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全裸の呼び声 -12- #ppslgr

「とはいえ、この状況で怖気づいて時間は浪費出来ない」
「そうだね、行こうか」

 二人は順番に、駅改札に降りる。駅構内は汚染エリアからかろうじて除外されているようだが、出入りする利用客の大部分は現代日本の人間とはとうてい思えない雰囲気をまとっている。

 レイヴンはその中で、正気を保っていると思しき駅員に声をかけた。駅員はひどく消耗している様子だったが、日本人特有の職務意識か現状維持バイアスか、どちらにせよこの場から離れられないようであった。

「失礼」
「ああ……ええ……はい、何か御用でしょうか?」
「この駅から南方のエリアについて聞きたいんだが」

 その言葉に、駅員は目を剝き、下をむいてブツブツ独り言をこぼしたのちにおどおど顔をあげる。明らかに憔悴しているのが見て取れた。

「気を強く持ってほしい。登戸駅前は、かつてはあのような奇怪な街並みではなかったはずだ。いつからああなったか覚えていないか?」
「そんな!そんなことを聞いていったいどうなるって!?」
「私たちは本件の調査員です。この異常事態を解決するためにここに来ました。まずは落ち着いて、あなたが見たことについて教えてください」

 ひゅーっ、ひゅーっ、と荒い呼吸音が静かな駅の有人改札コーナーに響いた。

「その、あの……確か一週間以上前のことだったと思います。私が仕事のために駅についた朝、ホームに上がった時に初めて気づいたんです。あの、アレを」
「アレとは?」
「あのおぞましい奇怪な街並みですよ!朝日に照らされてるのにああも、どす黒くうす汚れていて、行き来する人たちは日本人とは到底思えない感じで!じっ、自分が気づいたのが単にその時だっただけで本当はきっともっと前から……っ!信じてください!この駅前はっ、前はあんなんじゃなかったんです!」
「わかっている、これを見るんだ」

 レイヴンが駅員に差し出したのは自身のスマホ。板面には在りし日の牧歌的ですらある駅前の画像が並んでいた。インターネット上のデジタルデータは、確かにこの街が、以前は単なる首都圏の駅前であることを記憶にとどめていた。

「ああ……っ!そうです、本当はこんな、ありきたりで退屈な場所だったのにどうしてこんな……!」
「それについては俺たちもまだわからん。そして、あの異界の汚染浸食は少しずつ広がってきている、そうだな?」
「はい……!自分が朝この駅に出勤して見渡す度に毎日、少しずつ確実に、広がってきたんです。もともとはもっと駅から遠くにあったのに、今はもう駅前はすべて飲み込まれて……!」

 駅員は焦点の定まらない瞳で天井に視点を合わせて訴える。

「こわい……怖いんです。この駅を使う人達も、どんどんおかしな人ばかりに入れ替わって行って……このままここに居たら自分も、ああなるんじゃないかと」
「わかった、答えてくれてありがとう。もう今日は何か理由をでっちあげて自宅に帰るんだ」
「で、でも……」
「今は異常事態です、勤務を取りやめて退避しても、責任は問われないでしょう。仮にそうなったら、私たちが現状の証人になります」
「……わかりました」

 駅員は今にも逃げ出したくてたまらなかったのか、すぐに上役へ連絡を取り出した。レイヴンはここから逃げてからやるように言い含めると、外に向かう構内通路に視線をめぐらせる。可視化されぬ、しかし言いようがない異様な空気が南側から流れ込んでいた。

【全裸の呼び声 -12-:終わり|-13-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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