全裸の呼び声 -47- #ppslgr
失われた荷物が戻ってくるだけならおとぎ話めいてありがたいことだが、問題はここがドブヶ丘であることだ。現れ方からいっても、間違っても筋肉ムキムキのネズミが持ってきたというわけでもない。
「……マジか」
レイヴンとアノートはそれぞれ慎重に降って湧いた荷物ににじり寄ると、改めて状態を確かめる。驚くべきことに、荷物にはあの触手が絡みついた痕跡さえ見当たらない。二人が休む直前に封をした状態のまま、二人の目の前に戻ってきた。
「さて、どう解釈するかな」
「なんじゃ、おヌシら荷物が戻ってきてほしいと言ったばかりじゃろうが」
「チップも渡してない相手に荷物を持ってこられるのは、ちょっと警戒してしまいます」
「むう……たしかに」
旅先で荷から眼を離すな、他人に委ねるな、とかの世界の這いずり方にも書かれている。ましてや、相手は人間の価値観が何処まで通じるかも曖昧な超自然的神話存在。果たして軽率に善意厚意とみなしていいものか。
レイヴンは荷物に触れると、自身の異能でもって世界に干渉する時と同じ要領で荷の存在情報を読み取る。黒緑のUNIXワイヤーフレームモデルめいた存在構造イメージに、一六進数コードがズラッとまぶたの裏を駆け抜けた。結果は、改ざんなし。ロストする前と全く同じ荷物である。
「細工もされていないようだ。ますますわからん」
「一つ、仮説をたててみたんだけどいいかな」
「どうぞ」
「レイヴン、君は自分の作品が出来上がったどうする?」
「急に変なこと聞くな、そりゃもちろん公開するに決まって……そうか、そういうことか?」
「ほう。つまり、この妙ちきりんな異界は、何者かの『作品』ってわけじゃろうか」
「そう。つまるところ一連の騒動は侵略や支配が目的ではなく……手近な材料を使って作った『作品』なんだ」
「現地住人は砂扱いの砂のお城ってわけか。これだから超越存在ってヤツは」
「理屈はわかるんじゃが、それと荷物を回収してくれたのはどうつながる?」
ラオの疑問に、レイヴンはかぶりを振った後に答えた。
「せっかく作った出し物の途中で、観客が帰ることほど興ざめな事はないだろう」
「なる、ほどのう」
「もっとも、帰らせてしまった場合に猛省すべきなのは作った側だが、そんな小難しい説教が通じる相手でもなさそうだ」
レイヴンは自身の荷を開くと、持ち込んでいたまともなミネラルウォーター二本取り出して片方をラオになげ渡した。その後、軽くあおる。水は一気に摂取しても、人体には補給されない。無駄な飲み方は出来なかった。
「しかしワシらが観客のう……」
「正確には、違う。アンタはいきなり突っ込んできた通行人で、俺は招待客にくっついてきたオマケ。本当の意味でこのドブヶ丘に招かれた客は現状、教授だけだ。そうだろ?」
「おそらく、ね」
【全裸の呼び声 -47-:終わり|-48-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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