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映画『ダーク・ウォーターズ 巨大企業が恐れた男』感想 

予告編
 ↓ 


正しさ


現在、日本で使われているテフロン鍋は安全です! 安心して使えます。
……とにかく、”これを真っ先に言っておかないといけない” と思った笑。

 本作は、実話を基に作られた実録社会派サスペンスで、公害による環境汚染と、それによる深刻な健康被害に苦しむ人々を救うために、たった一人で巨大企業に立ち向かった実在の弁護士ロブ・ ビロットが主人公の物語。

テフロン鍋を作る過程で……ってまぁ、迂闊に化学的な話をして間違った情報を流すのも良くないので細かな説明は省きますが、作中ではデュポンとい う化学企業が実際に引き起こした公害問題が描かれます。
そのため鑑賞直後は、うっかり「今、世の中に出回っているテフロン鍋も危険なんじゃね?」などと思ってしまいかねませんが、実際には大丈夫。ただ、そのことについて一切触れられないまま物語が終わってしまっていたので、お客さんの中には「テフロン鍋は危険!」という認識のままの劇場を後にされた方もいたんじゃなかろうか? ……前置きは以上です。



 これは素晴らしい。いわゆる社会派サスペンスと呼ばれる作品の中で言えば、近年でも屈指の面白さかと。タイトルの〈ダーク〉という言葉は、汚染された水を指す言葉として以上に、見えない、実体が掴めない、なのにとても大きな存在である大企業という強大な敵と戦うロブ(マーク・ラファロ)の不安な心情をイメージさせてくれる。

“闇の中に隠されていた事実” という意味でもそうだけど、個人的にはシンプルに、 “ダーク・ウォーターズ” というものが本当に何も見えないものであることを視覚的に理解させる冒頭のシーンが、作品の後味までをも、より良くしてくれていた気がします。

照明が無ければ汚れていることにも気付けない、本当に真っ暗な水は、仮に沈んでしまったら誰にも気付かれないし、何よりその冒頭シーンで泳いでいた若者たちのその後が全く描かれていないことが、また新たな不安を呼び起こす。
その視覚的印象のせいか、おそらく実際の水温以上に寒気を感じてしまうのも薄ら恐ろしい。



 温度ということで言うと、これもまた見た目の上での話なんだけど、暖色と寒色が使い分けられていたように見えたのも面白い。カメラの調光というか効果というか、背景や小道具というよりは撮影する時のカメラの仕様によるものなのかはわからないんだけど、ロブが働く会社や家の中は暖色で、公害に苦しむ地域や、大企業に喧嘩をふっかけたために周囲から冷めた目で見られてしまう街中などは寒色で撮られていることが多い。


 一方で、基本的に屋内は暖色で屋外が寒色というイメージが刷り込まれている本作だからこそ、屋内のシーンが寒色になった瞬間にハッとする。

暖色で描かれがちだった社内なのに、デュポン社から送られてきた資料の山に埋められた部屋の中は、必要以上に暗く描かれる。まるで巨大な闇に囲まれているかのように……。
それまで愛する家族との幸せそうな光景が描かれていた家の中も、ある時、ロブの状況や心情に合わせたかのように突然、 全体的に寒色で描かれる……。

不安を煽る重低音や歪んだ音、焦燥感に駆られるカチカチとした音が混ざるBGMも相俟って、サスペンスとしてとても面白いんです。



 法律やルールの網の目を掻い潜る。
司法という、完璧ではないシステムの揚げ足を取り、 物事の善悪ではなく目先の利益を優先した企業を真正面から批判している本作、というか、主人公ロブはめちゃくちゃかっこいい。このロブ自身が、本作で言うところのデュポン社とは正反対に、目先の利益ではなく自身の正義感や良心に従って動いているんです。

しかし、簡単なヒーローものとして描かれているわけではない。企業への糾弾、もちろん正当なものに限るが、それによって職を失ってしまう人や、企業からの恩恵を受けられなくなってしまった人もしっかり描かれる。
大企業やその工場の存在のおかげで町が活性化されていたのなら尚更で、その不満や怒りが逆恨みとなり、正しいことのために立ち上がったロブと、その周囲の人間たちの平穏が脅かされる。直接的な損害を被っていなくても、波風を立てるような人間が身内や近場に居ることを疎ましく思う者だっている。


「白黒つけて何が悪いんじゃい」と言わんばかりの語り口かと思っていたのに、正義が否定されていくかのように錯覚させられる怖さもある。様々な見えない脅威、そして、だからこそ際立つ一筋の光明。このバランスが良いんじゃないかな。

個人的には、大企業を相手取ることに対してグチグチと不満や懸念ばかりの能書きを宣う社員に向かって社長(かな? ティム・ ロビンスが演じていた役)が吠えるシーンが大好き。



 良心の呵責が無いのかと問いたくなる企業の利益至上主義。しかし残念なことに、それでも逃げ切られてしまう現実。……そんな中、世のため人のために戦った、もとい今も戦っている男の物語。自身の家族を通すことで、家族のためにも未来を守ることを決意して立ち上がった一人の弁護士が主人公の、「これぞ正義」と言いたくなる一本でした。


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