ガイズ・ミーツ・怪獣 -2-
雲海の上を愛機である黒曜石めいた装甲まとう人型機動でもって飛翔しつつ、一人ごちる。
怪獣といえばかの怪獣王とか、要するにムービーの存在だ。少なくとも俺は、怪獣の定義に明確に当てはまっている様な生き物には遭遇したことはない。怪獣と呼んでもよさそうな存在に遭遇したことはあるが。
「いないと思う?」
「何が居てもおかしくないのが現実って奴さ。神も悪魔もいないと思ってたらノコノコとドヤ顔で出てきやがる。怪獣だって、そこらへんに居たっておかしくない」
「ダヨネ!」
T・Dがおそらくは会話の最後の方しか掴んでいないのはあえて突っ込まないでおく。コクピット内モニタを通して、俺に随伴しているグレーカラーの超大型ステルス爆撃機めいた機体が、雲に神話の巨鳥めいて影を落としているのが見える。
個人で好きなようにお好みの機動兵器が所有できる、ソウルアバターが普及してからこのような光景が見られる様になった。もっとも機動兵器を好き好んで所有したがるのはこの時代においても相当な物好きに入るのは変わらない。
「もうすぐS・Cが提供してくれたポイントだ。着地には気をつけないといけないな」
「こういう時大型機は不便ですよね」
「確かにな。場所によっちゃイクサのサイズでも持て余すってもんだ」
日本らしい木々に覆われた山脈の中、ポツンと取り残されたかの様な、くすんだ色合いの大きな建物が確認できた。つながる道路は広々とした敷地を隔てる正門前に辛うじて確認できる程度で、他に建築物の類は視認出来ない。
「ま、上空から転送すれば済むだろ」
「了解っと」
うちすてられた研究所に立ち込める暗雲の影に覆われていく。そこにさらにT・Dの乗機の影が重なりより暗さを増すと、なんとも今後の先行きを示しているようにも感じられた。杞憂だといいのだが。
ーーーーー
自動ではなくなったドアのガラスに手をかけて無理やり引き上げると、病院の受付そのもののエントランス。もっとも待合のベンチは数がごく僅か、ここがあくまで研究所であることがわかる。
「放棄されて大分時間が経ってるみたいだ」
「そのようだな」
エントランスの設備には廃墟特有の黒いくすみや黒カビがはびこり、床にはほこりが降り積もっている。その中に、俺は他者の足跡を見出した。
「どうやら、先行者がいるようだ」
「こんなへき地にかい?」
「俺達だって人のこたぁ言えないさ。靴のサイズからすると複数の男女、歩幅の不安定な、せわしない歩き方をしてるから大方肝試しのパリピだろう」
まあ、物好きなヤツラなどどこにでもいるものだし、ポストアポカリプスをほうふつとさせる廃墟が人の心を掻き立てる謎めいた魅力があるのも事実だ。とはいえ、S・Cが語った情報が確かならここは、少々肝試しに使うには不適切だ。
「どうする?」
「なあに、こっちはこっちで好きにやろう。パリピならさしたる害も」
そこまで俺が言ったのをさえぎり、エントランスまで男女の悲鳴がとどいた。顔を見合わせる俺とT・D。何かがいるのは予想していたが、いくら何でもはやすぎやしないだろうか。
【ガイズ・ミーツ・怪獣 -2-:終わり:-3-へ続く】
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