全裸の呼び声 -49- #ppslgr
レイヴンの声に安堵も慢心も存在しなかった。未知の神性とはべらぼうにめんどくさく、厄介で、ハタ迷惑なモノであり……いくら積まれても関わりたくない存在であったからだ。それが人間の信仰に紐付いたことがないとなれば、一層厄介なのも明白であった。
「本格的に結びつくのもマズい。それはわかってるよな?」
「それはもう、もちろん」
「もしかしてアレか?露出会の連中が狙ってるのも、ここのヌシとの和合っちゅうわけか?」
「十中八九、そうだ。産地が何処か知らんが、ここまで出来る代物を乗っ取れれば、それなりに好き勝手は出来るだろうな」
「ふむう……」
得体のしれない振動が、三人のいる部屋から薄皮一枚隔てた外側を駆け巡った。はたしてそれが何を表明するものなのかは、アノートにも掴み取れない。仄暗い井戸の奥底が脈動するような感触。
「さしものワシもここまで厄介な事態は、初めてじゃがおヌシらはその様子だと何らかの知見があるようじゃな」
「そんなにあてにされても困る。出せる方策といえば、家主の眼の前でうろつくゴロツキを追っ払いつつ、家主の方にも穏便に引っ越してもらうなんて曖昧にも程がある話で」
「まあ、やることが明確なのはいいことだよ。まずは露出会のメンバーを牽制しつつ、ターゲットの注意を引く。これだね」
「そうなる。ともあれ、今は休もう。やっこさんがこっちに注意を払っている以上、そう簡単に捕まらないさ。現に俺たちが来るまで連中は空振り続きだったんだし、だろ?ラオのおっさん」
「実際、そうじゃ。おヌシらが来るまでワシも奴らも霧中を手探りで進むような感じじゃった」
唸り首を捻って自身の徒労を振り返るラオを余所に、レイヴンは寝っ転がって会話を打ち切る。二人も中央のちゃぶ台を避けてそれに習った。
一行が目を閉じると、得体のしれない感触はよりいっそうの質感を持ってそれぞれの傍らに寄り添う。それは間違っても布団の柔らかい暖かみではなく、巨大な獣の舌上で転がされているかの如き不快感であった。
ラオの輝きも奥ゆかしい読書灯めいた灯りになるが、そんな光量ダウンも必要ないほどに他の二人はすぐに寝落ちる。
―――――
翌日。朝。
ドブヶ丘にかろうじてやってきた朝日が、分厚い曇天をさし貫いて屋敷を照らす。誰よりも早く起き出して、雨戸を開くラオ。裸身のきらめきが朝日と同期する。
続いて、アノートが猫のように軽やかに起き出して伸びをしてみせ、最後にレイヴンが二日酔いの酔っぱらいよりもおぼつかない足取りで日光浴に姿を見せる。
「おはよう、その様子だとやっぱり本調子じゃないようだね」
「オアフあたりで一ヶ月食っちゃ寝して過ごしたい程度にはな。とはいえ、そんな猶予はなさそうだ」
何もかもがどうしようもない位に歪められたこの街で、太陽の光だけが唯一変わらない存在であった。
「まずは、飯だ。ドブヶ丘のヌシのお慈悲で荷物が帰ってきたからな。匂いは楽しめないが、空きっ腹で動き回るよりは遥かにマシさ。
【全裸の呼び声 -49-:終わり|-50-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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