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映画『スーパーノヴァ』感想

予告編
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 6月6日より、Huluにて配信開始された本作の感想文です。

 オススメ……とはまた違いますが、とても素敵な作品だったと思います。


人の死


 映画の冒頭シーン、夜空に星の光が浮かぶ。そのうち、真ん中あたりに光る星が大きく輝き出す……かと思いきや、輝きを放ち切った後、その星は見えなくなってしまう……

それは、本作のタイトルにもなっている超新星〈スーパーノヴァ〉。「超新星って何ぞや?」となるかもしれませんが、劇中でちゃんと語られているので知らなくても問題はありません。タスカー(スタンリー・トゥッチ)が姪と一緒に星空を眺めながら、超新星についての説明をしているんです。その中で語られているのは、超新星による “星の死” と、その “星の死” が巡り巡って我々の体を形作っているということ。天文学の知識なんて皆無に等しいので、少女を相手にロマンを織り交ぜながら話している部分もあるかもしれませんが、このシーンのおかげで、本作で描かれるストーリー、テーマがより盤石なものになっている印象です。



 本作は、とても丁寧な筆致で語られる物語。二人の主人公、サム(コリン・ファース)とタスカーの愛がとても美しく描かれています。序盤、二人の仲や関係性はなんとなく察しは付くものの、旅をしている理由やお互いの素性などはあまり語られないまま、静かな時間が続いていく。けれど、細かな説明などせずとも、二人の関係性や作品の雰囲気がよく伝わってくる。この繊細な語り口も本作の魅力かもしれません。

 食後、皿も片付けないまま、互いにちょっと距離を取ってくつろぐ二人。同じ空間に居ながらも相手に気を遣わない、遣わせない。そんな様子だけでも、一緒に居ることが当たり前というか違和感が無い程の関係であることがよくわかる。逆に買い物中など、二人が離れて行動している僅かな時間ですら、車の方をチラチラ気にするサムの姿を映すことで、彼がタスカーのことを常に気にしていることを教えてくれる。また、この一方的な描き方が、タスカーの症状との対比のようにも感じられて面白い。



 この二人の親密な関係に美しさというか品のようなものを感じてしまうのは、親密さの中にも互いを尊重し合う感じが窺い知れるからなんじゃないかな。お互いがお互いのことを誰よりも深く理解している。けれど、隠し事というか知らないこともある。もちろん、相手が望まない限りは深入りしない、詮索しない。

……しかし、ティム(ジェームズ・ドレイファス)との話をきっかけに、遂に物語が大きく動き出す(ネタバレ防止のため割愛)。


 人の死に触れることは、何かを失ったような気持ちになる。自身の心の中でその人の存在が大きければ大きいほど、その喪失感は計り知れないものになる。けれど、存在が大きければ大きいほど、超新星は大きな輝きを放つ。その消えた光の破片か、残滓か……。そんな何かが、残った者を形作るのであれば、人の死とは一方的な喪失だけではないかもしれません。たとえ死を迎えても、その死は他の誰かを形作り得る。或いは、そういった考えがあるから、人は、人の死を受け入れることができるのかもしれない。

精神的というか神秘的というか、最早こうして言葉に形容するのも難しい哲学的な話かもしれません。本作で描かれている「人の死」は、一概に語れるものではないのだから、それも仕方がない。丁寧な筆致だとかなんだとか、本作が良いものであると前述してはいるものの、こういった部分に関しては相容れない方もいらっしゃるでしょうから、安易にはお勧めできない。だが少なくとも、僕は間違いなく感動しました。強く、とても強く胸に刺さった。だからこそラストのサムの台詞が未だに忘れられない。……あれは、“どっちの意味” だったのかなぁ。どっちにも取れるけど、どちらにしても愛に溢れる言葉だった。



 大自然の中を旅するような二人旅は、まるで人間の一生の短さを浮き彫りにするようでありながらも、その自然との距離の近さが、 “星の死” と “人の死” という非なる二つのものを、どこか近しいもののように感じさせ得る。果たして人の死とは。愛とは……。それが超新星〈スーパーノヴァ〉によって語られる。そしてラストのあの完璧な一言。見事な回収と、そして美しいドラマ。この物語を彩る音楽、そして主演のコリン・ファース、スタンリー・トゥッチという安心感。決して派手さは無いかもしれないけれど、本当に良いものが詰まっています。

 「悲しい」「切ない」などと形容すると落ち込んだような感想に聞こえてしまいそうですけど、観終わった時のこのカタルシスは、まるで心の中の不純物が綺麗に消え去ったような後味。とても良かったと思います。


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