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映画『ドライブアウェイ・ドールズ』感想

予告編
 ↓

PG-12指定


肯定


 たまに忘れてしまうのです。映画へのリスペクトは大切ですが、故に陥りがちな思考。

「これはどういう意味のシーンなんだろう?」
「この映画のテーマ、メッセージは一体?」
「この画角には、間には、調光には、もしかしたら意味があるんじゃないか」
……etc.

 映画に込められた意味を探し、映画鑑賞に意義を求め、むしろ、よくわからない時こそ考え込んでしまう。そして、そんな時間すらも愛おしく感じているのは紛れもない本音。

ですが、ついつい難しく考え過ぎたり重く捉え過ぎたりしてしまうことだって往々にしてあるもの。本作を観て、改めて気付かされました。


 いや、ちょっと違うかな? はっきり言って本作は、“気付き” や “学び” があるような、そんな高尚なモノじゃない笑。もちろん、とても良い意味でね。誤解なきよう先に述べておくべきでしたが、僕は本作が大好きです。こんな最低で最高な映画、近頃あまり見かけていなかった。それどころか、そんな映画を劇場で観られるなんて、本当に有難い限りです。仕事終わりだとか、空いた時間なんかに、なーんにも考えずに鑑賞するのに打ってつけの本作は、下品な要素がてんこ盛り。そのおかげか、性的描写も暴力描写も重たくならない。
 


 本作の主人公ジェイミー(マーガレット・クアリー)は、とても自由奔放な人物。性的なことに関してもそう。そしてその周囲の人々も同様。上手く言えないのですが「スケベだ」「エロい」というよりは、単に性的なこと、衝動も行為そのものも、何らおかしなことではなく、自然であり、当たり前のものとして捉えていることが窺えます。

 こういった雰囲気が、違和感なく観客へも伝播しているように思えるのも面白い。例えば、女性の乳房が露わになるシーンやベッドシーンなどを観ても、なんて言うでしょう……男性の方なら共感してくださるかもしれませんが、「いけないものを見ちゃっている」「物語として、ドラマとして必要なシーンだから、決して下衆な目線で見てはいけないものだ」という思考が過ぎりがちで、本当にやましい気持ちなんて無かったのに、逆に意識し過ぎてしまうことがある。

けれど、本作に関しては気軽に鑑賞できる。無論、作品のテイストや状況にもよりけりですが、本作は、性的な目線で消費されることを何とも思っていない気がします笑。だからこそ、エロ目的、エロ目線なしに、下品なユーモアを堪能できる。


 暴力描写も同様。暴力行為が見切り発車して、特に収拾をつける気配も無い。「いやいや、後始末とかしなくていいの?笑」といった具合に無責任に終わる。リアリティというよりは、単にテンポの良さ。小難しい話を垂れ流されるより分かりやすいし、強引に展開を早められる。

だからこそ、脈絡の有無に関わらず、突拍子も無いユーモアがぶち込みやすくもなる。おまけに、ちゃんと血も出ていて、殴打音なども聞こえてくるのに、痛々しく感じないのも魅力の一つ。バイオレンスもエロも、とてもポップというか、それこそ、決して重く捉え過ぎていない。バイオレンスやエロ等々、強めのエッセンスを存分に活かせる土壌が、作品全体を通して構築されていた印象です。


 こうやって何かと気軽に楽しめてしまうのは、冒頭のシリアス“っぽい”シーンのおかげもあるのかな? 外連味というよりはちょっぴりクサい演技と、これ見よがしな斜めの画角の連続が、娯楽感覚で観られるB級映画感を一気に醸成してくれるよう。そもそも予告編の時点でそんな気配はありましたが、オープニングから世界観を提示してくれたおかげで、一切深刻になることもないし、どこか古めかしい場面転換の演出も、チープなトリップ映像も楽しめる。



 実は本作には主人公がもう一人。ジェイミーの親友であるマリアン(ジェラルディン・ビスワナサン)。 彼女は逆に「超」が付くほどのお真面目さん。ジェイミーが言っていた通り、マリアンは「SEXを重く考え過ぎ」だったのかもしれません。

 いえいえ、すみません。ジェイミーが奔放過ぎるだけで、マリアンの貞操観念は何も間違っていません。マリアンにとってジェイミーとの友情は大切なものだし、その関係を壊し得る選択を避けるのは当然のこと。

……っていうか3Pを断るのは特段おかしなことじゃない笑。

 ただ、重要なのは「重く考え過ぎ」ということ。まるで、先ほどから述べてきたことを象徴するかのような言葉。映画鑑賞だって同様に考えられるし、何より本作がまさにそういうもの笑。前向きに、肯定的に捉えていこうという精神こそ、劇中で車に書かれていたことが象徴していたものなんじゃないかな?
 

 また、共にレズビアンという設定なのも大きい。昨今のポリコレ意識だとか多様性尊重だとかの波に便乗しているきらいが一切なく、これもまた本作を重たくさせない。
 一方で、(当時のアメリカの事情はよく存じ上げないのですが、)保守的な州に訪れる際に懸念が示されていたように、抑圧されていたことは事実で、そんな彼女らが、「愛」を肯定し、自由になっていくというストーリーは、何かのメッセージとも受け取れる。ラストの、マリアンのおばあちゃん(叔母だったかな?)とのやり取りも良かったですしね。
 
 とはいえ、やっぱりなーんにも考えずに楽しむのが一番です。バカバカしいのが一番の魅力。一応、PG-12指定の本作ですが、まだまだ12歳かそこらの年齢じゃこの映画は楽しめないかもしれません。



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