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全裸の呼び声 -56- #ppslgr

 百は流れてくるツッコミどころの内、せいぜい一つくらいしか茶々を入れられていないが、それもそろそろどうでも良くなってきたレイヴンである。こんな事態にイチイチツッコミを入れていてはそれだけで人生を使い切りかねない。

 アノートから降ろされてへたり込んでいる被害者に視線を流すも、彼女は彼女で呆け気味だ。どのみち敵味方双方にとって狙いの相手ではなかったので、放置しても問題はないと判断する。

「というわけでお嬢さん、悪いが先を急ぐんで一人で帰ってくれるか」
「えーっ……ちょっとそれはないんじゃないの?今は、こう、ドブっぽいガワを押し着せられているけど本当はもっと凄いのよ、もっとこんなんじゃなくて……ゴージャスで清楚で見惚れるような格好で」

 どうひいき目に見ても土方のお姉さんが関の山の見た目ではあるが、一向はその主張する内容に注目した。この人物は自分が改変される前のことを覚えている。

「今まで私達が見てきた被害者は自分の元なんて覚えていなかったけど、あなたは覚えていると?」
「もう大分薄ぼんやりした感覚だけど、本当にこんなんじゃないの!信じてよぅ!」
「信じるも何も、このドブヶ丘に取り込まれた連中は徹底的に存在改変されて記憶のかけらも残っちゃいない。そういう意味では大したもんだ。だが、今じゃこの一帯に安全な場所なんてほとんどないし、どこにいても似たようなもんで、俺たちが送らなくても同じだろう」
「……あるわよ」
「なに?」
「あるって言ってんのよ安全な場所。ウチのお社はまだ汚染されてない区画なの。あんた達、外の人間でしょ。延々この空気吸わされるのもキツイでしょうし、休ませてやってもいいわ」

 一同、顔を見合わす。が、一番に音を上げたのは他ならぬ黒いやつだった。

「補給と休養ができるならそうしたい、このまま無理を押しても干からびそうだ」
「いいじゃろう、露出会にも活発な動きは感じられぬし」
「同感だね。それじゃお言葉に甘えよう」

 アノートが手を差し伸べて、名称不定の自称神を助け起こした。外観は何度見ても夏の日のドブが香る工事現場の土方お姉さんであり、神性と呼べる雰囲気はまるで無い。恐るべきは、神格ですらその存在を捻じ曲げてしまうこのドブヶ丘、といったところか。

―――――

 相変わらず現代日本の都市とは思えない、乱雑にとっちらかった昭和のケオスを思わせるバラック街をすり抜けて、朱塗りの面影もない鳥居をくぐり抜ける。一行がたどり着いた場所は、まさしく別世界だった。初夏の陽が差し込む林の中に、まっとうな意匠の神社が建っている。日本にはよくある、土地付きのお社だ。

 レイヴンは、空気感からして、異世界に放り込まれたような気分になったが、元はと言えばこちらが自分たちの世界なのだ。先人たちが少しずつ汚染を浄化してきた世界である。ドブヶ丘の方ではない。

「まあ、なんだ。詐欺ではなくて何よりだ」
「なんなのよ、信じてなかったっての?」
「何事も自分の眼で見るまでは話半分に聞く質で」
「良いわよ、この辺があの有様じゃ信用できなくても無理はないし。あがんなさい、まだ消費期限切れ前の食料もあるし」
「おお、おお、地獄にホトケじゃのう!」
「神さまだっつってんでしょ!崇めなさい讃えなさい、じゃないとすぐに追い出すわよ」
『ハハ~ッ』

 ひれ伏す三人。ドブヶ丘では淡水からドブ溜まりに跳ねてしまった金魚も同然であれば、休養できるまともな環境はまさに砂漠のオアシスに等しい。

【全裸の呼び声 -56-:終わり|-57-へと続く第一話リンクマガジンリンク

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