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映画『わたしの叔父さん』感想

予告編
 ↓


間(ま)


 我が家では、休日等で家族全員が食卓に揃った時にはTVを見ながら食事をする。特に明確な理由はありません。欠かさず見る番組があるわけではないですが、ニュースが流れていればニュースを見るし、面白そうなバラエティ番組が放送されていればそれを見る。特に興味のある番組が無ければハードディスクに保存してある番組を見ることもあります。真剣に黙々と見るというよりは、TVから流れる情報に「ああでもないこうでもない」とケチをつけたり、流れてくるワードから派生に派生を繰り返し、TVとは全然関係の無い話をしたりすることも多々。



 実は本作でも、食事の際にTVを見ているシーンがある。我が家とは対照的に、黙々と。叔父(ペーダ・ハンセン・テューセン)と姪のクリス(イェデ・スナゴー)の二人暮らし。決して仲が悪いわけではないものの、会話が弾む様子は微塵も無い。淡々と聞こえてくる明るくないニュースをBGMにして、画角も構図もほとんど変わらずに、そんな食事シーンが何度となく描かれる。


 ある時、背を向けているような話題を振られた叔父は、逃げるかのようにTVをつけてニュース番組を見始めます。まるで「会話したくない」「その件についてはまた今度にしてくれ」と言わんばかりに。

今思えば、夕食後にリビングでゆったりとしていた時もそうでした。TVを見ることに夢中なのか、それともボケ始めていただけなのか。姪からの問い掛けに生返事する様子からもわかる通り、TVはこの家にとって “間” を埋めるものになってしまっている印象でした。

 この無機質な日常のワンシーンが、物語の終盤でちょっとした変化を迎えることで大きな意味を孕み出す。ということで、以下、ネタバレ御免。



 本作には、余計なセリフがほとんど無い。周囲と繋がりを持たない日常が故に会話無しでもまかり通る。町を離れることを提案された時も、「乳牛もいるし……」と言った後にそっと叔父に目線を向けるクリスの素振りは、「叔父の面倒を見なきゃいけないし」みたいな彼女の心情を示してくれていました。

一方の叔父も、姪に気を遣わせていることに思うところがあるのか、普段は一人ではこなせないことを、たまに自分一人で解決しようとする。

「気を遣わせている」と「気を遣わせている、と思わせている」という互いの想いが、とても丁寧に表現されていると思います。


 自分のことなんて気にせずに好きなことをさせてやりたい叔父に対して、何だかんだで心配や不安が拭えないクリス。出先から叔父に電話をかけるシーンはとても印象的。その前に描かれた電話シーンでは互いの姿が映っていたのに対し、今度は叔父の姿だけが一方的に映し出されないことによって、叔父のことを心配し、不安が拭い切れないという彼女の心情を見事に浮き彫りにしていたと思います。





 主人公の服装などから、いわゆる女の子らしい要素が排除されていたり、周囲の人や社会との繋がりが薄いように見えた二人の日常。ひょんなことから繋がりが増え、世界が広がりかけるも、あるトラブルをきっかけにして元に戻り出す。ようやく手に入れたスマホの電源を切る様子は、恋人を突き放した彼女の心情以上に、周りとの繋がりを断ち切ることのメタファー。それはつまり、何の繋がりも変化も無い無機質な日常——要するに冒頭と同じ状況——に戻ったことを教えてくれる。

 そんな状況になって迎える “いつもの食事シーン”。唯一違うのは、TVが壊れてしまったことで、TVを見ないで食事をすることになったということ。今まで特に真剣にTVを見ていたわけでもない。会話をしていたわけでもない。なのに、今まで何ともなかったはずの無言の間に耐えられなくなる……。そしてここで終幕する物語。

 何者かの幸せといった大団円や、物語上の着地点を排除することで、まるで今まで目を背けてきた問題や課題に向き合わざるを得ない締め括りになっています。ずっとこんな風にして暮らしてきた。でもいつまでもこのままではない。いつかは叔父は亡くなる。或いは姪が出ていくんじゃないか、叔父の介護が大変になるんじゃないか、今持っている牧場はどうするのか……。

時間に解決を委ね、今まで後回しにしてきたこと、言おうとしながらも心の奥に抑え込んでいた気持ちなどが一気にせり上がってくる独特の後味。この不思議な感覚をもたらす “間” は、実際に観てみないとわからない。


 余計なセリフを削ぎ落とした感じは、時折ちょっとしたユーモアとしても活きてきます。姪に好意を寄せる男が、うっすらと叔父に気を遣っていた……というか、少しばかり困惑している様子はとても面白い。むしろセリフにしない方がより如実に伝わるのかもしれないとすら思わされます。派手さは無いですけど、とても良い映画だと思います。


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