冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十五話 #DDDVM
私の視覚に含まれるマナ受容体が、水華を構築している魔力骨子に微細なひび割れが走ることを確認した。サーン少年が打ち込んだ水管が、本来繊細な魔力構造体に制御上のノイズを走らせ、彼女の制御を乱したのだ。
二三度ぶるぶると水華が振動したかと思うと、あたかも噴水が最も噴き上がって四散するかのように四方八方へ水滴が爆発四散する。ポーンと宙へ投げ出された華奢なご婦人は、リューノ殿が剣を投げうって着地点に踏み込み、何事もなくキャッチした。
「お怪我はありませんか?」
「……ないよ、どーも」
脅した相手に救われたのが流石に気まずいのか、整った顔立ちに朱をさしてリューノ殿の胸板を押しつつ地に足を下ろす。ざんばらな水色の髪が風に揺れる花のように乱れた。と、そこにサーン少年も駆け寄っていた。
「先生!」
「あー、その、なんだ……悪かったね。アタシの早とちりで」
「いえ、こちらこそあなたに先に話を通すべきだったかもしれません」
「えーっ、順序逆でも絶対こうなったってぇ。先生の喧嘩っ早さはここらへんで一番じゃん」
「うっさい!……とにかく、アンタ達がアタシがとちったような連中でないってのはわかったよ」
地もゆらさんばかりの大きなため息をついた後、わずかばかりの逡巡の後で彼女は自身の自宅を背中越しに指差した。
「立ち話もなんだ、ウチに来な。椅子は足りんがタオル位は出すよ」
―――――
通された木造のご自宅は、こじんまりとした造りで我々一行がお邪魔すれば少々狭苦しい印象の広さだった。中央にはテーブルに二脚の椅子、後は寝台とアチラコチラに魔術書と思しき分厚い書籍が散乱していた。
サーン少年の師は椅子の内一つにどっかりと腰を下ろして頬杖つくと、一行の顔を見回す。
「エリシラだ、ここで隠居しながらこのヒヨッコに魔術を教えてる」
「リューノと申します。一介の冒険者です」
「アルトワイス王立学院にて医学生につとめております、ワトリアです。それと、私の眼鏡越しにシャール先生も話を聞いています」
「シャール・ローグスです。しがない竜ですがよろしくお願いします」
「アルヴァ族、シャンティカよ。私も冒険者ね」
「グラス・レオート二世です。よしなに」
最後の二世殿の自己紹介を聞いてエリシラ殿は眉をピクリと跳ね上げたが、何ごともなかったかのように話を続けた。
「率直に聞こうか、ウチのバカ弟子は一体どこで何をやらかしてアレを持ってきたんだい?」
「では、その疑問には自分がお答えしましょう」
一行の中から、レオート二世殿が進み出てエリシラ殿の対面に座った。他の面々には、サーン君がタンスからタオルを引っ張り出して配っていくのが見える。
「サーン君の罪状は先代迷宮公グラス・レオートの破壊・殺害と、アルトワイス王家が管理している遺物の盗難です、ね」
「ひゅーっ……案の定だ。こりゃアタシの首一個じゃ釣り合わないねぇ」
「イヤだよ先生そんなの!」
「お黙り!悪さのすべを教えたアタシが、無責任決め込むって訳にはいかないんだよっ!」
エリシラ殿の一喝に、サーン少年は季節外れの草花のようにしおしおとしおれた。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十五話:終わり|第四十 六話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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