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武川蔓緒
2022年8月13日 23:55
かつては駕籠。時はすすみ人力車。そしてクルマ。と、私の一族を数百年、形は変れど、迎えつづける男が独り、いる。「一族」「貴い家柄」……なんて、笑止千万。昔の話。乱れ崩れうらぶれた果て、唯独りのこった末裔は、クラブホステスの私。それでも、迎えはくる。前当主の父が変死したその日、喜助は私のもとに現れた。父とは疎遠ゆえ、他人より「○○家当主には迎えの従者が今もいる」と伝説か冗談の
秋谷りんこ(あきや りんこ)
2021年11月27日 09:41
春 薄くぼんやりと曇った土曜日。あっという間に散った桜が終わった途端、気温の高い日が続いている。 私はいつものバス停で、いつも通り少しだけ早く家を出て、背中越しにピアノの音を聞いている。それは、Jの奏でる旋律。私の少し汗ばんだ背中から、痩せた背筋を抜けて、背骨の中心を通って、肋骨に響き、胸の真ん中に届く。私の情緒を落ち着かせる、静かな安寧。 Jのピアノを初めて聴いたのは去年の春だった。バ