の挨拶をさせていただき、(入社前から徐々に活動はしておりましたが)その後1ヶ月くらい様々な方々と対話したり、会議に参加したり現場を見たり、議論を経て、現時点での考えていることや、まだ粗いですが今後の活動方針の発表の場として自部門向けにキックオフミーティングを2月7日に実施しました。

キックオフなどこの手の大人数が集まる会で意識してることや、進め方について、いつも少し感覚やってきましたが、今後の自分のためにも、メンバーを多く持つリーダーや大人数の前でプレゼンテーションをする方のご参考にもなればと思い文字化してみました。書いていたらだいぶ長文になっていました(笑)

今回のキックオフで意識したとこと、やったこと。

トーンセッティング

なぜ今のタイミングでキックオフをするのか」伝える。キックオフや大人数の会議となると、参加者の持っている情報や心のスタンスや状態が基本的にはそれぞれ異なります。プレゼンテーター側は色々考えてきたり、議論してきているので情報密度が濃く、参加者は持っている情報が近い人もいれば、そうでない人もいます。

基本的な事なのですが、なぜ今この会議をやっているのか、どんな想いなのか含め添える。いわゆる「トーンセッティング」です。

会議の雰囲気に関しても、冒頭からずっと緊張感を作り続けるのか、あまりにも緊張感があるのであればあえて外した雰囲気で和らげるのか、何かを成し遂げたいための達成をイメージした感じにするのか、その目的により様々ですが。トーンセッティングで空気や雰囲気が変わり、その会議の質も大きく変わりますし、その後の仕事のパフォーマンスにも影響してきます。

キックオフが終わった後の、参加者の湯上がり感というかその時の雰囲気のゴールイメージを想像して、少し逆算気味にトーンセッティングをするのが個人的にはやりやすいと思ってます。

自己紹介に失敗談、辛かった話を少し入れる

基本的な自己紹介としては、仕事中心の自己紹介をすると「デジタル」「IT」「外資系企業」「ベンチャー企業」という印象を持たれがちです。地元は千葉の松戸市であり、親戚は農家ばかり、新鮮野菜を育ってきました。見た目も文系出身ぽいと思われがちですが、理工学部の電気電子工学科卒業です。

これまで所属してきた会社は本当に素晴らしく創業者や経営者、その会社の評価や実績を更に伸ばし続けている社員の皆様には尊敬であり、感謝でしかありませんが、サイバーエージェントやGoogle出身と聞くと、私は既に退職しているにも関わらず、それらの会社があまりにも素晴らしい成長を遂げているので、うっかり私も凄い人に見えてしまう幻想が生まれます。

仕事の自己紹介もする中で、出身会社で妙な下駄を履いても仕方なく、仕事は楽しいものだと個人的には思いますが、中には困難な事を乗り越えて成長してきてることが仕事の醍醐味の一つだとも思うので(実際に直面してる時は辛いのですが)、個人的には3つくらい、これまでの辛かった話をあまり時間をかけすぎずに、するようにしています。

新卒や若手の方は目の前の仕事やキャリアで悩んでいるメンバーもいたり、Googleやセールスフォースのような簡単に真似できないような会社の話をしてもタイミングや伝え方次第ではどうかと思いますし、人の捉え方というのはそれぞれなので、特に初回は共感領域を作りたいと思っており、良い話ばかりだけではなく、失敗談や辛かった話も少しするようにしています。

活動の透明性を意識する

これまで入社から1ヶ月、どのような活動をしてきたのか伝えました。外部から入社してきた人間ですから、長く働いている聞き手の皆さんの方が会社のことをよく知っている。もちろん私の方が知らないことが多い。とはいえキックオフを実施するまでの期間にも私なりにインプットをしたり、理解を深めたり、対話をしてきています。

多くの組織で戦略発表やキックオフ会議などの機会があるかと思いますが、幹部や関係者は複数回に渡る議論や深い解像度で何度も時間をかけて話してきた内容を整理して発表する流れが一般的かと思いますが、この辺りの過去の文脈などがあるか無いかで共感やハラオチも変わると思ってます。

今回は、私は誰と1on1してきたか(役員全員や他部門の部長など)、どの会議に参加してきたか(自部門や他部門)、現場にどのように関わってきたのか(工場や営業現場等々、一次情報に触れている件)、箇条書きで2-3ページくらいにしてサラッと伝えます。私がどのような組織理解度なのか共感領域を広げ、雰囲気を掴んでもらうためです。

何もわからないでこの人は話しているのか、ある一定の情報インプットの上で話しているのか、聞き手としての受け入れ方が変わると思ってます。

経営の透明性を意識する

心理的安全性をや透明性を意識した上で私が経営会議で話してることなども伝える。私が何を経営会議で共有しているか、など。全てを伝えると困惑や不安になるので、その精査はありますが、基本的には経営の透明性はメンバーの自発性を生む心のスイッチだと思っています。

伝えたいことを1つに絞ったテーマやスローガンを伝える

四半期ないし通期の活動の指針となるスローガンを伝える。だいたいこの手のキックオフは情報量が多くなるので、何か一つ記憶に残して欲しい言葉をスローガンとして伝える。

この四半期は「選択と集中」にしました。

入社早々にこのスローガンを聞いてびっくりする方もいたかもしれませんが、会社としてDXを強化するという方針で私が入社前から全社的に過去1−2年活動してきたので、多くの施策が既に動いています。戦略や方針となると大概は何か新しいことをやる、という流れになることが多数です。戦略を推進する時は、やらないことを決めたり、イシューを特定することが重要な局面があると思ってます。

私が新卒で入社したサイバーエージェントでは「棚卸し会議」という素晴らしい施策がありました。

これまでやってきたことを棚卸ししたり、辞めるというのは、そのものの言いづらさや、誰がその決定をするのかうやむやなものが案外多いです。

特に急成長中の企業やV字回復を目指す企業、あるいはギアをあげて加速したい状態の組織は新しい、良かれと思った施策が乱発してしまい、施策の渋滞現象が起きます。そういった企業の成長痛時は意思決定者も交えて、棚卸しをして、心と業務に余剰が作れることでパフォーマンスが一気に上がると思ってます。

棚卸しの件は今回のキックオフで詳細は触れていませんが、上半期中に何某かの形式で棚卸しは行いたいと思ってます。

入社した時のGAP≒伸び代を伝える

外部から社員が入ってくるというのは、自社内にある文化や仕組みと違ったものが融合する機会だと思っています。もちろんその会社が築き上げてきた文化や仕組みなど素晴らしいものが多いとは思いますが、入社早々のFresh eyeな状態で伝えることは意味があると思っています。組織は変化し続けるものであり、そのタイミングはとても大事かと。

私自身の仕事に対してのスタンスも伝わり、またそのGAPに共感してくださる方がいれば、一緒にそれを実現していく機会にもなります。

パイオニアの時にも自分も入社早々で伝えましたし、中途社員の方が入ってきたタイミングで実施するようにしていました。

その時に私が意識しているのは「カマスの実験」です。

実は外部の人が入ってきた時のGAPや違和感というのは、長くいる社員も以前から感じていることがあったりします。ベンチャーであれ、大企業であれ、組織というのは慣性の法則のように動いていることもありますが、上述したカマスの実験のような考え方を持って、良き変化を取り入れる機会を創っていくことも大事だと思ってます。

メンバーと継続的に共通体験できるコンテンツを用意する

今回は2つのコンテンツを準備しました。

転職や社内異動したばかりだと、新しい仲間と働く時に共通のOSとなる共通言語、価値観など、このすり合わせや共通化がとても大事だと思ってます。

1つ目は以下の書籍をこの四半期の課題図書にしました。

先述しました「選択と集中」とつながる話ですが、「課題を解決すること」も大事ですが、「論点(イシュー)を特定すること」の方が大事だと思っています。

多くの組織や人は顕在化した比較的解決しやすい課題を解決することを行いがちですが、もちろんそれも大事な時はありますが、課題解決が乱発しすぎて仕事が増えてしまったり、気付かぬうちにやらなくて良いことまでやっていたり、ひいてはそれは組織生産性を引き下げていたり、社員のモチベーションまでも低下させることになると思ってます。

特にDXと聞くと、第一想起として、「デジタルを活用した●●」などデジタルが含まれた手法や課題解決手段が思いつくことが多いです。それはそれで悪くはないですが、表面化した課題解決や手段•手法を先行しすぎてしまうので、イシューの特定や根本的課題に目を向ける意識を皆んなと共通認識を持ちたく、この書籍にしました。

DXは比較的「氷山モデル」に陥りがちなので、以下のような氷山モデルの話もしました。

本質的な課題とは何か?

この課題図書は、1ヶ月後くらいに、そこまでカチッとした感じではなく、感想共有会を行いたいと考えてます。

もう1つのコンテンツは私が1年くらい利用しているウェアラブルデバイスのOura Ringを部門で数名モニターとして応募し、利用した体験考察などを共有してもらう施策をすることにしました。最新のサービスやデバイスに共に触れることを大事にした施策です。

これから当社としても新規事業を強化していきます。ユーザー視点や素人視点などは大事ですが、新規事業に携わる人は企画担当であれ開発担当であれ人事であれ世の中の様々なサービスに日常的に触れ、そこで感じたこと、想像できること、これが自然と行動していることが大事であり、その目利きや感度は必要かと。

まずはテスト的に数名のモニターを募集して私や幹部と体験共有会を定期的に行い、今回はたまたま私が使用していたヘルスケア領域のウェアラブルデバイスでしたが、今後はソフトウェアのみのサービスもあるでしょうし、色々な新規サービスを題材にしていきたいと考えています。これをゆくゆくは参加者を広げて行ったり、自然と文化や習慣のようなものにしていきたいと思ってます。

メンバー同士で対話や感想を共有してもらう

入社したばかりの異文化の上司に対してワクワクした感情の人もいるかもしれないし、不安な感覚を持っている人もいるかもしれません。私との信頼関係もまだないですし、それはそれで仕事や共有した時間を通じて構築していきますが、メンバー間での対話を通じて、共感しあったり、気づきを得ることにより心理的安全性が醸成できると思ってます。今回は私の方であまり複雑な運用にせず、サクサクとGoogle meetのブレイクアウトルームで運営しました。

最近はメンバーを働く場所の制約から解放し、活発な交流を促すバーチャル空間などもありますが、まずはZoomでもTeamsでもブレイクアウトルーム的なものは存在するので、会社のWEB会議システムに付帯のもので少し工夫するのでも意思疎通の質は上がると思ってます。

このブレイクアウトルームを活用した小さなグループでの対話というのは結構重要だと思っていて、リモート会議が増えた昨今ですが、限られた会議の時間でプレゼンテーターが一方的に話して、数個の限られた質疑応答か、あるいはいつも決まった人ばかりがして、多くの参加者の反応や感想がわからないまま終わる会議を多く見かけます。それによる不完全燃焼やハラオチ感の無い会議や意思決定や施策が増えてしまい、組織の統制も取れなかったり、時にはフラストレーションになったりなど、という話もよく聞きます。

みんなが会議室に集まって会議していた時代は、会議が終わった後の数分や、廊下ですれ違った時の少しの雑談などで、そういった行間を埋める会話や咀嚼があったと思います。リモート会議は便利ですが、使い方を間違えると組織マネジメントの問題を根深くさせる危ないオンラインのツールだと私は思ってます。

なので、私は参加者同士が対話したり、その場で全員から何がしかで声を拾うということを、会議の目的や状況次第ですが、できる限り必ず行います。

これは傾聴、対話、共感、気づき、透明性、チームワークなどの要素があると思っており、心理的安全性や、他の人からの気づきなどが得られ、会議の質を向上させると思ってます。

参加者の反応を大切にする

今回はLIVEでアンケートやその日の感想や質問をしてもらいました。基本的にWEB会議システムに付帯のチャット欄のFAQは万能ではないと思っていて、一部の方専用の質問部屋になりがちなので、目的次第ですが個人的にあまり使えないと思ってます。Slidoで以下のように3問くらいやるのがちょうど良いというのが最近の気づきです。

一般的にアンケートというのは事後集計して使うことがほとんどですが、目的次第ではありますが、LIVEでその回答を見ながら参加者もプレゼンテーターも一体感を持ってやるスタイルはアンケートそのものに「意思疎通」という価値を付加してくれるので、最近Slidoは重宝しています。

最近利用者もここ数年で増えていますが、私がこの手の社内キックオフや外部での講演などでもちょくちょく使っているLIVEアンケートプラットフォームのSlidoが以下です。

実際に質問した3つのアンケート結果です。

1つ目の質問は皆気を遣ってくれたのか、比較的高いスコアでした。

2つ目の質問は想定通りというか、私も入社2ヶ月目であり、具体的実務の話はほぼしていないので、5はいないのではないかな、と思いましたが少しいました。こういったスコアが高くない状態(高い•低いというより現場の状態)を私自身がみんなの前で受け入れるということ自体に意味があると思ってます。

3つ目は、「感想・コメント・質問」など自由に回答してもらいました。今回は匿名で記載にしており、リアルタイムで出てきます。

実際にプレゼンを聞いた後、周囲はどうだったかということが聞き手同士でわかることも大事だと思いますし、それを私が皆の前で受け止めるという行為そのものも大事だと思っています。そこには透明性や心理的安全性があると思っていまして、私自身の組織に対してや、共に働くメンバーに対してのコミットメントやプロミスがあります。

プレゼンテーターである私が話した後に、ブレイクアウトルームで私が入っていない状態で少人数で対話してもらい不安の共有や同僚からのワクワクや新しい気付きなど様々な状態を共有してもらい、その後自分なりの感想や質問をしてもらう、こういった小さなインプットとアウトプットの繰り返しで意思疎通が徐々に紡いでいくと思ってます。

他部門や経営へも共有する

そのキックオフした内容は、他役員や関係部署の部長などにも共有します。今回の内容は2週間前の経営会議で共有していた内容なのであれですが、自分の活動を他部門に透明性を持って活動することは部門トップに限らず、メンバーを持つ全リーダーの仕事の1つだと思ってます。

これまで多くの組織課題に触れてきた原体験からすると、組織課題の多くは組織の縦割りやサイロ化、透明性の低さの場合が多いです。組織を運営する上では事業部やカンパニーというのは結果を出す組織運営であり、絶妙な横串組織が無意識に仕事のための仕事を増やしてしまったり。組織を跨ぐとそういった事象は発生しがちですが、案外事業部内であっても横のグループのことをあまり知らなかったり。小林製薬の現状はわたしもまだ詳しくわからないのであれですが、多くの会社では自部門のキックオフや情報を他部門に展開していなかったり、他部門の情報を主体的に取りに行っていない、という話はよく聞きますし、自らサイロ化を生み出していることさえ無意識だったりします。

多くの会社でDXや組織変革と言われる前に、レイヤーや組織の大小関係なく、リーダーがこういった他部門との風通しを良くしたり、透明性に対しての意識が変われば組織課題の多くが解決されるのではないかと思うくらいです。

他部門や経営側への展開は、自部門メンバーが他部門と動く時の重要な潤滑油となり、更には他部門や経営に対して私自身のこれもコミットメントやプロセスでもあります。

最後に、私はCDO(チーフ•デジタル•オフィサー)で会社のDXやデジタル戦略をリードする立場ですが、自部門のキックオフで、DXやデジタルという言葉をほぼ使いませんでした。

多くの組織でDXやデジタルという言葉がバズワード化したり、解釈が様々なのは言わずもがなですが、デジタル技術のシーズベースや手法起点でのイノベーションがあるのも多数あります。一方で、無意識のうちにDXという言葉が目的が曖昧な状態で手法や手段として用いられたり、自己都合の解釈として使用されることが多いです。

DXの起源はEric Stolterman教授の2004年の論文と言われており、以下一部抜粋です。

“The digital transformation can be understood as the changes that digital technology caused or influences in all aspects of human life.”
Eric Stolterman
教授論文「Information technology and the good life」(2004)2章より

私としては解釈があまりにも無数になったり、はたまた困惑となるようであればDXという言葉は安易に使用せず、目的意識を持った使い方をしたいと考えてます。

久々のnoteで、長くなりましたが、小林製薬の次のステージに組織一丸となって頑張ります。小林製薬のみならず関西エリアの多くの会社や自治体の方々ともご一緒したいですし、パイオニアに入社した時からの想いとしてある、人材の逆の流動性や老舗企業が更に元気になるような活動をしていきたいと思ってます。

タイトルがリモートワークと入れましたが、対面での会議でもほぼ同様だと思いますし、やってる人からしたら当たり前の内容がと思います。マネジメント職になってからは形式は変われど基本的にはずっとやってきてます。昨今ではリモート会議というこれまでの人間同士のコミュニケーションスタイルが変化したので、意識をしないと、無意識のうちに組織の一体感や実行力が弱くなる可能性があるので、ある意味自戒の念も含め、noteに書いてみました。

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