全裸の呼び声 -57- #ppslgr
「まともな飯、水、空気を恵んで貰えるなら、靴だって舐める。今なら」
「恩人なんだからしなくていいって、そんなこと」
「気持ちはわかるんじゃな」
「まったくです」
空気の淀みがオーラとなって目に見えるドブヶ丘地帯に比べれば、ごく普通の空間がどれだけありがたいものなのか身に染みる三人である。レイヴンは、水を求める荒野の世紀末覇者よりもおぼつかない足取りで境内に足を踏み入れたが、ラオが待ったをかけた。
「待つのじゃ」
「敵か?」
「ヌウーッ……!?」
突如、ラオの股間のまばゆい輝きが一層強くまたたいた。真冬の北極星よりもなお輝かしきさまは、まるで白夜の太陽のようであり、ブレることなく空の一点を指す。
「強大な露出力の持ち主が近づいて来ておる……!」
「なんて?」
言いたいことは伝わったが言い回しの妙さに、思わずツッコミを入れる。そんな彼の耳にも、間もなく甲高く大気を切り裂く飛行音が届く。まるで超人の弾丸飛翔音だ。そして間もなく、それは来た。
撃ち出された砲弾もかくやの勢いで降り来たった存在は、石畳を打ち砕く寸前にまるで羽毛が舞うよりも軽やかに大地に降り立つ。全身は均整の取れた大理石像のごとく研ぎ澄まされ、一片の余分もない。足の先から頭頂にいたるまで覆う隆々たる筋肉は、戦車の傾斜装甲を思わせる。彫りの深い顔立ちは厳粛なる意思が刻まれ、このオアシスめいた神社に至ってなお微動だにしなかった。
だが、何よりも特徴的なのは、その股間だ。現れた異物の股間は倫理的規制にもとづく規制黒塗りなど歯牙にもかけないほど、暗く、黒い。まるであらゆる光を食いつぶす吸収率99%の塗料にも、銀河のど真ん中に居座り揺らぐことのないブラックホールにも感じられた。
突然の闖入者に、間髪入れずに踏み込んだのはレイヴンだった。彼は獲物を射程に捉えた猫科肉食獣のしなやかさでもって、すくい上げるように手刀を振るう。その一撃は、あっさりと闖入者の寸前で止まった。相手の指先二本で。
続いて、上方からアノートが獰猛な殺戮大鉈を振るうも、そちらも血飛沫をあげることなく停止する。
「ヌゥン」
全裸の闖入者がひと息に腕をふるえば、二人は木っ端のごとく宙を待った。車田飛び。高々と宙を舞った後に、レイヴンは二回転宙返りからの拳を地に叩きつけて着地、アノートは猛禽の着地めいて重量を感じさせぬランディングを見せた。
「フゥン、カニオストロとオク・ダークを倒した連中とは思えんな。特にそちらの黒ずくめ、貴様の一撃は真冬の蚊の一刺しよりも覇気がなかったぞ。キャッチャーフライどころか綿毛が良いところだ」
「お陰様で超過勤務でな」
軽口を叩いて見せるも、表情は厳しい。着地際を攻めたにもかかわらず、相手は小揺るぎさえせずに二人の一撃を防いだ。紛れもない強敵だ。
【全裸の呼び声 -57-:終わり|-58-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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