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映画『ガンパウダー・ミルクシェイク』感想

予告編
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PG-12指定


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本日午後11時15分より、 WOWOW にて ”初”放送予定の本作。
2/27(月)にも放送されるんだとか。

タイトル通りというか、火傷しそうな危うさとキュートな甘さが混ざった、痛快で豪快なアクションです。



消えない傷


 こんっなに気持ちいい映画は久しぶりなんじゃないかと思う。映画好きが観れば、あれやこれやと言いたくなる、過去の名作たちを彷彿とさせるシーンがいっぱいだ。事実、監督もインタビューで多くの作品や監督の名前を挙げており、ひとまずそんなオマージュを見つけながら楽しむのも一興かと。

しかしながら、「あのシーンはまるで『〇〇』の~~」と、オマージュの元となる作品のタイトルを逐一挙げていたら切りが無い。そういうオタク同士にしかわからない話はさておき(とはいえ、いつか誰かと話す機会があったらとことん語らいたい)、本作は、細かい小ネタなどを抜きにしても全力で楽しめる痛快過ぎる作品です。

 何より、面倒くさいことを考えさせない雰囲気なのが特に良い。ハードボイルドな主人公と、テンプレのような敵、ざっくりした説明、そして過去の名作たちのオマージュの存在からもわかる通り、魅せる手段さえあれば、あとはもう細かいことなんか不要なのだと、これだけで充分なのだと言われているような気にすらなる。キャラ設定とか二の次よ。強い奴が悪い奴らをブッ飛ばす、これで良い。

しかもその強さが、スラング的に言うところの「オレTUEEE!」みたいな行き過ぎたチート感ではないというのも魅力的。たしかに超強いけど、しっかり被弾するし、ピンチにもなるし、誰かの助けも借りている。その上での暴れっぷりだから良いのだ。

 前置きはこれくらいにして、これからストーリーについて多少の能書きや個人的な感想を述べる(軽ネタバレはあるかも)けど、もう読まなくても良いよ笑。それどころか今のご時勢、ネットに色んな意見が出回っているけど、それらも一切合切無視して、ただ楽しむのが一番です。



 先述の「オレTUEEE!」に感じない一つの要因に、”力を持つ者が、自身の行動によって復讐や仇といった何かを生んでしまっているから” というのがある。まんま受け売りで恥かしいんだけど、「大いなる力には大いなる責任が伴う」ってのが何となくしっくり来るかな(逆に言うと、そういうのが無いから「オレTUEEE!」みたいな作品が苦手なんだけど……)。
復讐が復讐を呼び、次第にエスカレートしていく。終わらないまま、消えないままの痛みや後悔、恨みや怒りが登場人物たちを振り回す。冒頭に描かれる、ダイナーでの十五年前の回想シーンで付けられた頬の傷が、物語の最期の最後まで消えることが無かったのも、まるで過去は消えないのだと物語っているようで印象的。また、それほど深い傷なのだと。


 だからこそ、復讐の連鎖を断ち切る、もとい、立ち止まるという選択をするラストが非常にカッコイイ。単純に「復讐は良くないよ」と綺麗事を言うだけなら簡単だろうけど、主人公・サム(カレン・ギラン)にとってはそんなに甘いもんじゃなかったはず。敵からの復讐で大変な目に遭ったし、過去の復讐を後悔している母・スカーレット(レナ・ヘディ)の姿も目にしてきた。自身の犯してしまった過ちへの後悔や懺悔の念から、自ら危険の中に飛び込むこともあった。そんなサムだったからこそ、その選択に重みが出るんじゃないかな。



 物語の終盤に彼女が見る悪夢は、彼女自身が抱える罪悪感であり、同時に可能性がゼロではない世界線。要するに、きっかけさえあれば、また新たな復讐が起こり得るということ。サムの頬の傷同様、過去の傷は簡単には消えたりしない。でも、実際にはサムの見た悪夢は、ただの夢のままだった。なぜならきっと、スカーレットに学んだサムと同様、あの子もまた、後悔や懺悔で苦しむサムから学んでいたから(そう思いたい)。
サム×エミリーでのやり取りと同じことが、サム×スカーレットの母娘間でも反復されて描かれていたことも、そう思えた要因の一つ。

結果として、最期の最後まで残るその傷跡は、消えない復讐心や痛みのメタファーから、自身の懺悔や罪悪感を忘れていない楔、或いは忘れてはならない、忘れまいという決意や信念のメタファーに変貌したようにすら映る。



 携帯電話のフォルムから察するに、現代ではないが、それほど昔でもない曖昧な時代設定。一般人が知り得ない裏社会。タイトルロゴにもあるネオンライトの怪しげな魔力。時間帯のはっきりしないダイナーでの思わせぶりな会話等々。抽象的でキザを通り越した様式美の数々を、まるで西部劇を彷彿とさせるかのような口笛・掛け声混じりの音楽や、『ワイルドバンチ』等の名作さながらの映像的オマージュで拵えた本作。ここまでやってくれたら、PG-12指定は残酷さへの配慮ではなく、客層を絞るためのものでしかないかもしれません笑。


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