見出し画像

映画『SAND LAND』感想

予告編
 ↓


知らないこと


 めちゃくちゃ面白かったです。公開が始まってからしばらく経ちました(8月28日現在)が、まだ間に合うならIMAX上映での鑑賞の方が良いと思います。全編IMAX規格の本編は、音響がどーとか画角がどーとか、メリットだ何だとなんやかんやで語りたいことはいっぱいありますが笑、兎にも角にも視界全部を鳥山明ワールドにしてくれる大スクリーンで観るのが一番楽しいはず

ちなみに原作は未読(ネット上で少しだけ試し読みはしましたけど)なので、あんまり詳しいことは述べていません。……なんかジャンプ+で期間限定で無料連載していたみたいですね。折角アプリ入れてんのに、知った時にはもうほとんど終わっていました。もったいないことしたなぁ。
 



 本作はとにかくテンポが良いんです。ストーリーが面白いというのもありますが、テンポが良いから観ていて飽きません。きっかけ(≒原因)となる会話を少しだけ描き、次のカットでは結果に至っている、みたいな感じ。
 例えばですが、「自分にも運転させて欲しい」とせがむシーフと、それを拒むベルゼの会話がちょっとだけ描かれ、次のカットでは「うほほほほ!」と大喜びで運転しているシーフの姿が描かれていた序盤のシーン。この二つのシーンの間にあったであろう道程や過程が違和感なく省かれています。
 その他、スイマーズとの小競り合い等々、主にコメディ寄りのシーンにおいて、過程を省く手段が用いられていた印象です。これは原作の漫画でも同様でした。

 また、最低限の描写でシーンを省くという点でいえば、全体の流れから見てもそうだったかもしれません。ラオ、ベルゼ、シーフら主人公一行のストーリーの合間に、アレ将軍やゼウ大将軍など国王軍らのシーンが挟まれる本作。時間経過を直接描くというよりは、合間に別のシーンを挟むことで、主人公一行のシーンに戻ってきた際に、自然と時間経過 “後” のシーンであることが理解できます。断片的に描いているはずなのに各パートに繋がり(時間経過)を感じられることが、テンポの良さに繋がっているんじゃないかな。
 



 戦闘シーンも見どころの一つです。「速い」「強い」など、シンプルな戦い方ではベルゼ。地形の活用や戦術面など、巧みな戦い方ではラオが活躍してくれるので、どちらかのキャラクターの魅力が霞むということがありません。しかも互いに、物語が進むにつれて新たな設定や力が明かされていくのも、飽きることなくワクワクしながら観られる要因の一つ。

 また、敵方の面々も、その場でやられて終わりだとか、出オチだとかではなく、ちゃんと活躍の場が与えられていたのも本作の素敵なところ。……なので、エンドロールに入っても席を立たずに最後まで鑑賞することをオススメいたします笑。




 
 水不足が深刻な砂漠の世界で、保安官のラオが悪魔の王子ベルゼブブらと共に幻の泉を探しに行く物語。そんな本作では、「知らなかったこと」が色んなシーンで活きていたように感じます。ネタバレ回避のため詳細は割愛しますが、世界が水を失った真相、ラオが抱える過去に隠された真相など、挙げれば切りがありませんが、いくつか抜粋して感想を述べていこうかと。

 例えば、超人的な聴覚や視力によって戦車の位置がバレていることを国王軍は知らないし、はじめのうちはラオの正体も知らなかったし、一方のラオも、シーフに「王子の真の怖さをわかっとらん」と言われるくらいにベルゼのことを知らなかった……etc. 戦闘シーンの中で知らなかったことが面白さを引き立たせる要素になっていたことは言わずもがな。



 一番重要だと思えたのは、人間は悪魔のことを何も知らなかったということ。偏見や不確定な情報を鵜呑みにしてしまう恐ろしさ。上辺の情報だけで見知らぬ誰かを攻撃・糾弾してしまう恐ろしさが描かれています。フィクションの世界、漫画・アニメーションの世界の物語ではありますが、人類の歴史上でも同様の事は何度も起きている。特に情報過多の現代、情報の発信・受信が容易になったが故に、信憑性の曖昧な情報すらも錯綜するため、本作を観ることで、事実や真実を知ることの価値を再認識させてくれるかもしれません。
 また、水不足の世界が舞台の物語ということもあり、将来的に(或いは現在進行形で)資源の枯渇という現実の世界でも無視してはならないテーマをも連想させられます。

 そんな本作の序盤。人間の子供が悪魔から水を分け与えて貰ったという話を聞いて、ラオが驚くシーン。このシーンは本作の大きな見どころの一つなんじゃないかと思うんです。実は原作の漫画では、ベルゼが少年に水を分け与えるシーンがしっかりと描かれていました。本作でわざわざそのシーンをカットすることで、人間側が悪魔のことを本当に何もわかっていなかったという事実を浮き彫りにしていたのかもしれません。これもまた、「知らないこと」が活きているシーンの一つ。単に原作をなぞるだけじゃない、素敵な描写だったと思います。



 今思えば、悪魔たちのビジュアルがその名前に比して可愛らしいのも、単に鳥山明作品っぽいというだけの理由でなく、「聞いていた悪評とは違う」→「今まで勘違いしていた」「知らなかった」という人間側の偏見をも象徴していたのかもしれません。


 「偏見良くないよね」「水(資源)は分け合えるよね」等々の教訓。ラオの主義からもわかる通りの〈殺し〉が無い世界。ディストピアからユートピアを目指す物語。そして何より、悪魔が実は優しい……。多くの人々が楽しめる魅力が詰まった素敵な映画でした。


#映画 #映画感想 #映画レビュー #映画感想文 #コンテンツ会議 #アニメ #サンドランド #鳥山明 #SANDLAND

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?