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映画『ペイン・アンド・グローリー』感想

予告編
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R-15+指定


 明日、10月24日は、映画監督ペドロ・アルモドバル氏の誕生日!

 ……のつもりで準備していた記事なのですが、実は9月24日が本当のお誕生日でした!笑
本当に、今しがた気付いて、慌ててこの文章を打ち込んでおります。

 うーん……なんで1か月も間違えちゃったんだろうか。前もって記事を下書きした時はちゃんと調べた覚えがあるんだけど……。

 まぁ折角なので投稿します。例の如く公開当時の感想文なので、いつ投稿しようともあんまり関係ないですしね

よければどうぞー。


向き合う


 本作は、監督のペドロ・アルモドバルの自伝的要素が織り込まれている作品(たしか以前もそんなん撮っていたような気が……)。脊髄の痛みのせいで長い間、映画製作から遠ざかっている世界的映画監督が主人公である本作は、そんな物語のために〈映画〉〈演技〉〈監督〉〈役者〉について語られるシーンが幾度もある。けれど、“自伝的要素が織り込まれている” という、作品上の性質と相俟ってか、ペドロ・アルモドバル自身のそれらに対する考えを聴けたような気になれるから不思議。

 僕自身、彼については全然詳しくないのだけれども、こう考えるだけでも本作の見方が随分と変わってくるから面白い。なので一応、鑑賞前に彼については多少調べて……、とはいえ、彼のウィキペディアに目を通した程度ですので、本項が憶測だらけの文面になっちゃう点については何卒ご容赦を。



 のどに何かがつっかえているのは非常に心地悪い。それを取り除こうと苦心する主人公・サルバドール(アントニオ・バンデラス)の姿、そしてそのつっかえているものが取れた後のスッキリとした彼の感覚が、彼自身の心理状況とリンクしているのが面白い。色彩豊かながらも割と淡々と物語が進んでいく本作だからこそ、こういった小さなエッセンスがあることでより一層楽しめると思います。

 こういったメタファー(?)を取り入れる手法は、例えば今年公開の映画で言えば『はちどり』(感想文リンク)など、今までも見たことはありましたけど、心に抱えている何かを身体的異変で示すというのは、個人的にとても好きなんです。できものや傷、痛みや変色などの悪い変化が現れるだけで、その人物の心の中に前向きではない何かがあることがよくわかるし、何よりいちいち言葉に形容しなくても汲み取れるから良いな、と思うんです。

 そしてそれは逆説的に、その身体的異変が取り除かれることが、その人物の心を前向きにすることも同時に示してくれる。本作にはそういった、登場人物の心情を別の何かでもって、且つ “やんわりと” 表現しているシーンが多々あります。……中には僕の勘違いもあるでしょうけど。



 サルバドールが、過去に諍いのあったアルベルト(アシエル・エチェアンディア)に会いに行くシーンで、家の門を挟んで会話させているのなんか正にって感じがします。会いに来たは良いけど、向こうは会いたくないかもしれないみたいな不安を表しているかのように、門越しにサルバドールの顔を映しているのが面白かったです。



 自身の32年前の作品の上映依頼があったこと、そしてそれをきっかけに過去に諍いのあった人物と再会することが、サルバドールが自分自身と(図らずも)向き合う動機になっているのが本作。予告編で「アルモドバル版『ニュー・シネマ・パラダイス』」なんて書いてあったもんだから、ついそんな内容を期待しちゃいましたけど、ちょっと違った印象です。

 自身の身体の痛みと向き合う、過去と向き合う中で、アイデンティティの再発見(再認識?)があったり、「ただ生きている」「無意味」と卑下してきた自分の人生や自分自身を肯定できるようになったり……。過去を見つめ直すことが今を見つめることに繋がる過程を描いた物語なんじゃないかな。

 ついでに言えば、過去を振り返る時の、幼少期の回想シーンの描き方がとても素敵なんです。亡くなった母の部屋で親子の絵画を目にし、そこから母との記憶の回想に入るのなんか凄く良い。冒頭のプールに潜っているシーンも同様。“水” を連想させて、そこから川で女性たちが洗濯をする幼少期の回想シーンに移行するのも好きです。あと他人の批評の受け売りですが、子宮の中を想起させる水中のシーンを描くことで、母との物語をもイメージさせているのも素晴らしい。



 そんな本作の最期の最後も良いな、と。散々っぱら描かれてきた回想シーンの化けの皮をはがしつつ、そこで初お披露目された真実(?)が、延いては主人公が今、何に取り組んでいるのか、そしてそれは彼の心境がそれまでとどう異なっているかを観客に一発で理解させるラストシーン。もっと言えば、これからのペドロ・アルモドバル氏を期待させてもくれるんじゃないかな。再生の物語でありながらも際立ってみっともない姿は特に無く、色彩の豊かさなど映像美も見どころの一本です。


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