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映画『ヴァチカンのエクソシスト』感想

予告編
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PG-12指定


ホラーだけじゃない面白さ


 予告編を観て、面白そうだと思ったので鑑賞。実在したチーフ・エクソシスト、ガブリエーレ・アモルト神父の回顧録を基にしている本作は、一見するとホラー色の強い物語に見えるものの、どちらかというとアクション映画っぽいというか、中盤からはアドベンチャー風味な展開も加わってきたし、極端な言い方をしてしまえば能力バトルものっぽささえ感じられます。また、カトリックの総本山、ヴァチカンのローマ教皇に仕えていた神父が主人公で、物語の舞台が修道院ということではあるものの、それに則した宗教観や特別な知識が無くてもちゃんと楽しめるというのも本作の良いところだと思います。不信心者の僕が言うくらいだから間違いありません笑。とても面白かったです。


 

 チーフ・エクソシスト、要するに最強の祓魔師ってことですよね? そんな主人公・アモルト神父を演じているのがラッセル・クロウというのが良い。エクソシストだとか祓魔だとか、実際に存在はしているみたいなんですけど、実態がよくわからない中で、彼の佇まいから漂ってくる風格・雰囲気が、「この人、ただものではない!」と思わせてくれて、それだけで途端にハンパじゃない信頼感が生まれてくる。それでいて茶目っ気があるというのもキャラクターの魅力に繋がっているんじゃないかな(ラストにご本人の写真が拝めるのですが、その写真の表情も素敵でした)。
 

 信頼感みたいなことでいえば、「悪魔が何だ」「憑依が何だ」という言葉が飛び交う本作でありながら、割と序盤のうちに「98%はただの精神疾患」と言い切ってしまうあたりも、驚いたのと同時に面白かったです。白状すると、それこそ不信心者の僕なんかにとっては特に、そこかしこで展開される眉唾な話を、「信じる」とまで言うと過言ですが、ある程度を現実的・合理的な解釈で述べ、実際にこれまでも多くの案件を片付けてきた神父であり、しかも実在した人物であるという事実そのものが、物語にリアリティをもたらしてくれている気がします。だからこそ “残りの2%”、それも濃ゆ~い “残り2%” である本作を真っ正面から楽しめたのだと思います。
 



 先ほどは「ホラーというよりはアクション」という旨の話を述べましたが、とはいえホラーとしての面白みが無いわけではありません。脅威となるものの正体が明かされないことは、物語の真相を探っていく中盤以降のアドベンチャー感、或いはミステリー感を楽しませること以上に、恐怖感を増長させてくれる定番の手法。ジュリア(アレックス・エッソー)が寝室で怪異に襲われる際に、襲う者の手だけしか映さない。ヘンリー(ピーター・デソウザ=フェイオニー)に憑依した何者かが自身の正体を頑として名乗らない。エイミー(ローレル・マースデン)の周囲で起きる怪奇現象の原因が不明瞭などなど……。「得体が知れない」ということを上手く活かしている印象があるし、何より作品の冒頭に流れるテロップの存在によって、映画にのめり込めばのめり込むほど、得体が知れないはずの〈それ〉への畏怖が高まること請け合いだ。各所で不気味に映り込むように鏡が配置されているのも、非常に思わせぶりで(もしかしたら何かメッセージというか意味があったのかもしれませんが)良かったと思います。カットを割らずに、少しカメラの視線を外し、視線を戻すと先ほどとは異なる変化が起きているという見せ方も、とてもホラー映画っぽくて面白い。また、そういった様々なホラー色によるゾクゾク感が、不思議なことに先述のアドベンチャー感やバトルアクションらしさのゾクゾク感と同期していくような感じもして楽しかったです。
 
 ゾクッとするポイントで言えばエンドクレジットも面白い。神父が祓ってきたもの、またはこの物語の後も祓い続けていたであろう “それら” がサブリミナル的に映り込んでくる。暗めの背景に赤字のクレジット自体もおどろおどろしくて良いのですが、そういった「無意識のうちに忍び寄ってくる」かのようなサブリミナルの特性が、“それ” の存在を象徴しているようにも感じられました。




 
 そうやって色々なゾクゾク感が仕組まれていた本作ですが、物語の終盤、今までとは違った形で、……うーん、何と言うべきか。寒気のような、嫌な感覚。カトリック教会の闇が語られる際に心地悪さが訪れます。考えすぎかもしれませんけどね。それは、過去に世間を大きく騒がせた事件。けれど、わざわざ言葉にして、この問題を引き合いに出した意味はちゃんとあったように思います。(カトリックの総本山であるヴァチカンが本作にどこまで関与しているかは知る由もありませんが、)その問題にちゃんと触れた上で、物語の最後には組織が良い方向へと変化することを予期させるシーンが描かれます。それによって現実の組織も正しい方向へと歩みを進めていくこと、もしくはそうであって欲しいという作り手の意図を表していたように受け取ることも可能なんじゃないかな。はたまた、原作・原案となるアモルト神父の回顧録こそ未見のため、完全なまでの推測でしかありませんが、そういった想いが原作の回顧録に述べられていたのかな?なんてことまでも想像してしまいました。


 

 不意に鳴り響くノック音、どこか呻き声に聞こえなくもない風の音等々、シーンを彩る効果音を様々な方向から立体的にくらわせてくれる、そういった音響環境で楽しめる映画館で観るのがオススメです。のめり込むのが醍醐味であればこそです。トマース神父(ダニエル・ゾバット)との共闘ぶりも、次第にバディものっぽささえ窺い知れてくるし、ホラーだけじゃなく様々なジャンルの魅力が詰まった映画でした。


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