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映画『スクールガールズ』感想

予告編
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PG-12指定


大人への儀式


 女子生徒たちが合唱するシーンに始まり、同様のシーンで終わる……。ド頭からネタバレってわけではないんですが、まぁ観た方なら漏れなく気付くだろうから書いてしまいます。この二つ(冒頭とラスト)のシーンの違いは、主人公セリア(アンドレア・ファンドス)が声を出しているか否か。この声を獲得する〈前〉と〈後〉その道程を描いた物語

 先に弁明しておくのもみっともないのですが、僕なんかが女子の気持ちを理解できているなんて微塵も思えないわけで、それでも僕なりに感じたことを真摯に書いてみます。むしろ間違っているなら教えて欲しいくらいなのです。近年、この手の作品は増えてきてはいるものの、未だに掴み切れないままなのです。


 本作で描かれる幾つものフック(鉤)のような存在を、僕は〈大人への儀式〉などとかっこつけて形容することが多々ある。酒、タバコ、バイクなんかは如実で、法律などの社会的な規律によって外側から大人と子供の境目を作るようなものは、男女を問わず大人への階段の象徴的なもの。そういった線引きだけに限らず、酔っぱらってしまう酒、初めて吸うには息苦しかったり不快感ばかりのタバコ、車とは違って身を外にさらけ出しながら走るバイク……、これらには、自分自身一人だけの力では御しきれない性質が付随しており、そういった点でも大人のものというイメージがあります。

 一方、それらとは反対に内側からくるもの、例えば異性の存在や性への意識・興味。それらが一番ややこしい。特に女性の肉体の変化という点は顕著。自分自身の変化という意味では同じく内側からくるものですが、精神的変化と身体的変化が必ずしも同時とは言えないし、しかも自身と周囲の認識も同時ということも言えない。大人と子供の明確な線引きが無い多感な時期に、この二つの齟齬・ズレは本人たちに大きくのしかかりかねません。



 本作は女性ばかりの環境が舞台なので、昨今多く見られるような、未だ多く残る男性が優位な仕組みや風潮だらけの社会での女性の苦しさ、その中でもまた更に力の弱い子供たちの心情といった視点は薄いと思います。けれど古い時代設定のおかげで、どこか既視感があるような “あるある” 感が、本作に宿る思春期特有の部分を浮き彫りにしてくれるというか、時代が変わってもこういうところは変わらないのだと教えてくれる気がします。



 規律の厳しい女子校に通うセリアが、上記のような〈大人への儀式〉に手を出したり興味を持つのは、都会からやってきた、同い年だけどどこか大人びた転入生ブリア(ソエ・アルナオ)の存在によるところも大きいが、抑圧されているからこそ、逆にその反動で外の知らない世界や自由を求めているというか、深読みすれば彼女のSOSにも見える。大人からすれば大したことのない小さな抑圧の数々が、(まだこの時点では “声” を獲得していない)セリアにとっては非常に息苦しい枷になっているのかもしれません。厳格な学校、ちょっと早く生まれただけで偉そうに振る舞う年上の女子、彼女の話は聞かないのに「言う事をきけ」という母親アデラ(ナタリア・デ・モリーナ)……等々。そんな数々は、“大人” という存在を障壁や敵のように見せつつ、それと同時に、彼女が手にしていない自由を持った、子供にとっての憧れのようにも見せている印象です。


  ここでの親子の関係・距離感の描き方も絶妙。シャワーを浴びるセリアは、鏡を見て、視線を下に落とす。彼女の身体の変化をそっと匂わす素振りを描いた直後のシーンで、母親に女性用下着を買って欲しいと頼むセリアだが、この時点では断られる。ただ、後々のシーンで、セリアがしでかしたことに対し「どれだけ恥をかかせれば……」と怒る母親の姿が描かれるのですが、一方のセリアも、下着を用意してもらえなかったために学校で恥をかいたという事実がある(もちろん母親にも苦労や悩みといった情状があるわけですが、なにぶん本作はセリアの視点で描かれているので、どうしても、娘からの救難信号、心の悲鳴に気付けていない親のように見えてしまいます)。

 ノックもせずに彼女の部屋に入ることで、母親がセリアのことを無意識のうちに子供扱いしていることもよくわかる。母親が家族のことについて本当のことを言わずにいるのも、子供扱いをされていると捉えることでしょう。そりゃあセリアだって本当のことを言えないままでいて当然。今思えば、朝の支度をしているシーンで、鏡越しで会話をしていた時点で既に母娘の距離は暗示されていたのかもしれません。

 物語の終盤、自身の血を虚仮にされ、それでも家族に縋らなければならない虚しさが残るシーン……。ここでは鏡越しではないが、それでもまだ分かり合えるには時間が掛かりそうにも見えました。



 女性用下着を求めるのは、必要に迫られているという節もあるけれど、その様子の中には、変化への戸惑いのようなものが窺い知れる。けれど、化粧をする姿や避妊具に興味を持つ様子からは、逆に変化を求めているようにも見えてくる。そんな筆舌に尽くしがたい思春期の心の在り様が瑞々しく描かれている映画だと思います。


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