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映画『ジュディ 虹の彼方に』感想

予告編
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 本作は、『オズの魔法使』で知られるハリウッド黄金期のミュージカル女優であるジュディ・ガーランドの伝記映画。

 実は本日6月22日はジュディ・ガーランドの命日

 およそ3年ほど前、コロナ禍直前に観に行った作品です。暗い部分も多い映画ですが、ジュディを演じた主演のレニー・ゼルウィガーの演技も光る一本です。


ジュディ・ガーランドとは


 ジュディの名前を知らなくても、『オズの魔法使』『Over The Rainbow』くらいは誰でも知っている、乃至はその名前を耳にしたこと程度はあるんじゃないかと思う。当然ジュディ・ガーランドのことは知っていましたが、正直『オズの魔法使』以外で言えば『スタア誕生』くらいしか思い出せない……。にしても、過去のハリウッドの内情を描く作品ってのは相変わらずですよね。『オズの魔法使』の世界観からは想像も付かない程に夢も希望も無いよ笑。「あ、『オズの魔法使』のセットじゃん!」と喜んだのも束の間、毛色の落差が大きくてね。


 基本的にジュディ(レニー・ゼルウィガー)の晩年に焦点を当てている本作。しかし世代もかけ離れているため晩年どころかプライベートのことに関しては全く知らなかった僕としては、この物語は不安感ばかりが募っていく印象でした。ハリウッドのスターダムに上った後、次第に私生活が乱れていく彼女の姿と(『オズの魔法使』の)“ドロシー” という役名から、ついついドロシー・ダンドリッジを連想してしまい、映画『アカデミー 栄光と悲劇』のような展開を嫌でも考えてしまう自分が居ました。当然、こんな考えは雑念でしかないのですが、それくらい、陰鬱とした空気感だったんです。

彼女が一番欲しかったものは何なのか、ジュディ・ガーランドとは、誰にとっての何者だったのか……。そういったことを考えさせる魅力が本作にはあると思います。



 スターと言えど人間——。皆が皆、美しく強靭なわけではないのは重々承知の上ですが、残念ながら彼女の振る舞いは応援したくなるものではないことがほとんどでした。もちろん、彼女がスターだった時の周囲の環境を全面的に肯定するつもりはさらさら無いから同情の余地もある。手にしているうちは不満が滲み、失いそうになると不安になるという、人の弱い部分がずっと続くことで、決して良好とは呼べない精神状況の彼女のしんどさが如実に伝わってきます。

 そんな彼女にとって、子供たちの存在が心の拠り所となっていたのですが、それがどれほど特別で大切なものなのかを上手く映像にしていたシーンがとても良かったと思います。本作の見どころの一つです。

 子供たちとクローゼットの中に入って遊ぶシーンがあるのですが、“クローゼットの中” という遮閉された空間で彼女が幸せそうな表情を浮かべることで、その瞬間だけはその空間の中(=子供)以外の全てのこと——外界の煩わしさ、つらい現実——を考えずにいることが伝わってくる。

 実は後半にも、周りと隔絶された空間で子供と彼女だけの空間になっているように見えるシーンが再びあります。しかしそれは、実際には一人だけの空間。クローゼットでのシーンと同様に、彼女にとって子供たちと居る時間・空間がこれ以上ないほど特別なものだとわかるのに、そのシーンでは残酷にも子供たちと距離が出来てしまっている。形は違えど遮閉された空間で彼女が子供たちと繋がれる瞬間なのかな、という反復の展開を期待させてからのギャップだったからこそ、印象がより強いものになっていたんじゃないかな。




 離婚を重ね、子供とも会えず、キャリアにも暗い影が差してきた彼女。一気にスターダムに駆け上がった『オズの魔法使』以降、食事も睡眠もプライベートも、一度も〈普通〉や〈自由〉が無かった彼女の子役時代を描くシーンは、繰り返しになりますが本当に夢も希望も無いように見える。それなのに何故、彼女が最期の最後まで舞台に立ち続けたのか、“ジュディ・ガーランド” であり続けたのかが、クライマックスのシーンでなんとなくわかってくる。

 一つは、あるファンの一人が物語の中でいみじくも口にしていた “味方” というワード。酒、お金、家族等々、全編を通して何かに依存したり、しがみ付くような描写ばかりが目立ち、まるで「誰も自分を理解してくれない、愛してくれない」と嘆いているようにすら見えた瞬間も度々あった彼女にも「ちゃんと味方が居たんだ」とわかるそのシーンは、『Over The Rainbow』が持っている前向きな雰囲気というか、一楽曲としての魅力も相俟って非常に美しい。

 そしてもう一つ。その直後に流れる、彼女の子役時代のとある瞬間——ずっと不自由で、ずっと “普通” に憧れていた彼女が “ジュディ” であることを選び、その方向を希望に満ちた表情で見つめているシーン——。その時の瞳に映る光景が、彼女が何者なのかを証明然とした直前の歌唱シーンでジュディが目にしていた奇跡のようなあの光景と同じだったんじゃないか……。そんな綺麗な想像すら掻き立てられてしまう。

 さっきからマイナスな印象の話ばかりを述べてはいましたけど、気付けば応援したくなっていたラストの歌唱シーンは圧巻。そりゃ各アワードの主演女優賞をかっさらうわけだ、と納得です。実は、コロナウイルス感染拡大による自粛騒ぎの直前に観に行ったもんでして。映画館で観られて本当に良かったと感じます。


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